ボーフム/ゲルゼンキルヒェン市電

ボーフム/ゲルゼンキルヒェン市電（ドイツ語: Straßenbahn Bochum/Gelsenkirchen）は、ドイツの主要な工業地帯であるルール地方、特にノルトライン＝ヴェストファーレン州に広がる路面電車網です。ボーフム、ゲルゼンキルヒェン、ヘルネなど複数の都市を結んでおり、全長は84kmに及び、そのうち約12kmは地下区間となっています。1894年の開業以来、一貫して地元の公共交通事業者であるBOGESTRA（ボゲストラ）によって運営され、地域住民の移動手段として重要な役割を果たしています。

歴史

開通から第二次世界大戦まで

ルール地方の産業都市に初めて路面電車が開通したのは1894年 11月23日のことでした。開業当初の路線は全長6.8kmで、所要時間は25分でした。最新の交通手段への戸惑いもあったものの、翌年には予想を上回る利用者の多さから増便が実施され、それまで都市間を結んでいた乗合馬車を駆逐するほどの人気を博しました。1896年 1月13日には、この路面電車網を運営するボーフム/ゲルゼンキルヒェン路面電車会社（BOGESTRA）が設立されます。この時点で路線網はゲルゼンキルヒェンにも拡大し、全長37km、11系統を有するまでに成長していました。

その後も急速な拡大は続き、1900年には53.1km、1904年にはついに100kmを超えました。同じ1904年には、鉄道との平面交差を避けるための初の地下区間が登場します。車両は大型化が進み、制動装置の強化など安全対策も施され、1906年には連結運転も開始されました。設立当初、運営は提携を結んでいたジーメンス・ウント・ハルスケが行っていましたが、負債増加により1907年に提携は解消され、以降はBOGESTRAが単独で運営を担っています。

第一次世界大戦中、多くの男性従業員が兵役についたため、女性が運転士などの業務を担いました。利用客数は一時減少するも、戦時輸送の需要などから急増しました。終戦後、敗戦に伴う経済的混乱とハイパーインフレーションにより、運賃や従業員の給与は高騰し、会社の損失が増大、利用客数も激減しました。これにより、一部区間では運行休止を余儀なくされました。

経済が落ち着きを取り戻すと共に路面電車も復興し、1924年にはBOGESTRAの経営が黒字に転換、翌1925年には利用客数も回復しました。新型車両導入や路線延長、車庫建設など規模拡大が進み、1931年には破産した民営事業者ヴェストファーレン路面電車会社の路線運営を引き継ぎ、1938年に買収して自社網に組み込みました。これにより、1926年に開始したバス事業と合わせて、BOGESTRAは当時のドイツ最大級の公共交通事業者となりました。

第二次世界大戦が始まると、トラック輸送を補うため貨物輸送も実施され、輸送量は大幅に増加しましたが、車両増備が追いつかず混雑が悪化しました。また、道路建設や路面電車網の拡張工事には、強制労働収容所の囚人多数が動員されました。1944年 11月、連合国軍による空襲でボーフムやゲルゼンキルヒェンは壊滅的な被害を受け、BOGESTRAの交通網も大きな損害を被りました。

戦後、西ドイツ時代

終戦後の1946年から復旧作業が始まりましたが、物資や電力が不足し、車両の半数以上が使用不能という厳しい状況でした。蒸気機関車を改造した電気式蒸気機関車が使われるほどでしたが、1949年には戦前の路線網がほぼ復旧し、使用可能な車両も確保されました。1950年時点での年間利用客数は、バスを含め1億900万人に達しました。

1950年代は、炭鉱や製鉄業の隆盛による都市発展が公共交通需要を押し上げました。これに応えるため、車庫の増設に加え、車両の増備と大型化が進みました。1953年にはデュッセルドルフ車両製造（デュワグ）製の大型ボギー車が登場し、1955年からは既存の2軸車を改造した3車体連接車、翌1956年からは新造の2車体連接車が導入されました。BOGESTRAの年間利用客数は1959年に1億7,000万人でピークを迎え、バスを含む営業キロは535kmに達しました。

しかし、運営コストの増加により、運賃値上げや信用乗車方式導入による車掌廃止など対策が講じられました。1965年までは安定した業績を保ちましたが、1966年以降は利用客減少が顕著となり、赤字に転落しました。1972年にはヴェストファーレン路面電車から引き継いだ12号線が廃止されました。一方で、1974年のFIFAワールドカップに合わせて車両増備が行われたほか、ルール大学ボーフム開設に伴う経路変更も実施されました。

1970年代以降の大きな変化は、路面電車を高規格の地下路線に移設し高速化を図る「シュタットバーン」の導入です。最初の地下区間は1970年に着工され、1979年 5月26日に開通しました。これに先立ち、1976年にはシュタットバーン対応車両であるM6S・M6Cが導入されました。シュタットバーン路線はその後も拡張され、1981年、1984年にも新たな区間が開業しています。

