マクシミヌス・トラクス

マクシミヌス・トラクス：ローマ帝国最初の軍人皇帝

ガイウス・ユリウス・ウェルス・マクシミヌス、通称マクシミヌス・トラクス（173年頃 - 238年5月10日）は、ローマ帝国を揺るがした最初の軍人皇帝です。トラキア出身という出自、そしてその後の治世は、ローマ帝国の歴史に深い影を落としました。

激動の生涯

ゴート人の父とアラン人の母を持つ彼は、セプティミウス・セウェルス帝の治世下で軍隊に入隊しました。235年、皇帝アレクサンデル・セウェルスが暗殺されると、近衛兵らによって皇帝に推戴され、動揺する元老院もこれを承認しました。236年には息子のガイウス・ユリウス・ウェルス・マクシムスを共同皇帝に立てました。
しかし、彼の治世は長くは続きませんでした。238年、アフリカ属州総督ゴルディアヌスが反乱を起こし、元老院もマクシミヌスから離反します。ゴルディアヌス父子を新しい皇帝と認めた元老院でしたが、ゴルディアヌス父子はマクシミヌス派に敗れ、暗殺されてしまいます。
この事態を受けて元老院は新たな共同皇帝を擁立、マクシミヌス討伐に乗り出しました。しかし、マクシミヌスはローマを目指して南下、補給難や軍隊内の不満に苦しみます。238年5月10日、アクイレイア包囲中に近衛兵の反乱により、一族郎党と共に殺害されました。彼の遺体はローマへ送られ、ティベリス川に投げ込まれたと伝えられています。

軍人皇帝の治世とその後

マクシミヌスは北方蛮族との戦闘で功績を挙げ、ローマ帝国の北方防衛に貢献しました。しかし、粗野で無教養な性格は元老院の反感を買い、彼を破滅へと導いたとされています。
彼は、アレクサンデル・セウェルス帝の寛容なキリスト教政策とは対照的に、キリスト教徒弾圧を行いました。ローマ教皇ポンティアヌスとアンテルスが殉教したのもこの時代です。また、軍隊への給与倍増は増税を招き、民衆の不満を高める結果となりました。
彼の治世は、3世紀の危機の始まりを示すものとなりました。ローマは内戦状態に突入、ゴルディアヌス3世が皇帝となりますが、6年後には不審な死を遂げ、その後も皇帝の乱立が続きます。284年にディオクレティアヌスが帝位に就き、翌年にカリヌスを打倒するまで、この混乱は続きました。

異様な風貌

歴史書によると、マクシミヌスは当時の人々よりもはるかに大柄であったと伝えられています。非常に大きな額、鼻、顎など、先端巨大症の症状を示唆する記述も見られます。彼の親指は非常に大きく、妻のブレスレットを指輪として着用していたという逸話も残されています。
『ローマ皇帝群像』には、彼の身長が約2.6メートルあったとの記述もありますが、これは誇張の可能性が高いとされています。しかし、同時代の歴史家ヘロディアヌスは、彼を「恐ろしい風貌の巨大な男」と描写しており、その異様な体格は、人々の畏敬と嫌悪の両方を感じさせたと思われます。

まとめ

マクシミヌス・トラクスは、軍事的才能を持ちながらも、その粗暴な性格と元老院との対立により、短命に終わった軍人皇帝です。彼の治世は、ローマ帝国の混乱と衰退の時代である3世紀の危機の幕開けを告げ、ローマ帝国の歴史に大きな転換点をもたらしました。彼の巨体と粗野な性格に関する数々の逸話も、彼の残した複雑な歴史像を物語っています。彼の生涯は、力と権力、そしてその限界を鮮やかに示す、ドラマチックな物語と言えるでしょう。

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