ボワルセル系

ボワルセル系：栄光と凋落の系譜

サラブレッドの父系系統の一つ、ボワルセル系。その名は、1935年生まれの英ダービー優勝馬ボワルセルに由来します。本稿では、この系統の隆盛期から衰退、そしてほぼ消滅に至るまでの歴史を、主要な種牡馬とその産駒の活躍を中心に解説します。

セントサイモン系からボワルセルへ

ボワルセル系の起源は、セントサイモン系の晩年の産駒であるチョーサーに遡ります。チョーサー自身はクラシックレースで善戦止まりでしたが、種牡馬としては一定の成功を収めました。しかし、その活躍馬は牝馬に偏っており、他の父系への繁殖牝馬供給が主でした。イギリスでは父系はすぐに途絶えましたが、フランスで小父系を形成し、その流れからボワルセルが誕生しました。

ボワルセルは、ダービー21倍人気という低評価を覆し、驚異的な末脚で優勝。セントサイモン系に25年ぶりのダービー勝利をもたらしました。しかし、パリ大賞ではネアルコに敗れ、その後故障により短命な競走馬生活を終えます。

種牡馬としての成功と、ネアルコとの明暗

種牡馬となったボワルセルは、凱旋門賞馬ミゴリ、セントレジャー優勝馬テヘランなど、多くの活躍馬を輩出。1949年にはネアルコを上回り、リーディングサイアーに輝いたとする資料もあります。しかし、種牡馬としての成功率は低く、父系の広がりはネアルコ系に大きく水をあけられることとなります。

ボワルセルの主要な後継種牡馬は、テヘラン、ミゴリ、ヒンドスタンの3頭です。これらの馬は、イギリス、アメリカ、日本などで活躍馬を出し、ボワルセル系の名を世界に轟かせました。

テヘランとその産駒：国際的な活躍

テヘランは、セントレジャー優勝馬であり、種牡馬としても10万ポンドという高額のシンジケートが組まれるなど、高い評価を得ました。その代表産駒タルヤーは、7戦7勝という驚異的な成績を収め、巨額の賞金を獲得。しかし、タルヤー自身は種牡馬としては成功せず、その子孫は主に障害競走や馬術競技で活躍しました。一方、テヘラン産駒のTale of Two Citiesはチリでリーディングサイアーとなり、その産駒クーガーはアメリカで活躍し、米国競馬の殿堂入りを果たしました。日本では、テヘラン産駒のゴールドアローが種牡馬として供用され、中央重賞勝ち馬を輩出しました。

ヒカルメイジとヒンドスタン：日本のボワルセル系全盛期

ヒカルメイジとヒンドスタンは、日本で種牡馬として成功したボワルセルの産駒です。ヒカルメイジは日本ダービーをレコードで制覇し、ヒンドスタンは愛ダービーとセントジョージステークスを優勝。両馬は、1960年代の日本のリーディングサイアーランキングの上位に名を連ね、この時代は日本のボワルセル系の全盛期でした。ヒンドスタン産駒のシンザンは、日本競馬史上に残る名馬となり、種牡馬としても成功、その子孫は21世紀初頭まで父系を残しました。

ギャラントマン：最後の輝き

ギャラントマンは、ミゴリ産駒でアメリカで活躍した馬です。種牡馬としては成功しませんでしたが、その子孫はボワルセル系の中で最後まで生き残りました。日本では、ギャラントマンの孫にあたるマキバスナイパーが最後の重賞馬となり、種牡馬としても供用されました。

ボワルセル系の衰退と消滅

1970年代以降、ボワルセル系は衰退の一途を辿り、1990年代後半にはほぼ消滅しました。現在では、その子孫はごくわずかしか残っておらず、父系としての存続は絶望的です。

系図の痕跡

ボワルセル系は、その華々しい活躍にもかかわらず、種牡馬としての成功率の低さや、時代の流れに抗しきれず、歴史の表舞台から姿を消しました。しかし、その系図の中に刻まれた名馬たちの輝きは、サラブレッドの歴史において永遠に語り継がれるでしょう。

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