マヌイル・カンダクジノス

マヌイル・カンダクジノスは、東ローマ皇帝ヨアニス6世カンダクジノスの次男として、1326年頃に誕生しました。彼はモレアス専制公領の初代統治者として、その生涯をペロポニソス半島の統治と復興に捧げました。

1342年、父ヨアニス6世の挙兵に伴い、16歳で兄マテオスと共に軍に加わりました。翌年にはマケドニア西部のヴェリアの行政官に任じられ、その若さにも関わらず、政治的な手腕を発揮しました。当初、エルサレム王国の王位継承者ギー・ド・リュジニャンの娘イザベルと婚約していましたが、父の政略によりセルビア王の側近の娘との婚約が計画されます。しかし、その後、父とセルビア王の関係が悪化し、マヌイル自身の希望もあってイザベルとの結婚が実現しました。

1347年、父が内乱に勝利しコンスタンティノープルに入城すると、マヌイルはヴェリアに留まっていましたが、セルビア王の侵攻により危機に陥ります。彼は辛くも脱出し、首都に帰還。その後、義兄弟のニキフォロス2世ドゥカス・オルシーニと共に専制公に叙せられ、イザベルはギリシア正教に改宗しマリアと改名しました。翌年のジェノヴァ人との戦いでは、首都駐留軍の指揮官を務めました。

1349年、マヌイルの人生は大きな転換期を迎えます。彼はペロポニソス半島へ派遣され、約300人の護衛隊と共に到着。この日、モレアス専制公領が発足しました。当時のペロポニソス半島は内乱の影響で無政府状態となっており、マヌイルは基礎からの再建を余儀なくされました。彼は混乱を鎮め、農民を保護して生産力の回復に努め、都市には減税措置を実施して復興を支援しました。これらの政策は短期間で成果を上げ、ペロポニソスは著しい復興を遂げました。また、行政の中心都市ミストラスでは、人口増加に対応するために市域を拡大し、城壁を新設するなど都市の整備を進めました。さらに、自身の居所として宮殿を造営し、宮殿付属の聖ソフィア聖堂を建立しました。ミストラスは文化都市として発展し、その基礎の多くはマヌイルによって築かれたものです。

しかし、マヌイルの統治は平穏なばかりではありませんでした。土着の有力者たちは彼に反発し、反乱を繰り返しましたが、マヌイルの優れた指揮と護衛隊の精鋭さにより、反乱は鎮圧されました。この反乱鎮圧の際、アルバニア人傭兵部隊を導入したことが、ペロポニソス半島への最初のアルバニア人移住と考えられています。

東ローマ帝国の本土から遠く離れたペロポニソス半島は、ヨアニス6世とヨアニス5世の内乱に巻き込まれることはありませんでした。しかし、1354年にヨアニス6世が廃位されると、ヨアニス5世はペロポニソス半島からカンダクジノス家の勢力を排除しようとしました。1355年には新たな行政官が派遣されましたが、マヌイルは再び実力で反対勢力を打ち破り、自身の地位を承認させました。1357年に兄マテオスが帝位を退いた際には、後継を巡って緊張が走りましたが、父の説得により和解し、兄とその家族を受け入れました。その後、モレアス専制公領は安定期を迎えました。

マヌイルは対外的な活動にも積極的で、海賊行為を繰り返していたトルコ勢力に対して、周辺のラテン勢力と同盟を結びました。また、アカイア公国の継承者争いでは、妻の親族であるリュジニャン家の候補者を支援しました。

1380年4月10日、マヌイルはミストラスで亡くなり、自らが建立した聖ソフィア聖堂に埋葬されました。妻のマリアとの間には子供はいなかったため、マリアは義兄のマテオスに専制公領の統治を託し、キプロス王国に去りました。

マヌイル・カンダクジノスは、モレアス専制公領の建設と発展に尽力し、その卓越した行政手腕と軍事力によって、東ローマ帝国最後の政治的・文化的繁栄の舞台を築きました。彼は著作を残していませんが、高い教養を持ち、文化人との交流も盛んであったとされています。当時の文化人は、若き日のマヌイルを「殆ど全ての徳を備えた、理想的な君主」と称賛しています。

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