ポー平原遠征

ポー平原遠征：マゴ・バルカの挑戦と第二次ポエニ戦争の終焉

紀元前203年、第二次ポエニ戦争の終盤、カルタゴの名将ハンニバルの弟、マゴ・バルカがイタリア北西部でローマ軍に対して行った軍事行動がポー平原遠征です。マゴは、兄ハンニバルを支援するため、北イタリアにローマ軍を引きつけ、ローマ本国への侵攻を間接的に阻止しようとしました。

背景：カルタゴの苦境とマゴの決意

イリッパの戦いで敗北した後、マゴはイベリア半島の最後の拠点であるカディスにいました。スキピオ・アフリカヌスによるイベリアの抵抗運動鎮圧を受け、カルタゴ本国はマゴに北イタリアへの侵攻を命じます。これは、当時危機的な状況にあったカルタゴにとって、戦争の主導権を奪還するための最後の機会でした。

ローマはシチリアを奪還し、ハンニバルとの合流を試みたハスドルバル・バルカがメタウルスの戦いで戦死。イベリア半島も占領され、カルタゴはローマ軍の攻撃に対して脆弱な状態となっていました。マゴは傭兵を雇うための資金を与えられましたが、十分な兵力を集めるには足りず、寺院の資産までも動員する必要がありました。

マゴのポー平原遠征

紀元前205年の夏、マゴ率いるカルタゴ艦隊がリグリア海岸に現れ、ジェノアを奇襲。イングアニ族やエパンテリ族と同盟を結びました。リグリアとガリア・キサルピナは、マゴの作戦にとって最適な地でした。ローマはポー平原で現地部族に勝利していましたが、ガリア人を完全に支配できておらず、彼らはしばしば反乱を起こしていました。

マゴの軍は日に日に拡大し、ガリア各地から人々が集まってきました。ローマ元老院はこれを重大な脅威とみなし、アリミヌムとアッレティウムに軍を派遣してマゴの南下を阻止しようとします。しかし、カルタゴからの援軍を得た後でも、マゴ軍の兵力はローマ軍の防衛線を打ち破るには不十分でした。

スキピオの副官ガイウス・ラエリウスがアフリカに上陸し、ヒッポ・レギウス付近を略奪したため、カルタゴはスキピオによるアフリカ侵攻を阻止するためにあらゆる手段を講じました。ヌミディアとの関係を再構築し、ハンニバルとマゴに援軍を送りましたが、効果は限定的でした。紀元前204年、スキピオはアフリカに上陸し、カルタゴ本国への圧力を強めます。

マゴはガリア人とリグリア人の首長たちと会談し、彼らをローマから解放することを約束しましたが、そのためには更なる兵力が必要だと訴えました。リグリア人は賛同しましたが、ガリア人はローマ軍の脅威を恐れ、秘密裏に物資と傭兵を提供しました。

同じ頃、プロコンスルのマルクス・リウィウス・サリナトルがエトルリアからガリア・キサルピナに移動し、マゴの進路を遮断。しかし、リウィウスは防御態勢を維持し、紀元前204年には大きな動きはありませんでした。ローマも長年の戦争で疲弊しており、戦意は低下していました。

インスブリアの戦い

紀元前203年、ケテグスとウァルス率いるローマ軍がインスブリア族の土地に進軍し、マゴ軍と対峙しました。両軍は二段構えの戦列を敷き、ローマ軍は2個軍団を前方に、残り2個軍団と騎兵を後方に配置。マゴはガリア兵を後方に配置し、戦象も配置しました。

戦闘が始まると、カルタゴ軍の前方戦列は健闘しましたが、後方のガリア兵は信頼性に欠けました。ローマ軍はカルタゴ軍の戦列を突破しようとしましたが失敗し、ウァルスは騎兵を突撃させようとします。しかし、マゴはこれを予測しており、戦象を前進させました。ローマ騎兵は混乱し、ヌミディア騎兵が追撃。戦象はローマ歩兵に損害を与えましたが、ケテグスが後方のローマ軍団を投入すると、カルタゴ軍は不利になります。戦象は投槍で攻撃され、多くが倒れ、残りはカルタゴ軍に突っ込みました。マゴはガリア兵にローマ軍の反撃を阻止させようとしましたが、失敗しました。

カルタゴ軍は5,000人の損害を出して撤退し、マゴ自身も重傷を負いました。ローマ軍も少なくない損害を出し、完勝とは言えませんでした。マゴは敗北を認め、リグリア海岸まで撤退しました。

評価と影響

マゴの敗北は、カルタゴにとって重大な挫折でした。ローマはポー平原の支配を維持し、戦争初期の状況を再現することはできませんでした。スキピオ・アフリカヌスによるアフリカ侵攻を阻止できず、マゴ自身も祖国防衛のためにカルタゴに戻らざるを得なくなりました。カルタゴからの命令を受け取ったマゴは、兵の一部を率いてアフリカに向けて出帆しました。

マゴは航海の途中で戦傷が原因で死亡したとも、リグリアに戻り少なくとも2年間滞陣していたとも言われています。第二次ポエニ戦争終結後も、ローマ軍は北イタリアでカルタゴの残党と戦う必要がありました。紀元前203年のマゴの敗北は、ガリア人がローマからの独立を維持しようとする最後の試みとなりました。

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