マツ綱

マツ綱（Pinopsida）の詳細解説

マツ綱は、現生裸子植物の中で重要な位置を占めるグループであり、グネツム類、マツ類、ヒノキ類という3つの主要な系統を含んでいます。これらの植物群は、それぞれ独特の特徴を持ち、地球上の様々な環境で繁栄しています。

マツ綱の系統と分類

マツ綱は、分子系統学的研究により、単系統群であることが示されています。グネツム類とマツ類が姉妹群であり、それらをまとめたクレードとヒノキ類が姉妹群を形成します。かつては、ヒノキ類とマツ類は球果を形成することから「球果植物」とも呼ばれていましたが、この分類は側系統群であることが判明しました。現在では、グネツム類を含めたより広い範囲をマツ綱として扱うことが一般的です。

学名と範囲

マツ綱の学名である Pinopsida は、マツ属 Pinus をタイプ属とする分類群です。この学名は、特徴を示す記述的な名称である Coniferae とは異なり、自動的にタイプ指定される学名です。Pinus をタイプとする綱には、他にも Pinatae や Pinoideae などの学名が存在します。

系統関係

近年の分子系統解析に基づくと、現生裸子植物は以下のような系統関係を持つとされています。

イヌガヤ属はイチイ科から分離され、独立したイヌガヤ科として扱われる。
ボルチア類は、かつてはマツ綱に含められることもありましたが、最近の研究では現生裸子植物の姉妹群とされることが多くなっています。

化石植物を含む系統解析では、パリシア科やケイロレピディア科もマツ綱に含められることがありますが、これらの系統的位置づけはまだ議論の余地があります。

マツ綱の形態的特徴

マツ綱に属する植物は、形態的に多様性に富んでいますが、特に球果植物（針葉樹類）とグネツム類の間では大きな違いが見られます。

多胚形成

マツ綱の植物は、多胚形成という独特の生殖戦略を持っています。受精卵の初期分裂段階で複数の胚が形成され、これらが競争的に成長し、最終的に一つの胚が成熟します。

雌性胞子嚢穂

雌性胞子嚢穂の形態も多様です。マツ目やヒノキ科などの針葉樹類では、苞鱗種鱗複合体を持つ球果を形成する一方、ヒノキ目のマキ科やイチイ科、グネツム類では、苞の葉腋に胚珠と小苞からなる枝を形成します。

グネツム類では、胚珠の珠皮が長く伸びて珠孔管を形成する特徴があります。これらの雌性胞子嚢穂の形態は、化石裸子植物であるボルチア類の形態から進化したと考えられています。

受精

マツ綱の植物は、花粉管受精を行います。これは被子植物とは独立に獲得されたものであり、精子が花粉管を通じて卵に輸送されます。受精後、胚は形成されますが、被子植物のような重複受精は見られません。

マツ綱の下位分類

マツ綱は、以下の亜綱、目、科に分類されます（Yang et al., 2022に基づく）。

グネツム亜綱 (Gnetidae)

マオウ目 (Ephdrales)
マオウ科 (Ephedraceae)
ウェルウィッチア目 (Welwitschiales)
ウェルウィッチア科 (Welwitschiaceae)
グネツム目 (Gnetales)
グネツム科 (Gnetaceae)

マツ亜綱 (Pinidae)

マツ目 (Pinales)
マツ科 (Pinaceae)
モミ亜科 (Abietoideae)
連: Cedreae
連: Abieteae
連: Pseudolariceae
マツ亜科 (Pinoideae)
連: Lariceae
連: Pineae

ヒノキ類（亜綱）(Cupressidae)

ナンヨウスギ目 (Araucariales)
ナンヨウスギ科 (Araucariaceae)
マキ科 (Podocarpaceae)
エダハマキ亜科 (Phyllocladoideae)
連: Phyllocladeae
連: Prumnopityeae
マキ亜科 (Podocarpoideae)
連: Saxegothaeeae
連: Microcachrydeae
連: Pherosphaereae
連: Acmopyleae
連: Dacrydieae
連: Podocarpeae
ヒノキ目 (Cupressales)
コウヤマキ科 (Sciadopityaceae)
ヒノキ科 (Cupressaceae)
コウヨウザン亜科 (Cunninghamioideae)
タイワンスギ亜科 (Taiwanioideae)
タスマニアスギ亜科 (Athrotaxidoideae)
セコイア亜科 (Sequoioideae)
スギ亜科 (Taxodioideae)
カリトリス亜科 (Actinostroboideae)
連: Papuacedreae
連: Austrocedreae
連: Libocedreae
連: Diselmeae
連: Actinostrobeae
ヒノキ亜科 (Cupressoideae)
連: Thujopsideae
連: Chamaecyparideae
連: Tetraclineae
連: Cupresseae
イヌガヤ科 (Cephalotaxaceae)
イチイ科 (Taxaceae)
連: Amentotaxeae
* 連: Taxeae

これらの分類群は、さらに細かく分類されることもあります。特にグネツム類は、独立した綱や門として扱われることもありました。

まとめ

マツ綱は、多様な形態と生態を持つ裸子植物の重要なグループです。その系統関係や形態的特徴、生殖方法を理解することは、植物の進化を解明する上で非常に重要です。今後も、さらなる研究によって、マツ綱の理解が進むことが期待されます。

もう一度検索