ポーター (ビール)

ポーター：暗色エールの歴史と多様性

ポーターは、18世紀にイギリスで誕生した、濃い色合いのエールビールの一種です。その特徴は、焙煎した茶色麦芽を使用している点にあり、焦げた麦芽の香ばしさと、ホップの苦味が絶妙なバランスを生み出しています。醸造には通常、軟水が用いられます。

ポーターの概要

ポーターは、その誕生以来、様々な変遷を遂げてきました。アルコール度数が高いものは「スタウト・ポーター」と呼ばれていましたが、後に「スタウト」として独立したスタイルを確立しました。ギネス社の代表的なブランド「エクストラ・スタウト」も、元々は「エクストラ・スペリオール・ポーター」という名で親しまれていました。

「ポーター」という名前の由来は、テムズ川で荷物を運ぶ労働者（ポーター）たちが好んで飲んでいたことにあります。彼らの間で人気を博したことが、このビールの名前の由来となりました。

ポーターの歴史

18世紀当時、ロンドンでは、古くなって酸味が出たブラウン・エール、ペールエール、そして新しいブラウン・エールを混ぜて飲む「スリー・スレッド」という飲み方が流行していました。しかし、この方法は提供する側にとって手間がかかるものでした。そこで、1722年にロンドンの醸造家ラルフ・ハーウッドが、あらかじめ混ぜておいた「エンタイア」というエールを販売したところ、これが大好評となりました。特にポーターたちに人気があったことから、このビールは「ポーター」と呼ばれるようになったと言われています。

ポーターの製法はイギリス全土に広まりましたが、ロンドンの水質が影響したのか、ロンドン以外で作られたポーターは味が劣ることが多かったようです。そのため、ロンドンで作られたポーターは「ロンドン・ポーター」として区別されることもありました。

初期のロンドン・ポーターは、現代の基準から見ると非常に濃いビールでした。1770年の試験では、初期比重1071、アルコール度数6.6%と記録されています。ナポレオン戦争中の増税により、初期比重は一時1055まで下がりましたが、その後も様々な強さのポーターが製造されるようになりました。例えば、初期比重1066程度のシングル・スタウト・ポーター、1072のダブル・スタウト・ポーター（ギネスがこれに該当）、1078のトリプル・スタウト・ポーター、そして1095のインペリアル・スタウト・ポーターなどが存在しました。

19世紀が進むにつれて、これらのポーターの亜種は徐々に姿を消していきましたが、イギリスのビール醸造家は、様々なポーターとスタウトを指す総称として「ポーター」という言葉を使い続けました。

大ロンドンのポーター醸造所は、温度計や液体比重計などの技術を開発しました。特に液体比重計の導入は、ポーターの性質に大きな影響を与えました。当初、ポーターは褐色の麦芽のみを使用して醸造されていましたが、液体比重計によって麦芽の反応割合を正確に測定できるようになった結果、褐色の麦芽は白い麦芽よりも安価であるものの、発酵性の原料としては3分の2にしかならないことが判明しました。ナポレオン戦争の費用を捻出するための増税も重なり、ビール醸造家は使用する麦芽を減らすようになりました。その解決策として、白い麦芽の割合を増やし、着色料を加えて色調を調整する方法が用いられました。

1816年には、ビールの生産に麦芽とホップ以外の使用を禁ずる法律が可決され、醸造所は頭を悩ませました。しかし、1817年にホイーラーがパテントモルトを発明したことで、この問題は解決されました。現在では、ポーターは白い麦芽95%とパテントモルト5%から醸造されることもありますが、多くのロンドンのビール醸造家は風味付けのためにある程度の褐色の麦芽を使用し続けています。

1800年までは、ロンドン・ポーターは6～18ヶ月間、大きな樽の中で熟成させてからパブに配達されていましたが、必ずしも全てのポーターを熟成させる必要がないことが発見されました。少量の古いビール（18ヶ月以上熟成）を若いポーターに混ぜることで、熟成されたビールに近い風味を作り出すことができたのです。この方法によって、長期保管しなければならないビールの量を減らすことができ、ポーターの製造コストを抑えることが可能になりました。

1860年以降、ポーターの人気は徐々に衰え、「マイルド」ポーターが主流となっていきました。19世紀末には、多くのビール醸造所がポーターの生産を中止し、スタウトのみを醸造するようになりました。ポーターの生産を続けた醸造所でも、より弱く、ホップの使用量が少ないものが作られるようになりました。第一次世界大戦中には穀物不足のため、濃いビールの生産が制限され、イングランド産ポーターは1940年頃に姿を消しました。

アイルランドのポーター

アイルランドでは、ロンドンからの輸入ビールに対抗するため、1780年代頃にポーターの醸造が始まりました。ギネスも1790年代にポーターを導入し、数年間はエールも醸造し続けました。アイルランド（特にダブリン）では、ポーターは「プレイン・ポーター」または単に「プレイン」として知られていました。

特に強いポーターはスタウト・ポーターと呼ばれ、後のスタウトへと発展しました。「プレイン・ポーター」は、現在でもダブリンのポーターハウス小規模醸造所で醸造されています。

バルチック・ポーター

英国からバルト海沿岸地域へ輸出されたポーターの影響で、その地域のビール醸造者もポーターを作り始めました。現在では、バルト海に面した全ての国でポーターが醸造されています。

バルチック・ポーターは、通常のポーターよりもアルコール度数が高く、ラガービール様式の下面発酵ビールとして醸造されることが多いのが特徴です。また、ロシアン・インペリアル・スタウトの影響も受けています。

近年、小規模醸造所の復活により、ポーターの人気は再び高まりを見せており、世界中で様々な種類のポーターが楽しめるようになっています。

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