ゴルディアヌス3世

ゴルディアヌス3世：若き皇帝の短い生涯と悲劇的な最期

マルクス・アントニウス・ゴルディアヌス・ピウス、通称ゴルディアヌス3世は、ローマ帝国を238年から244年まで治めた皇帝です。わずか13歳で帝位に就いた彼は、その若さと短い治世にもかかわらず、ローマの歴史に重要な足跡を残しました。彼の生涯は、権力闘争、戦争、そして悲劇的な死で彩られています。

混乱の時代における即位

ゴルディアヌス3世の即位は、ローマ帝国が混沌とした時代を迎えていたことを反映しています。皇帝アレクサンデル・セウェルスが暗殺された後、マクシミヌス・トラクスが皇帝となりましたが、彼の政策は元老院の反発を招いていました。そんな中、ゴルディアヌス1世がアフリカで反乱を起こし、息子であるゴルディアヌス2世と共に共同皇帝を宣言されました。しかし、この反乱は鎮圧され、父子とも命を落としました。

ゴルディアヌス1世の孫、そしてわずか13歳のゴルディアヌス3世は、この混乱の中で、元老院によって「カエサル」（副帝）の称号を与えられました。同時期に元老院はデキムス・カエリウス・カルウィヌス・バルビヌスとマルクス・クロディウス・プピエヌス・マクシムスを共同皇帝に選出しました。しかし、この共同皇帝の治世も長くは続かず、民衆の暴動や軍団の不満から、プラエトリアニによって暗殺され、その結果ゴルディアヌス3世が皇帝となりました。

若き皇帝と権力者たち

ゴルディアヌス3世はまだ幼かったため、実質的な政治は周辺の貴族たちが担っていました。特に、プラエフェクトゥス・プラエトリオ（近衛兵隊長）となったガイウス・フリウス・サビニウス・アクイラ・ティメシテウスは、娘をゴルディアヌス3世に嫁がせ、帝国の実権を握りました。

ペルシアとの戦争と死

3世紀のローマ帝国は、ゲルマン部族によるライン川・ドナウ川流域での侵攻と、東方のサーサーン朝ペルシアの脅威に直面していました。シャープール1世率いるペルシア軍のメソポタミア侵攻を受け、ゴルディアヌス3世はヤヌス神殿の扉を開き、東方への遠征に出陣しました。ヤヌス神殿の扉を開くことはローマにおいて宣戦布告を意味し、歴史上最後の事例となりました。

レサエナの戦いではペルシア軍を撃退し勝利を収めたものの、その後、ピリップス・アラブスが新たなプラエフェクトゥス・プラエトリオとなり、ミシケの戦いにてローマ軍は大敗を喫しました。ゴルディアヌス3世はこの戦いで戦死したと伝えられています。死因は不明ですが、ピリップスが彼の暗殺に関与したという説があります。ピリップスはその後、帝位を継承しました。

ゴルディアヌス3世の家系とその後

ゴルディアヌス3世の家族は、ネルウァ＝アントニヌス朝と深い繋がりを持っていました。彼の祖父はゴルディアヌス1世、父はユニウス・リキニウス・バルブスであり、家系には皇帝ハドリアヌスの養子であった人物も含まれています。このような家系背景は、ゴルディアヌス3世の政治的な立場にも影響を与えたと考えられます。

ゴルディアヌス3世は若く、人望の厚い皇帝でした。祖父や父、そして彼自身の悲劇的な運命によって、ローマの人々から広く愛されました。新皇帝ピリップスの反対を押し切り、彼は死後に神格化されました。これは、民衆の怒りを鎮め、暴動を防ぐための政治的な判断だったとも考えられます。ゴルディアヌス3世の短い生涯は、ローマ帝国の激動の時代を象徴するものです。彼の治世と死は、その後も人々の記憶に深く刻まれ、歴史に重要な一章を刻みました。

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