マイク・ディミュロ
マイク・ディミュロ（本名：マイケル・ライアン・ディミュロ）は、1967年10月12日にアメリカ合衆国ニューヨーク州ダンカークで生まれた野球審判員です。彼のキャリアは特異であり、日米双方のプロ野球で審判を務めました。特筆すべきは、彼の父ルーも1963年から1982年までメジャーリーグの審判員として活躍しており、さらに息子のケーシーも現在マイナーリーグで審判員を務めるという、異例の三世代にわたる審判員一家の一員であることです。
ディミュロは1990年にサンディエゴ大学を卒業した後、ジム・エバンス審判学校で学び、翌1991年にはルーキー級のアリゾナリーグでプロの審判としての第一歩を踏み出しました。その後、1992年にはA級、1993年から1994年にかけてはAA級で経験を積み、1996年にはAAA級のパシフィックコーストリーグへと順調に昇格していきました。若手審判員の中でも、メジャーリーグへの昇格が最も有力視される存在として注目されていました。
1997年の日本での経験を経てアメリカに戻ったディミュロは、再びパシフィックコーストリーグで審判を務め、1999年に念願のメジャーリーグデビューを果たしました。メジャーでの審判番号は父ルーと同じ16番を受け継ぎました。MLBでは球審として、トム・グラビンの通算200勝達成試合や、ロジャー・クレメンスの通算250勝達成試合といった歴史的なマイルストーンとなった試合を担当しています。また、2005年にはデトロイトのコメリカ・パークで開催されたオールスターゲームにおいて、三塁塁審を務めるなど、主要な試合でも活躍しました。2019年7月18日、MLBからディミュロの審判引退が発表され、彼のメジャーリーグでのキャリアに幕が下ろされました。
ディミュロのキャリアにおける最も特筆すべき、そして波乱に満ちた期間は、1997年の日本プロ野球セントラル・リーグへの派遣でした。当時のセ・リーグ会長であった川島廣守氏は、アメリカの先進的な野球技術を日本に導入することを目指しており、その一環として審判技術の向上を図るべく、MLB機構に将来有望な審判員の派遣を依頼しました。これに応じる形で、将来のMLB昇格が確実視されていたディミュロが、そのレベルに近い審判員として日本に派遣されることになりました。
ディミュロは同年2月に来日し、オープン戦からセ・リーグの公式戦に準ずる形で審判を務めました。しかし、日米間の文化やルールの解釈の違いが、すぐに表面化します。特に、彼がジャッジするストライクゾーンが、当時の日本球界で一般的だったものと異なり、「外角に広く内角に狭い」傾向があったこと、さらに日本の審判が採用していた「カウンタークロックワイズ・フォーメーション」という複雑な立ち位置の取り決めに慣れていなかったこと、そして何より日常会話すら困難なほどの言語の壁が、大きな問題となりました。他の審判員との連携が円滑に進まず、意思疎通の難しさから、現場からはディミュロに対する不満が噴出しました。一方で、ディミュロを招聘した川島会長は、「これがアメリカの野球なのだから理解してほしい」と、彼を積極的に起用し続けました。
この状況下で、象徴的な出来事がいくつか発生します。1997年5月17日の阪神対ヤクルト戦では、判定に抗議した阪神の吉田義男監督が、ディミュロの腹部を指で突いた行為に対し退場処分を受けました。この退場理由について、ディミュロ本人は通訳を介した意思疎通を拒否されたことや身体に触れられたことを理由にルールブック通りの判断だと説明しましたが、責任審判は「暴言があった」としており、両者の間の意思疎通の困難さや日本の審判団との見解のずれを示す出来事となりました。
さらに決定的な事件は、同年6月5日の中日対横浜戦で起きました。球審を務めていたディミュロは、6回裏、打席に立った中日の大豊泰昭への際どい外角低めへの2球目をストライクと判定。これに納得いかない大豊は抗議しましたが、その場は収まります。しかし、続く3球目の明らかなボール球に対し、直前の抗議に対する報復とも取れるストライク判定を下しました。当時のメジャーリーグでは、審判への不満表明に対する報復判定は珍しくありませんでしたが、日本の球場では前代未聞の事態でした。この判定に激昂した大豊選手がディミュロに詰め寄ろうとすると、ディミュロは即座に退場を宣告。直後に激昂した中日の星野仙一監督やコーチ数名がディミュロを取り囲み、バックネット方向に追い詰めて罵声を浴びせるという事態に発展しました。大豊選手は後に著書で「横浜側も『あれは酷かった。誰が見てもボールだった』と言っていた」と記しています。
