マニラ・ガレオン

マニラ・ガレオン：太平洋を繋いだ貿易船

マニラ・ガレオン（またはアカプルコ・ガレオン）は、16世紀から19世紀初頭にかけて、太平洋を横断してフィリピンのマニラとメキシコのアカプルコを結んだスペインの貿易船です。年に1～2回の頻度で運航され、250年もの長きにわたり東西の交易を支えました。積み荷の多くが中国産であったため、「ナオ・デ・チーナ（中国船）」とも呼ばれました。

貿易の創始と航路

マニラ・ガレオン貿易は、ミゲル・ロペス・デ・レガスピ提督の指揮下にあったアンドレス・デ・ウルダネータによって創始されました。フィリピンへの航路は、1521年にマゼラン艦隊によって開拓されていましたが、帰路となるメキシコへの航路は1565年にウルダネータが発見しました。

ウルダネータは、大西洋の貿易風と同様に、太平洋にも風の流れがあると考えました。大西洋では、風を利用するために遠回りする「ボルタ・ド・マール」という航路が用いられていましたが、ウルダネータは北上すれば東風に乗れると考えました。彼は北緯38度まで北上し、そこから東に進路をとると、アメリカ西海岸のメンドシノ岬付近に到達、そこから南下してアカプルコにたどり着きました。片道の航海には約4ヶ月を要したとされています。

船と人員

この貿易は、マニラのスペイン人移民に大きな富をもたらしました。マニラ・アカプルコ・ガレオンは、1565年から1815年までの250年間に合計110隻が運航されました。当初は年間3隻以上の船が出航していましたが、1593年の法改正により、年間2隻に制限されました。そのため、より大型の船が求められるようになり、16世紀には平均1700～2000トン、1000人以上の乗客を乗せることが可能なガレオン船が建造されました。多くはフィリピンで建造されましたが、メキシコで建造された船は8隻にとどまります。マニラ・ガレオン貿易は、1821年のメキシコ独立によって終焉を迎えました。

貿易品

マニラ・ガレオンは、香料諸島の香辛料、中国・東南アジアの磁器、象牙、漆器、絹製品などを南米に運びました。特に中国産の絹織物が多かったことから、アカプルコ行きの船は「絹船」とも呼ばれました。また、日本が鎖国するまでは日本との貿易も行われました。

これらの積荷はアカプルコから陸路でベラクルスまで運ばれ、そこからスペインに運ばれました。この航路は、当時オランダの制海権下にあった喜望峰を通る危険な航路を避けることができました。中国市場は自給自足が確立されており、中国が求めたのはアメリカ産の銀（洋銀・メキシコ銀）でした。銀はアカプルコからマニラに運ばれ、マニラ行きの船は「銀船」とも呼ばれていました。新大陸の銀の約3分の1が、この航路で中国に運ばれたとされています。

また、布教を目的とする宣教師も多く乗船しており、「ガレオン船は銀と宣教師を運んでいる」とも例えられました。
マニラ・ガレオンはフィリピンとメキシコ副王領の首都メキシコシティを結ぶ重要な連絡経路であり、フィリピンのスペイン文化はメキシコのそれに近いものとなりました。メキシコ独立後も貿易は続けられましたが、太平洋を航海したマニラ・ガレオンは、3世紀近くにわたり、富、利益、文化をスペインにもたらしました。