マシュー・ロック

マシュー・ロック（Matthew Locke, 1621年または1622年頃生 - 1677年8月没）は、17世紀のイングランド初期バロック音楽を代表する作曲家です。デヴォン州で生まれたと推測され、ロンドンで生涯を閉じました。イギリスにおけるオペラというジャンルの黎明期を切り拓いた人物の一人として、「イギリス最初のオペラ作曲家」と称されることがあり、彼の音楽は、後にイギリス音楽史上の巨匠となるヘンリー・パーセルに多大な影響を与えました。

音楽の道は、少年時代にエグゼター大聖堂の聖歌隊員として始まりました。そこでオルガン演奏の訓練も受け、後にエグゼター大聖堂のオルガニストの称号を得ています。師事したのは、著名なオルランド・ギボンズの兄であるエドワード・ギボンズでした。また、オルランド・ギボンズの息子クリストファーとも親交を深め、二人はその後も共同で音楽制作を行うことが少なくありませんでした。

イングランド内戦の混沌とした時期に、後の国王となるチャールズ2世と知己を得ました。チャールズ2世がオランダへ亡命していた期間にロックが音楽を提供したかどうかは明らかではありませんが、王政復古が実現すると、ロックはチャールズ2世の厚い信頼を得て宮廷で重用されるようになります。新設された合奏団の作曲家や、国王私室付きの作曲家といった要職に就き、1661年のチャールズ2世の戴冠式のための音楽も手掛けました。この戴冠式音楽では、伝統的な王宮吹奏楽団の編成も活用しています。また、ジョヴァンニ・バッティスタ・ドラーギと競合しつつも、王妃キャサリンの専属オルガニストの地位も獲得しました。国王がカトリックに寛容な姿勢を見せていたことが、カトリックに改宗していたロックの立場を有利にした可能性も指摘されています。しかし、非カトリックの音楽家たちからの反感を買ったためか、博士号の取得には至らなかったようです。ロックはヘンリー・パーセルの父や叔父とも交流があり、若いパーセルがロックの音楽や人柄に触れる機会は十分にあったと考えられます。重要な音楽出版業者であるジョン・プレイフォードとも親しい関係でした。1650年代半ばには、ヘレフォードシャー出身の女性と結婚しています。

ロックの主要な作品には、舞台のための音楽が多く含まれます。1653年にクリストファー・ギボンズと共作したマスク《キューピッドと死神》は、ポルトガル大使の歓迎式典のために書かれ、ジェームズ・シャーリーの台本によるこの作品は現存しています。一方で、「最初の英語オペラ」と見なされることもある《ロードス島の攻囲》（1656年頃）は、ウィリアム・デイヴナント卿の台本によるもので、ヘンリー・クックを含む複数の作曲家との共作でしたが、残念ながらその大半は失われてしまいました。対照的に、トマス・シャドウェルによる台本に基づく《テンペスト》（1674年頃）のための劇付随音楽は現存しており、この作品もジョン・バニスターやペラム・ハンフリーといった他の作曲家との共同制作でしたが、全体の構成はロックによってまとめられています。この作品の特に有名な「序幕の音楽」では、音楽史において初めてクレシェンドを意図的に導入したとされ、荒れ狂う嵐の情景を見事に描写しています。

器楽曲としては、ガンバ・コンソートのためのファンタジアや様々な組曲、教会音楽としてアンセムなど多岐にわたります。ロックの初期の器楽曲には、コプラリオやギボンズらが築いた古い様式の影響が見られますが、チャールズ2世が好んだ大陸風のリズミカルな舞曲にも対応しました。しかし、宮廷に外国人作曲家が増えるにつれて、ロックは次第にイギリス音楽の独自性を擁護する姿勢を強めます。彼は自らが当時のイギリスで最も優れた音楽家の一人であると自覚しており、その自信からか、ライバルとの間に度々軋轢を生じさせました。ジョン・バーチェンシャーのような人物からは、カッとしやすい性格であり、特に国王がルイ・グラビュのような凡庸と見なされた人物を重用することに苛立ちを募らせていた、と評されています。ロックの音楽は、国王の好みと比較すると「重厚」な傾向がありましたが、マスクのようなジャンルには大きな影響を与えました。彼のアンセムは、比較的簡潔で親しみやすい一方で、時に驚くほどの力強さを秘めており、ジョン・ブロウをはじめとする後続の作曲家たちに影響を与えています。

ロックは生前、同僚作曲家たちから嫉妬されることもありましたが、同時に非常に高い評価と声望を得ていました。有名な日記作家サミュエル・ピープスも、ロックの作品の価値を高く認めています。イギリス・バロック音楽のパイオニアとしての地位を確立していたロックの後を継いで宮廷作曲家となったヘンリー・パーセルは、ロックの死に際して追悼音楽を作曲しています。その後、一時的には彼の作品が見過ごされた時期もありましたが、20世紀に入ると再評価が進み、イギリス音楽史におけるマシュー・ロックの重要な位置づけが改めて認識されるようになりました。

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