メジャーリーグでは審判の判定はほぼ絶対とされ、選手や監督が一人で抗議することはあっても、集団で審判を取り囲んで猛抗議するなどということは考えられない行為でした。長良川球場での一件で大きなカルチャーショックを受けたディミュロは、試合後、「審判としてのキャリアの中で経験したことのない恐怖を感じた」と語り、翌日セ・リーグ事務局に辞表を提出しました。当初事務局は引き止めようとしましたが、この事件がアメリカでも大きく報じられ、MLB機構が日本への審判派遣にメリットがないと判断し、ディミュロを帰国させるよう要請したため、彼の日本でのキャリアはわずか数ヶ月で幕を閉じました。この一件以降、現在まで日本プロ野球において外国人審判員は採用されていません。日本での審判員袖番号は4番でした。
メジャーリーグ昇格後も、ディミュロはいくつかの場面で注目を集めました。2008年5月23日のヤンキース対マリナーズ戦では、イチロー選手が見逃し三振の判定に抗議し、監督が退場となる事態が発生。試合後、イチロー選手が「審判が退場すべき」「大豊さんの気持ちが分かった」と発言し、日本のファンにもディミュロの名が再び知られることとなりました。同年9月19日のレイズ対ツインズ戦では、レイズのペーニャ選手の打球を一塁塁審として二塁打と判定しましたが、ビデオ判定によりメジャーリーグ史上初めて本塁打に訂正されました。また、2012年6月26日のヤンキース対インディアンス戦では、左翼手の落球を見落としてアウトと誤審し、抗議した打者ハナハン選手を退場させるなど、判定が問題視される場面もありました。
日本での短い期間にはトラブルが多かったディミュロですが、当時阪神の投手だった藪恵壹は、「ストライクゾーンが確立されていて、それが絶対に変わらなかった」と、審判としての判定能力自体は高く評価していました。良くも悪くも日米の野球文化の違いを浮き彫りにした存在であり、メジャーリーグで長くキャリアを積んだ後、2019年に引退しました。
MLB昇格までの道のり
ディミュロは1990年にサンディエゴ大学を卒業した後、ジム・エバンス審判学校で学び、翌1991年にはルーキー級のアリゾナリーグでプロの審判としての第一歩を踏み出しました。その後、1992年にはA級、1993年から1994年にかけてはAA級で経験を積み、1996年にはAAA級のパシフィックコーストリーグへと順調に昇格していきました。若手審判員の中でも、メジャーリーグへの昇格が最も有力視される存在として注目されていました。
MLBでのキャリア
1997年の日本での経験を経てアメリカに戻ったディミュロは、再びパシフィックコーストリーグで審判を務め、1999年に念願のメジャーリーグデビューを果たしました。メジャーでの審判番号は父ルーと同じ16番を受け継ぎました。MLBでは球審として、トム・グラビンの通算200勝達成試合や、ロジャー・クレメンスの通算250勝達成試合といった歴史的なマイルストーンとなった試合を担当しています。また、2005年にはデトロイトのコメリカ・パークで開催されたオールスターゲームにおいて、三塁塁審を務めるなど、主要な試合でも活躍しました。2019年7月18日、MLBからディミュロの審判引退が発表され、彼のメジャーリーグでのキャリアに幕が下ろされました。
1997年の日本での経験
ディミュロのキャリアにおける最も特筆すべき、そして波乱に満ちた期間は、1997年の日本プロ野球セントラル・リーグへの派遣でした。当時のセ・リーグ会長であった川島廣守氏は、アメリカの先進的な野球技術を日本に導入することを目指しており、その一環として審判技術の向上を図るべく、MLB機構に将来有望な審判員の派遣を依頼しました。これに応じる形で、将来のMLB昇格が確実視されていたディミュロが、そのレベルに近い審判員として日本に派遣されることになりました。
