食作用

食作用：細胞による物質取り込みと免疫応答

食作用とは、細胞が自身の細胞膜を利用して、0.5μm以上の大きな粒子を細胞内に取り込むプロセスです。これはエンドサイトーシスの一種であり、取り込まれた物質はファゴソームと呼ばれる小胞に包まれます。食作用を行う細胞を食細胞と呼び、免疫系において重要な役割を果たしています。

食作用の歴史

食作用は1876年にカナダの医師ウィリアム・オスラーによって最初に記述され、その後、イリヤ・メチニコフが詳細に研究し、1880年から1883年にかけて命名しました。メチニコフの研究は、免疫学の発展に大きく貢献しました。

免疫系における食作用

多細胞生物において、食作用は自然免疫の主要な防御機構です。感染への初期応答として働き、適応免疫応答の開始にも関与します。様々な細胞が食作用を行いますが、特に好中球、マクロファージ、単球、樹状細胞、破骨細胞、好酸球は「プロフェッショナル食細胞」と呼ばれ、その機能を専門的に担います。食作用は進化的に古く、無脊椎動物にも存在することが知られています。

プロフェッショナル食細胞の役割

好中球: 血液中をパトロールし、感染部位に迅速に移動して食作用による殺菌を行います。Fcγ受容体や補体受容体を介して病原体を認識し、顆粒に含まれる酵素や活性酸素種などを用いて殺滅します。
マクロファージ: 血液から組織へ移動し、常在細胞として組織に存在します。マンノース受容体、スカベンジャー受容体、Fcγ受容体、補体受容体を介して食作用を行い、長寿命で継続的に食作用を行います。
樹状細胞: 組織内に存在し、食作用によって病原体を摂取しますが、その主な役割は、抗原提示細胞として適応免疫系に抗原を提示することです。

食作用を誘発する受容体

食作用は、様々な受容体によって開始されます。

オプソニン受容体: IgG抗体や補体などのオプソニンが標的に結合している場合に作用します。
* 非オプソニン受容体: レクチン様受容体、デクチン受容体、スカベンジャー受容体など、オプソニンを必要としない受容体です。

さらに、[パターン認識受容体]が病原体関連分子パターン(PAMPs)を認識することで、食作用が活性化される場合があります。

Fcγ受容体と補体受容体

Fcγ受容体はIgG抗体、補体受容体は補体タンパク質を認識して食作用を開始します。これらの受容体は、細胞内シグナル伝達経路を活性化し、食作用の効率を高めます。

マンノース受容体

マンノース受容体は、病原体表面のマンノースやフコースなどの糖鎖を認識します。

ファゴソームの分解

食作用によって形成されたファゴソームは、リソソームと融合してファゴリソソームとなり、内部の物質が分解されます。分解は酸素依存性と酸素非依存性の2つの経路があり、活性酸素種や様々な酵素が関与します。一部の病原体は、これらの防御機構を回避する能力を持っています。

獲得免疫の誘導

食作用によって分解された異物の断片は、抗原提示細胞によってT細胞に提示され、獲得免疫が誘導されます。

アポトーシスにおける食作用

アポトーシスを起こした細胞は、エフェロサイトーシスと呼ばれるプロセスでマクロファージによって除去されます。アポトーシス細胞の除去に異常が起こると自己免疫疾患につながる可能性があります。

原生生物における食作用

多くの原生生物は、食作用を栄養摂取の手段として利用します。アメーバなどの原生動物は仮足で、繊毛虫は細胞口で食作用を行います。

まとめ

食作用は、細胞レベルでの物質取り込みプロセスであり、免疫応答、アポトーシス、原生生物の栄養摂取など、様々な生物学的過程において重要な役割を果たしています。その複雑なメカニズムは、免疫学や細胞生物学の分野で盛んに研究されています。

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