運営面では、1980年以降、BOGESTRAの交通網はライン＝ルール運輸連合に統合され、他の事業者が運行する公共交通との乗り継ぎが円滑に行えるようになりました。

ドイツ再統一後

ドイツ再統一後も近代化は継続し、1992年には初の部分超低床電車であるNF6Dが登場しました。同時期には環境意識の高まりを受け公共交通が見直され、1995年にはルール動物園（現：ツォーム・エアレープニスヴェルト）への地下区間が開通しゲルゼンキルヒェン中心部が地下化、2006年以降はボーフム中心部の大部分も地下のシュタットバーンとなりました。地上区間の路面電車も、2017年にボーフム東部方面への延伸が行われています。

車両と施設の更新も継続しており、2007年以降は100%超低床電車であるバリオバーンの導入により、従来の高床式車両や構造的欠陥が指摘されたNF6Dの置き換えが進んでいます。また、2005年にはボーフム市内に分散していた車庫機能を統合した新しい車両基地が開設されました。車両以外の利便性向上策として、音声案内付き表示機やエスカレーターの増設なども進められています。これらの施策により、2017年度にはバスを含む年間利用客数が1億4,510万人という高い水準を記録しました。

運行

BOGESTRAが運行する鉄道路線のうち、ボーフム・シュタットバーンU35系統を除く路面電車・シュタットバーン系統は多岐にわたります。運行間隔は平均7.5分と高頻度で、最大でも30分間隔が確保され、利用しやすいダイヤが組まれています。

ボーフムやゲルゼンキルヒェンの中心部は地下区間（シュタットバーン）となっており、多くの駅や電停でバリアフリー化が進められていますが、一部未対応の停留所も存在します。車両基地はボーフムとゲルゼンキルヒェンに合計2箇所あります。

夏季や年末年始などの長期休暇中は、「ナイトエクスプレス」と呼ばれる深夜系統が運行され、路面電車も一部系統が深夜帯に運行されます。

ボーフム/ゲルゼンキルヒェン市電の一部区間には、エッセンの交通事業者であるルールバーンが運営する路面電車やシュタットバーンが相互乗り入れを行っています。

車両

現有車両

バリオバーン

バリオバーンは、車内全体を100%低床構造とするため、独立車輪式台車の輪軸外側に主電動機を配置した超低床電車です。元々ABBが開発し、現在はシュタッドラー・レールが製造しています。ボーフム/ゲルゼンキルヒェン市電では、両運転台の5車体連接車が使用されています。2004年以降、複数回にわたり発注が行われ、2008年から運行を開始しました。2015年までに1次車45両が導入され、その後は仕様変更された2次車が製造され、2021年までに合計87両が運用についています。同年以降、営業車両はすべてバリオバーンに統一されました。各車両には沿線自治体にちなんだ愛称が付けられています。

過去の車両

M6S・M6C

シュタットバーン化に合わせて導入されたデュワグ製の2車体連接車です。1976〜1977年に抵抗制御のM6Sが33両、1981〜1982年にサイリスタチョッパ制御のM6Cが22両導入されました。高床式のためバリアフリーに課題があり、バリオバーン導入により置き換えが進みました。末期は一部区間の工事に伴う臨時増発でM6Cが使用されるのみとなり、2020年 9月27日に営業運転を終了しました。廃車された一部車両はトルコのブルトラムやドイツのミュールハイム市電、ポーランドのウッチ市電へ譲渡されています。

NF6D

デュワグが製造した3車体連接式の部分超低床電車です。1992〜1994年に42両が導入されました。中間車体に独立車輪式の「EEF台車」を採用しましたが、構造が複雑で耐久性に難があり、後に亀裂が発見されました。そのため運行時は速度制限が課され、バリオバーン増備により置き換えが進み、2020年までに営業運転から離脱しました。多くはポーランドのウッチ市電へ譲渡されています。

その他

ボーフム/ゲルゼンキルヒェン市電では、過去に使用された車両の一部が動態保存されています。また、教習車やイベント用車両「Bogie-Bahn」も在籍しており、イベントなどで不定期に運行されます。これらの車両は、民間の非営利団体であるBOGESTRA歴史的車両連盟によって維持管理されています。

40号: 1968年製のデュワグ製2車体連接車。1980年に事故に遭うも、シュタットバーン対応改造を経て1984年に復帰した経歴を持ちます。
96号: 1948年製の2軸車。第二次世界大戦中の戦時設計車両を基に設計されたグループの一員で、1976年まで営業運転された最後の2軸車でした。一度博物館に保存された後、1995年にBOGESTRAへ返却され、改修を経て1999年から動態保存運転されています。
620号: 1968年製の路面電車向け教習車。営業用連接車を基にした片運転台のボギー車で、教習に必要な設備を備えています。現在も教習車両として使用されています。
88号: 1969年製のデュワグ製2車体連接車（製造時48号）。シュタットバーン対応工事を経て1988年まで使用された後、内装改造と番号変更を経てイベント用車両「Bogie-Bahn」として活用されています。

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