ディミュロは同年2月に来日し、オープン戦からセ・リーグの公式戦に準ずる形で審判を務めました。しかし、日米間の文化やルールの解釈の違いが、すぐに表面化します。特に、彼がジャッジするストライクゾーンが、当時の日本球界で一般的だったものと異なり、「外角に広く内角に狭い」傾向があったこと、さらに日本の審判が採用していた「カウンタークロックワイズ・フォーメーション」という複雑な立ち位置の取り決めに慣れていなかったこと、そして何より日常会話すら困難なほどの言語の壁が、大きな問題となりました。他の審判員との連携が円滑に進まず、意思疎通の難しさから、現場からはディミュロに対する不満が噴出しました。一方で、ディミュロを招聘した川島会長は、「これがアメリカの野球なのだから理解してほしい」と、彼を積極的に起用し続けました。
この状況下で、象徴的な出来事がいくつか発生します。1997年5月17日の阪神対ヤクルト戦では、判定に抗議した阪神の吉田義男監督が、ディミュロの腹部を指で突いた行為に対し退場処分を受けました。この退場理由について、ディミュロ本人は通訳を介した意思疎通を拒否されたことや身体に触れられたことを理由にルールブック通りの判断だと説明しましたが、責任審判は「暴言があった」としており、両者の間の意思疎通の困難さや日本の審判団との見解のずれを示す出来事となりました。
さらに決定的な事件は、同年6月5日の中日対横浜戦で起きました。球審を務めていたディミュロは、6回裏、打席に立った中日の大豊泰昭への際どい外角低めへの2球目をストライクと判定。これに納得いかない大豊は抗議しましたが、その場は収まります。しかし、続く3球目の明らかなボール球に対し、直前の抗議に対する報復とも取れるストライク判定を下しました。当時のメジャーリーグでは、審判への不満表明に対する報復判定は珍しくありませんでしたが、日本の球場では前代未聞の事態でした。この判定に激昂した大豊選手がディミュロに詰め寄ろうとすると、ディミュロは即座に退場を宣告。直後に激昂した中日の星野仙一監督やコーチ数名がディミュロを取り囲み、バックネット方向に追い詰めて罵声を浴びせるという事態に発展しました。大豊選手は後に著書で「横浜側も『あれは酷かった。誰が見てもボールだった』と言っていた」と記しています。
メジャーリーグでは審判の判定はほぼ絶対とされ、選手や監督が一人で抗議することはあっても、集団で審判を取り囲んで猛抗議するなどということは考えられない行為でした。長良川球場での一件で大きなカルチャーショックを受けたディミュロは、試合後、「審判としてのキャリアの中で経験したことのない恐怖を感じた」と語り、翌日セ・リーグ事務局に辞表を提出しました。当初事務局は引き止めようとしましたが、この事件がアメリカでも大きく報じられ、MLB機構が日本への審判派遣にメリットがないと判断し、ディミュロを帰国させるよう要請したため、彼の日本でのキャリアはわずか数ヶ月で幕を閉じました。この一件以降、現在まで日本プロ野球において外国人審判員は採用されていません。日本での審判員袖番号は4番でした。
MLBでの物議を醸した判定
メジャーリーグ昇格後も、ディミュロはいくつかの場面で注目を集めました。2008年5月23日のヤンキース対マリナーズ戦では、イチロー選手が見逃し三振の判定に抗議し、監督が退場となる事態が発生。試合後、イチロー選手が「審判が退場すべき」「大豊さんの気持ちが分かった」と発言し、日本のファンにもディミュロの名が再び知られることとなりました。同年9月19日のレイズ対ツインズ戦では、レイズのペーニャ選手の打球を一塁塁審として二塁打と判定しましたが、ビデオ判定によりメジャーリーグ史上初めて本塁打に訂正されました。また、2012年6月26日のヤンキース対インディアンス戦では、左翼手の落球を見落としてアウトと誤審し、抗議した打者ハナハン選手を退場させるなど、判定が問題視される場面もありました。
評価と結び
日本での短い期間にはトラブルが多かったディミュロですが、当時阪神の投手だった藪恵壹は、「ストライクゾーンが確立されていて、それが絶対に変わらなかった」と、審判としての判定能力自体は高く評価していました。良くも悪くも日米の野球文化の違いを浮き彫りにした存在であり、メジャーリーグで長くキャリアを積んだ後、2019年に引退しました。
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。