マクベス (シェイクスピア)

『マクベス』：野望と破滅の悲劇

『マクベス』は、ウィリアム・シェイクスピアによって1606年頃に書かれた悲劇であり、『ハムレット』、『オセロー』、『リア王』と並ぶ四大悲劇の一つに数えられます。この作品は、スコットランドの将軍マクベスが、魔女の予言と妻の強い野心に駆られ、主君であるダンカン王を暗殺し王位を奪うという、野心と破滅を描いた物語です。

あらすじ

物語は、スコットランドの将軍マクベスが、戦場で魔女たちから「いずれ王になる」という予言を受ける場面から始まります。この予言と、夫を王にしたいという強い野心を持つ妻の言葉に影響され、マクベスはダンカン王を暗殺し、王位を簒奪します。しかし、王位を手に入れた後も、マクベスは不安と罪悪感に苛まれ、狂気に陥っていきます。彼は、かつての友人バンクォーを暗殺したり、マクダフの妻子を殺害したりと、暴政を重ねます。

最終的に、マクベスは、魔女たちの予言を誤解し、バーナムの森が進軍するという幻影を信じ込んでしまいます。そして、マクダフが帝王切開で生まれたという事実を知り、魔女の予言が覆されたことを悟ります。戦いの末、マクベスはマクダフによって討たれ、破滅を迎えます。

歴史的背景と創作

この劇の元となったのは、実在のスコットランド王マクベス（在位1040年 - 1057年）です。しかし、シェイクスピアは、ラファエル・ホリンシェッドの『年代記』を参考に、史実とは異なる物語を創作しました。劇中のマクベスは、野心に燃え、暴政を敷いた末に滅びる悪人として描かれていますが、実際のマクベス王は、17年間王位を維持し、統治者としての実績もあったとされています。シェイクスピアは、歴史的な人物を題材にしつつ、観客に強烈な印象を与える悲劇を作り上げたのです。

『マクベス』の創作年代は、1606年頃と推定されています。これは、当時のイングランド王ジェームズ1世が、バンクォーの子孫であるという伝説に影響されていると考えられています。また、劇中には、1605年の火薬陰謀事件を連想させる描写があり、この事件が創作に影響を与えた可能性も指摘されています。この作品は、シェイクスピアの悲劇の中でも特に短く、いくつかの点で省略や飛躍が見られることから、初めに長い版が存在し、それをシェイクスピア自身が短縮したという説もあります。

テキストと上演

『マクベス』の最古のテキストは、1623年に出版されたファースト・フォリオに収録されています。初演も1606年頃と推定され、1611年には上演の記録が残っています。しかし、シェイクスピアの死後、17世紀中頃には、ウィリアム・ダヴェナントによって、ダンスや音楽を取り入れたオペラ風の改作が行われ、19世紀になるまで、原作に忠実な形での上演は行われませんでした。

主な登場人物

マクベス: スコットランドの将軍。魔女の予言と妻の野心に影響され、王位を奪取するが、罪悪感と狂気に苛まれる。
マクベス夫人: マクベスの妻。強い野心を持ち、夫を唆して悪行を重ねさせる。
ダンカン: スコットランド王。マクベスに暗殺される。
バンクォー: スコットランドの将軍で、マクベスの友人。マクベスに殺害される。
マクダフ: スコットランドの貴族。マクベスに妻子を殺され、仇を討つ。
魔女: マクベスに予言を与える謎めいた存在。

作品の魅力と影響

『マクベス』は、人間の野心、罪悪感、そして運命といった普遍的なテーマを描いた作品として、今もなお多くの人々に読まれ、上演されています。その劇的な展開や、印象的な登場人物、そして、人間の心理を深く掘り下げた描写は、読者を魅了します。

また、この作品は、オペラ、映画、演劇など、様々な形で翻案されています。黒澤明監督の映画『蜘蛛巣城』は、日本の戦国時代を舞台に『マクベス』を翻案した作品として有名です。

まとめ

『マクベス』は、シェイクスピアの最高傑作の一つであり、人間の深層心理と運命を描いた、色褪せない悲劇です。その普遍的なテーマと、魅力的な登場人物たちは、今もなお、多くの人々を惹きつけてやみません。シェイクスピアの作品を初めて読む人にもおすすめの一作です。

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