マラソンの戦い

『マラソンの戦い』

『マラソンの戦い』（原題：La battaglia di Maratona）は、1959年にイタリアで製作された歴史映画であり、当時のイタリア映画界で流行していたスペクタクル史劇、通称「ソード&サンダル」ジャンルに属する一作である。主演は、『ヘラクレス』シリーズなどで国際的な人気を博していた俳優スティーヴ・リーヴスが務めた。

題材となった歴史と伝説

本作の題材は、紀元前5世紀初頭に勃発した古代ペルシア戦争の中でも特に重要な局面である、紀元前490年のマラトンの戦いである。当時のアケメネス朝ペルシア帝国は、強大な軍事力を背景に版図を拡大しており、大王ダレイオス1世はエーゲ海を越えてギリシア本土への征服を企図していた。これに対し、ギリシアの都市国家群は自由を守るために抵抗を試みる。映画は、アテナイに迫るペルシアの大軍と、それに立ち向かうアテナイ市民の姿を描写する。

物語の核となるのは、マラトンの戦いそのものだけでなく、その前後に起こったとされる伝説的なエピソードである。特に、アテナイの若者がスパルタへ救援を求めに長距離を走った話や、アテナイがペルシア軍を破った勝利を伝えるために都市まで走り、報を伝えた後に力尽きたとされる話は、後の近代オリンピックにおけるマラソン競技の起源として広く知られている。本作は、この伝説に焦点を当て、主人公の過酷な旅路と英雄的な活躍をドラマチックに描いている。

あらすじ

紀元前5世紀、ペルシアの大王ダレイオス1世は、ギリシアへの大規模な遠征軍を組織し、アテナイへと差し向けた。アテナイは迫りくる危機に対し、同盟国である軍事国家スパルタへの救援要請を決断する。この重大な使命を託されたのが、アテナイ随一の俊足であり、かつてオリンピックの優勝者でもあった若者フィリッピデスである。フィリッピデスは、アテナイの存亡をかけた希望を背負い、遥か南方に位置するスパルタを目指し、過酷な長距離をひたすら走り続けることになる。

彼の道程は平坦ではない。険しい山野を越え、敵の追跡や自然の脅威に晒されながら、彼は不屈の精神力と体力で前進を続ける。スパルタに到着したフィリッピデスは、アテナイの窮状を訴えるが、スパルタ側は宗教的な理由から、すぐに軍を動かすことができないと告げる。絶望的な状況の中、マラトン平原ではペルシア軍とアテナイ軍の間で激しい戦闘が開始される。映画は、マラトンの戦場の緊迫した状況と、フィリッピデスの孤独な旅路を交互に描きながら物語を進める。そして、アテナイ軍が奮戦し、圧倒的な兵力差を覆してペルシア軍に勝利を収めた後、フィリッピデスは勝利の報をアテナイ市民に伝えるため、再び最後の力を振り絞って故郷へと向かう、伝説的な疾走に挑むことになる。

キャスト

本作で主人公フィリッピデスを演じたのは、当時ソード&サンダル映画のトップスターであったスティーヴ・リーヴスである。その鍛え上げられた肉体は、伝説的なランナーであるフィリッピデス役に説得力を持たせた。その他の主要なキャストは以下の通りである。

フィリッピデス：スティーヴ・リーヴス
アンドロメダ：ミレーヌ・ドモンジョ
テオクリトス：セルジオ・ファントーニ
クルーソス：イヴォ・ガラーニ
ミルティアデス：アルベルト・ルーポ
カーリス：ダニエラ・ロッカ
ダレイオス1世：ダニエレ・ヴァルガス
エウロス：アラン・スティール

ソード&サンダル映画としての位置づけ

『マラソンの戦い』が製作された1959年は、イタリア製スペクタクル映画が世界的に成功を収めていた時期であり、本作もその流れを汲んでいる。古代史や神話の物語を、大規模なセットやエキストラを用いた戦闘シーン、英雄的な主人公の活躍、そして時にはロマンスを交えて描くのがこのジャンルの特徴である。本作も、史実に基づいたマラトンの戦いを背景としつつ、フィリッピデスという伝説的な人物に焦点を当てることで、歴史劇としての重厚さと、英雄譚としての娯楽性を兼ね備えた作品となっている。

総じて、『マラソンの戦い』は、古代ギリシアの歴史的出来事と、後世に語り継がれる伝説的なエピソードを、当時のイタリア映画界の技術とスター俳優によって映像化した、ソード&サンダル史劇の代表的な一作であると言えるだろう。

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