チルコ・マッシモ

チルコ・マッシモ（Circo Massimo）

チルコ・マッシモは、イタリアのローマに位置する古代ローマ時代の巨大な競技場（キルクス）の跡地です。ラテン語で「キルクス・マクシムス」と呼ばれ、「競技場」を意味する「キルクス」と、「最大の」を意味する「マクシムス」が組み合わさった名称の通り、古代ローマで最も大規模な公共建造物の一つでした。古代の歴史家ハリカルナッソスのディオニュシオスは、この場所を「ローマで最も美しく壮大な施設」と称賛しています。

この競技場は、王政ローマ時代にエトルリア系の王タルクィニウス・プリスクスによって建設が始まったと伝えられています。当初は中央に仕切り柵があるだけの簡素な仮設木造競技場だったと考えられています。しかし、ガイウス・ユリウス・カエサル以降、歴代のローマの為政者たちは、より恒久的で壮大な施設へと改修・増築を繰り返し行いました。中でも、トラヤヌス帝による全面的な再開発は特筆されます。

紀元前4世紀には木製の出走門が設けられ、紀元前196年にはルキウスによってその入り口に鍍金（ときん）された彫刻が設置されました。また、戦車が周回数を数えるための装置として、中央分離帯（スピナ）に「卵」が設置されていた記録があり、紀元前179年にはこれが修復されたことから、かなり古くから存在したと推測されています。競技場が大きく発展したのはカエサルの時代以降です。彼の治世下では、観客席の前に幅3メートルにも及ぶ溝が掘られ、野獣から観客を保護する役割を果たしました。

アウグストゥス帝は皇帝専用の観覧席であるプルウィナルを設置しました。これは後に、ドミティアヌス帝によって紀元92年に完成した皇帝宮殿ドムス・フラウィアと繋がるように改修されています。アウグストゥスはさらに、エジプトのヘリオポリスから紀元前13世紀に作られたオベリスクを運び込み、中央分離帯に建立しました。彼の腹心であったマルクス・ウィプサニウス・アグリッパは、周回数カウント装置に青銅像を加える改良を行っています。

クラウディウス帝は巨大な石造りの門を建造しましたが、残念ながら競技場の他の木造部分は、紀元64年のローマ大火で大部分が焼失してしまいました。しかし、トラヤヌス帝によって再建されたチルコ・マッシモは、主に瓦屋根を持つコンクリート造りとなり、一部には大理石や化粧漆喰が施されました。この時の推定収容人数は30万人にも達し、世界最大の公共娯楽建造物として完成しました。

トラヤヌス帝が再建した競技場は、全長約600メートル、平均幅約200メートルという巨大なものでした。長さ344メートルの中央分離帯（石造スピナ）には、優勝記念碑や彫刻の他に、周回数を数えるための七つの可動式「卵」装置が設置されていました。また、中央分離帯の両端には、折り返し地点を示す青銅製の円錐形柱「メタエ」が立てられていました。観客席は三層構造で、高さは約35メートルと推測され、一階はアーケード、二階は付け柱で構成されていました。

この場所では、最も有名な戦車レースの他にも様々な催しが行われました。野獣を使った見世物では、凶悪犯や初期のキリスト教徒が野獣の餌食となるという残酷な公開処刑（野獣刑）が行われたこともあります。紀元204年にはセプティミウス・セウェルス帝が特殊な巨大船を用いた模擬海戦を披露し、船の崩壊と共に700匹の野獣を放って戦わせるという新たな見世物も行われました。しかし、このような血生臭い催しがない時は、競技場周辺は露天商や占い師、大道芸人であふれ、活気のある市場のような賑わいを見せていました。

悲惨な事故も記録されています。ディオクレティアヌス帝の時代には、観客席の上層部が崩壊し、約1万3000人もの死者が出る大惨事が発生しました。また、コンスタンティウス2世帝は357年にローマを訪れた際、最高級のオベリスクをこの地に建立しました。

チルコ・マッシモはローマの中心部、アヴェンティヌスの丘とパラティヌスの丘の間に位置し、北側には皇帝の宮殿群、南東側にはアッピア街道やラティーナ街道の起点となるカペーナ門がありました。しかし、その後、建築資材として略奪され続けたため、現在では競技場の跡地が広大な野原として残るのみで、古代の構造物はコーナー部分などごく一部が現存しているに過ぎません。

現代では、かつてのような戦車レースが行われることはありませんが、チルコ・マッシモの広大な敷地は多目的イベント会場として利用されています。例えば、2006年のサッカーワールドカップで優勝したイタリア代表チームの祝勝会や、大規模なロックコンサートなどが開催されており、現代においても多くの人々が集まる場所となっています。

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