ボート・トレイン

ボート・トレインとは

ボート・トレイン、または船車連絡列車とは、船との接続を目的として、港まで乗り入れて運行された列車のことを指します。時にはポートトレインとも呼ばれますが、日本国有鉄道（国鉄）の公式用語としては「ボート・トレイン」が用いられていました。

本稿では、明治時代から昭和30年代にかけて、主に国鉄の路線で運行されたボート・トレインに焦点を当て、その歴史と各地の状況について詳しく解説します。

ボート・トレインの歴史

第二次世界大戦以前、海外旅行の主な手段は船舶でした。しかし、船旅は時間も費用もかかるため、一般の人々にとっては気軽なものではありませんでした。そこで、海外旅行者や見送り客の便宜を図るため、都市部から港までを結ぶボート・トレインが運行されるようになりました。

その始まりは1912年（明治45年）、福井県の敦賀からロシアのウラジオストクへの航路に接続する形で、東京駅と金ヶ崎駅（後の敦賀港駅）間を結んだ列車です。その後、1920年（大正9年）には、横浜港からアメリカのサンフランシスコへの航路接続のため、東京駅と横浜港駅間で運行が開始されました。さらに、神戸港駅、長崎港駅、新潟港駅などでも、それぞれヨーロッパ、上海、朝鮮半島への航路に接続するボート・トレインが運行されるようになりました。

しかし、第二次世界大戦が勃発すると、ヨーロッパ航路はほぼ運休となり、日米関係が悪化するとアメリカへのボート・トレインも実質的に運行停止となりました。

戦後、1950年代に入ると、航空機が海外旅行の主流となり、ボート・トレインは次第に姿を消していきました。ただし、1957年から1960年までの間、横浜港とシアトルを結ぶ航路に合わせて、東京駅と横浜港駅間にボート・トレインが復活した例もあります。また、近年では秋田港に入港するクルーズ客船に接続する列車が運行され、かつて貨物駅だった秋田港駅に旅客ホームが設置されるなど、新たな動きも見られます。

各地のボート・トレイン

横浜港駅

横浜港駅は、1911年に貨物駅として開業しましたが、1920年にボート・トレインの運行が開始されました。東京駅から東海道本線を経由し、鶴見駅から分岐する貨物線（高島線）を通って横浜港駅に到着するルートでした。当初は新橋、品川、大森駅に停車していましたが、後に大森駅が停車駅から外されました。

戦時中に運行が中断された後、1957年に氷川丸によるシアトル航路に合わせて運行が再開されました。この時期の列車は、市販の時刻表には掲載されていませんでした。1959年頃には、東海道本線区間はEF58形電気機関車が牽引し、鶴見駅で蒸気機関車との付け替えが行われていました。

1960年、氷川丸の最後の航海とともにボート・トレインは廃止されました。その後、横浜港駅は貨物駅として存続しましたが、1986年に廃止されました。現在は、一部が「汽車道」として整備され、観光名所となっています。

新潟港駅

1931年に上越線が全通すると、新潟港から朝鮮半島や満州への航路が開設され、東京と新京（現在の長春）を結ぶ最短ルートとして注目されるようになりました。1940年からは、新潟駅手前の沼垂駅から新潟港への専用線が設けられ、1942年には新潟港駅が開業しました。しかし、戦争の激化により航路が途絶え、ボート・トレインも運行停止となりました。新潟港駅は1986年に廃止されています。

敦賀港駅

敦賀港駅は、1882年に金ヶ崎駅として開業しましたが、路線が延伸すると盲腸線化し、一時旅客扱いが廃止されていました。1902年に敦賀港とウラジオストクを結ぶ航路が開設されると、その重要性が増し、1912年に東京駅からの直通列車が運行開始されました。第一次世界大戦やロシア革命の影響で一時中断しましたが、1927年に再開されました。第二次世界大戦の勃発とともに運行は縮小し、太平洋戦争の激化により消滅しました。

1999年には、敦賀港開港100周年を記念して、蒸気機関車牽引の旅客列車が乗り入れ、国際連絡運輸時代の姿を再現する試みが行われました。

神戸港駅

神戸港では、1907年に小野浜荷扱所（後の小野浜駅）が開業し、1924年には神戸港駅が開業しました。京都駅と神戸港駅を結ぶボート・トレインは、日本郵船の欧州航路に接続していました。当初は大阪駅と住吉駅に停車していましたが、後に大阪駅のみの停車となりました。第二次世界大戦の勃発とともに運行は休止され、戦後復活することはありませんでした。神戸港駅は2003年に廃止されました。

長崎港駅

長崎港からは、明治時代から上海航路が開かれており、1930年には長崎本線を延伸する形で長崎港駅が開業しました。門司駅からの直通列車が運行され、関門連絡船を介して東京駅との間を結ぶ特急列車とも接続していました。1942年には関門トンネルが開通し、東京からの直通列車も乗り入れるようになりました。しかし、航路が途絶えるとボート・トレインも消滅しました。長崎港駅は1987年に廃止されました。

その他のボート・トレイン

大阪商船や近海郵船の基隆航路では、台湾の基隆駅と基隆岸壁の間でボート・トレインが運行されていました。

まとめ

ボート・トレインは、かつて海外への旅を支えた重要な交通手段でした。その歴史は、日本の国際交流の歴史と深く結びついており、鉄道史における重要な一ページを飾っています。各地に存在したボート・トレインの駅跡は、現在ではその歴史を伝える貴重な遺産となっています。

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