ボールトンポール

ボールトンポール社：旋回銃座の専門家から航空機メーカーへ

ボールトンポール社(Boulton Paul Aircraft Ltd)は、イギリスを代表する航空機メーカーとして、1914年から1961年までその名を歴史に刻みました。1797年創業の工具メーカーを起源とし、第一次世界大戦中には他社設計機の製造で名を馳せました。ソッピース キャメルやRAF F.E.2といった戦闘機の組立を手掛け、戦後はデ・ハビランド バンパイアなどの生産にも携わっていました。

しかし、ボールトンポール社が真にその存在感を示したのは、航空機そのものよりも、その技術力にありました。同社は、イギリスで初めて動力旋回銃座を開発したことで知られています。ボールトンポール オーヴァーストランド爆撃機に搭載されたこの革新的な技術は、ブリストル ブレニムやロッキード ハドソンといった多くの爆撃機に採用され、イギリス空軍の戦力強化に大きく貢献しました。その結果、ボールトンポール社は航空機メーカーというよりも、むしろ旋回銃座の製造メーカーとしてイギリスにおいて大きな役割を担うことになったのです。

航空機の自社開発を放棄したわけではありません。第二次世界大戦初期には、得意とする旋回機銃技術を活かし、独自の戦闘機、ボールトンポール デファイアントを開発しました。この戦闘機は、固定機銃を持たないという、当時としては非常に珍しい設計が特徴でした。しかし、動力旋回銃座の重量増加が戦闘能力に悪影響を与え、結果として失敗作と評価されることになります。デファイアントは、後世においてボールトンポール社の評価を下げる一因となってしまいましたが、そのユニークな設計は、航空史における珍機として今も語り継がれています。

1961年、ボールトンポール社はダウティ・グループに買収され、ダウティ・エアロスペースと社名変更しました。その後も企業買収は続き、1992年にはTIグループ、2000年にはスミス・インダストリーズと合併、最終的には2007年にGE・アビエーションに買収されるという、幾多の変遷を経験しました。現在では、ボールトンポール社の名は消えましたが、その技術と歴史は、航空史に重要な足跡を残しています。

興味深いエピソードとして、ブラックバーン社がブラックバーン スクア（スキュア）の生産に追われていた際、ボールトンポール社が同社の艦上戦闘機ブラックバーン ロックの生産を肩代わりしたという出来事があります。ロックの生産数は136機で、全てボールトンポール社が生産しました。この際、ボールトンポール社の工場にはデファイアント用とロック用の2種類の異なる旋回銃座が混在し、生産効率の低下を招いたとされています。ロックもデファイアントと同様に戦闘機としては成功作とは言い難かったとされています。

ボールトンポール社の歴史は、技術革新と企業買収の波に翻弄されながらも、航空機産業、特に旋回銃座の開発において大きな貢献を果たした企業としての物語です。その功績は、多くの航空機に搭載された動力旋回銃座という形で、今もなお世界中に残されています。そして、ボールトンポール デファイアントという失敗作は、成功と失敗の両面を備えた、同社の歴史を象徴する存在といえるでしょう。

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