マッサゲタイ

マッサゲタイ：中央アジアの謎めいた遊牧国家

紀元前6世紀から紀元前1世紀にかけて、中央アジアに存在した遊牧民、そして遊牧国家として知られるマッサゲタイ。彼らの歴史は、古代の歴史家ヘロドトスやストラボンらの記録を通して断片的にしか知られていませんが、その謎めいた存在は現代においても人々の興味を惹きつけ続けています。

不明な起源とスキタイとの関係

マッサゲタイの起源は明確には解明されていません。しかし、ヘロドトスの『歴史』には、スキタイ人と同種とする記述があり、スキタイ人と深い繋がりを持っていた可能性が示唆されています。同書には、スキタイ人がアジアの遊牧民であったが、マッサゲタイ人に圧迫され、アラクセス河を渡ってキンメリア地方に移住したという記述も見られます。この記述から、マッサゲタイはスキタイよりも東方に位置し、スキタイ人の移動に影響を与えた勢力であったことが推測されます。

キュロス2世との戦争とトミュリス女王

アケメネス朝ペルシアのキュロス2世は、バビロン征服後、マッサゲタイをも服属させようとしました。当時、マッサゲタイを治めていたのはトミュリス女王でした。キュロスはトミュリス女王に求婚するも、それはマッサゲタイ征服の策略であると見抜かれ、拒絶されます。

キュロスは軍事行動に出ます。彼はアラクセス河に橋を架け、マッサゲタイへの侵攻を開始しました。しかし、トミュリス女王はキュロスに、河を渡る場所と時間を指定し、条件を提示しました。キュロスは、自国にトミュリス女王を迎え撃つという意見を採択しますが、リュディア王クロイソスの計略により、逆にマッサゲタイ領に侵入することになります。

キュロスは、食料と酒を置いて本隊を撤退させ、少数精鋭の部隊でマッサゲタイの待ち伏せに遭います。マッサゲタイ軍は食料に気を取られ、酔いつぶれたところをキュロス軍に襲われ、トミュリス女王の息子であるスパルガピセスも捕虜となりました。

この報復としてトミュリス女王はキュロスと全面戦争を行い、激戦の末、キュロスを討ち取ります。キュロスの遺体を辱めたトミュリス女王は、復讐を果たしたのです。この戦いは、ペルシア帝国の拡大を阻止した重要な出来事として歴史に刻まれています。

アレクサンドロス大王との関わり

紀元前4世紀、アレクサンドロス大王が中央アジアに遠征した際にも、マッサゲタイは登場します。アレクサンドロス大王の支配に対抗する勢力、スピタメネスはマッサゲタイの支援を受けて反乱を起こしますが、アレクサンドロス大王によって鎮圧されました。この出来事は、マッサゲタイが当時もなお勢力を持っていたことを示しています。

ストラボンによる記述と生活様式

ストラボンは、マッサゲタイをカスピ海の東方に位置づける一方、その居住地は島、沼沢地、山間部、平原と多様であったと記しています。それぞれの地域では、異なる生活様式が営まれていたようです。例えば、島嶼部では農耕を行わず、根菜や野果を食料とし、木皮を衣服としていました。また、マッサゲタイの婚姻制度は独特で、男性は複数の女性と関係を持つことが許されていたとされます。さらに、高齢者は殺され、その肉を皆で食べて弔われるという、現代の感覚では理解しがたい風習もあったとされています。

宗教と軍事力

マッサゲタイの宗教は、太陽神を唯一の神として崇拝し、馬をいけにえとして捧げるというものでした。軍事的には、騎兵と歩兵ともに優れており、弓矢、短剣、胴鎧、そして青銅製の斧などを用いた高度な軍事技術を持っていたことが伺えます。

大月氏との関連性

マッサゲタイと大月氏を同一視する説がありますが、これはまだ議論の余地のあるものです。

結び

マッサゲタイは、中央アジアの歴史において重要な役割を果たした遊牧民族です。彼らの起源や生活様式、キュロス2世やアレクサンドロス大王との関わりなど、謎が多く残されていますが、古代の記録から、その勇猛さと独特の文化の一端を垣間見ることができます。今後の研究によって、マッサゲタイの全貌がより明らかになることが期待されます。彼らの存在は、中央アジアの歴史と文化を考える上で、決して無視できないものです。

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