マリー・タッソー

マリー・タッソー：革命と蝋人形の生涯

マリー・タッソー（1761年-1850年）は、フランス革命という激動の時代を生き抜き、ロンドンに世界的に有名なマダム・タッソー館を設立した、類まれな女性です。彼女の人生は、芸術的才能と類まれな歴史的経験が織りなす、ドラマチックな物語です。

ストラスブールからパリへ：才能の芽生え

マリー・グロシュルツとしてストラスブールに生まれたマリーは、幼くして父親を亡くします。母親と共にスイスに移住し、蝋人形制作の技術に長けた医師フィリップ・クルティウスのもとで家政婦として働き始めます。クルティウスはマリーを「伯父」と呼び、その技術を丁寧に指導しました。マリーは、その才能を早くから開花させ、1770年代にはヴォルテールやベンジャミン・フランクリンなど、著名人の蝋人形を制作するようになります。1778年、マリーは自身の制作による最初の蝋人形、ジャン＝ジャック・ルソーの肖像を作成しました。

クルティウスは、マリーが才能を開花するにつれて、パリで蝋人形展示会を開き、成功を収めました。マリーはクルティウスのアシスタントとして参加し、展示会の成功に貢献しただけでなく、自身の才能を磨いていきました。1780年代には、フランス宮廷に仕えるようになり、ルイ16世の妹であるエリザベートの蝋人形教師としてヴェルサイユ宮殿で過ごすことになります。

革命の嵐：恐怖と創造

フランス革命勃発。マリーは、革命の重要人物、ナポレオン・ボナパルトやロベスピエールと出会い、王室とも良好な関係を保ちながら、激動の時代を生き抜きました。革命の混乱の中で、マリーは王党派の疑いをかけられ逮捕されます。しかし、彼女の蝋細工の技術が命を救うことになります。獄中で、彼女は処刑を待つ囚人たちのデスマスクを制作することになり、ルイ16世やマリー・アントワネットなどの、歴史に名を残す人物の最期の瞬間を記録しました。この経験は、のちにマダム・タッソー館の「恐怖の部屋」として結実することになります。

イギリスでの成功：マダム・タッソー館の創設

1794年、クルティウスの死後、マリーは彼の蝋人形コレクションを受け継ぎます。1795年には、フランソワ・タッソーと結婚。しかし、夫のギャンブル癖とフランスの政治情勢の不安定さを理由に、1802年、マリーは4歳の息子と共にイギリスへ渡ります。イギリスでは、地方巡業を行いながら、自身の蝋人形コレクションを展示し、好評を博します。1808年には、興行主との契約を解消し、独立して「Madame Tussaud & Sons'」を設立します。

30年にわたる地方巡業の後、1835年、マリーは70歳代半ばにして、ロンドンのベーカー街に常設の蝋人形館を開館します。これは、現在も世界的に有名なマダム・タッソー館の始まりです。1838年には『回想録』を執筆し、1842年には自身の蝋人形を制作しました。この蝋人形は現在も館に展示されており、彼女の生涯と業績を象徴する存在となっています。

死後も続く遺産

1850年、マリー・タッソーはロンドンで88歳で亡くなりました。しかし、彼女の功績はマダム・タッソー館として世界中に広がり、現在も人々を魅了し続けています。アムステルダム、ベルリン、ニューヨークなど、世界各地に支店を持つマダム・タッソー館は、マリー・タッソーという一人の女性の才能と、革命という激動の時代を生き抜いた経験が作り上げた、偉大な遺産です。その蝋人形たちは、歴史の証言者として、今日もなお人々に感動と驚きを与え続けています。

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