マクセンティウスの競技場

イタリアの首都ローマ郊外、緑豊かなアッピア街道州立公園内にひっそりと佇むマクセンティウスの競技場（イタリア語: Circo di Massenzio）は、古代ローマ時代の壮大な戦車競技場跡です。3世紀末から4世紀初頭にかけてローマ皇帝マクセンティウスによって建設されたこの遺跡は、現存する古代ローマの競技場の中で最も保存状態が良いことで知られ、その規模はローマ最大のチルコ・マッシモに次ぐものです。

建設背景と位置

この競技場は、アッピア街道の起点から約2～3ローママイルの地点に、皇帝マクセンティウスが自己の広大なヴィッラや霊廟などを含む一大複合施設の一部として整備したものです。周辺には、初期キリスト教の聖地であるサン・セバスティアーノのカタコンベや、印象的な円形墓であるチェチーラ・メテッラの墓といった著名な古代遺跡が隣接しており、この一帯が古代ローマ時代を通じて重要な地域であったことがうかがえます。

構造と周辺施設

競技場のレイアウトは典型的な古代ローマのキルクス形式をとっており、戦車が周回するトラックとその周囲を観客席が囲む構造です。皇帝が競技を観戦するための皇帝席（プルウィナル）は、隣接するマクセンティウス帝のヴィッラと優雅な柱廊で繋がっていました。これにより、皇帝は自邸から直接、競技場へ移動できるようになっていたと考えられています。

また、競技場に隣接して建てられた円柱形の建物は、若くして亡くなった皇帝の長男、ウァレリウス・ロムルスの霊廟と考えられています。このことから、競技場が単なる娯楽施設としてだけでなく、皇帝一家の追悼や顕彰の場とも密接に関わっていたことが示唆されています。

特徴と歴史

マクセンティウスの競技場は、その構造の大部分が比較的原型をとどめている点で、他の多くの古代競技場跡と比較して特筆すべき保存状態を誇ります。当時の観客席やトラック、そして競技場の入口にあたる構造物などが比較的良好な形で残されており、訪れる者に古代の熱狂的な雰囲気を想像させます。

しかし、この壮大な施設が大規模な行事に使用された記録は、わずかに一度しか残されていません。それは、西暦309年に早逝した皇帝の息子、ウァレリウス・ロムルスの追悼式典であったとされています。競技場は、皇帝自身がメセンティウス橋の戦いでコンスタンティヌス帝に敗れ、西暦312年に死去した後、急速に使われなくなったことが明らかになっています。特に、発掘調査によって競技場のトラック部分が古代ローマ時代のうちに意図的に砂で埋められていた痕跡が見つかっており、これはその役割が比較的短期間で終わったことを物語っています。

現在の状況とアクセス

隣接していたマクセンティウス帝のヴィッラ自体は現在ほとんど姿をとどめておらず、わずかにバジリカのアプス部分が木々の間から確認できる程度ですが、競技場本体は良好に保存されており、アッピア街道州立公園の主要な見どころの一つとなっています。

マクセンティウスの競技場跡は、Via Appia Antica, 153に位置しています。ローマ市内からのアクセスは、ATACの路線バス118系統を利用し、「Basilica San Sebastiano」停留所で下車するのが便利です（停留所から南東へ約200m）。地下鉄を利用する場合は、A線「Arco di Travertino」駅が最寄りですが、そこから南西へ約3.0kmと距離があります。

見学は原則として入場料無料で可能ですが（2014年時点の情報に基づく）、日曜および例年11月15日から12月15日の期間は休館となります。開館時間は午前8時30分から正午までと、午後2時30分から午後5時まで（季節により変動する可能性あり）に分かれています。訪問前に最新の開館情報を確認することが推奨されます。

マクセンティウスの競技場