マルクス・フルウィウス・フラックス (紀元前264年の執政官)
マルクス・フルウィウス・フラックス
マルクス・フルウィウス・フラックス（ラテン語: Marcus Fulvius Flaccus）は、共和政ローマ中期に活躍した高名な政治家であり、軍事指揮官でもありました。特に紀元前264年には国家最高職の一つである執政官（コンスル）に就任しています。歴史家ティトゥス・リウィウスの記述によれば、彼の個人名（プラエノーメン）についてはクイントゥスであった可能性も示唆されています。
経歴
初期キャリア
フラックスの政治家としての活動は、紀元前270年に護民官（トリブヌス・プレビス）を務めた記録から確認できます。この職は平民の権利保護を担う重要なポストでした。さらに、彼はマニウス・クリウス・デンタトゥスという高名な人物が死去した後、水道建設を監督する二人官（ドゥウムウィル・アクイス・パーデューケンディスなど、具体的な役職名は資料により差異がある）の職を引き継ぎました。この責任者として、ローマへ水を供給するための重要なインフラストラクチャーであった旧アニオ水道の建設事業を完遂させ、首都の発展に貢献しました。
執政官時代（紀元前264年）
紀元前264年、マルクス・フルウィウス・フラックスは同僚執政官マニウス・オタキリウス・クラッススと共に執政官に選出されました。彼の最も顕著な業績はこの年の軍事活動に関わるものです。彼は前年の執政官クィントゥス・ファビウス・マクシムス・グルゲスが着手し、包囲戦中に負傷死した後に補充執政官プブリウス・デキウス・ムスが引き継いでいたウォルシニ（現在のボルセーナ）の包囲戦を引き継ぎました。ウォルシニは当時のイタリア半島において、ローマに対して最後まで抵抗を続けていたエトルリア人の重要な都市でした。
フラックスは巧妙な指揮のもと、この難攻不落と見られていた都市を紀元前264年中に陥落させることに成功しました。都市の制圧後、彼は厳しい措置を講じました。具体的には、ウォルシニを徹底的に略奪し、その後完全に破壊することを命じました。そして、生き残った住民たちは、他の地へ強制的に移住させられました。これは、ローマに対する抵抗の拠点となった都市への見せしめとしての性格も持っていたと考えられます。この輝かしい軍事的成功を祝し、ローマの公式記録である凱旋式ファスティには、紀元前264年11月1日にマルクス・フルウィウス・フラックスが盛大な凱旋式を挙行したことが明記されています。
近年の発見
20世紀後半、特に1960年代になって、ローマ市内のサン・オモボノ教会周辺の遺跡から、彼の業績に関連する重要な考古学的発見がありました。ここで、フラックスが神殿に奉納したとみられる「ドナリウム」（奉納品保管庫）が発掘されたのです。このモニュメントの上部には、多くの傷跡が残されていました。これは、彼がウォルシニ攻略の際に獲得し、戦利品としてローマへ持ち帰った多くの奉納物、とりわけ大量の彫像などをここに安置・奉納した際に生じたものと解釈されています。この発見は、古代の記録を裏付ける貴重な物証となり、ウォルシニがローマにとってエトルリア地域における最後の重要な征服であったことの歴史的重要性を改めて示唆するものです。
その後の活動
執政官を務めた後も、フラックスはローマ政界で活動を続けました。紀元前246年には、ティベリウス・コルンカニウスが非常時に任命された独裁官（ディクタトル）となると、その副官であるマギステル・エクィトゥム（騎兵長官）に指名されました。これは、彼が経験豊富な軍事指導者として依然として信頼されていたことを示しています。
一族
マルクス・フルウィウス・フラックスは、有力なプレブス系氏族であるフルウィウス氏族の中でも特に繁栄を極めたフラックス家系の始祖であると考えられています。彼の血筋からは、後に多くの高官を輩出することになります。例えば、紀元前237年以降に複数回にわたり執政官などの要職を務めたクィントゥス・フルウィウス・フラックスは、彼の息子である可能性が非常に高いとされています。このように、マルクス・フルウィウス・フラックスは、単なる一政治家・将軍としてだけでなく、その後のローマ史に影響を与える一族の基礎を築いた人物としても重要な位置を占めています。
彼の生涯は、共和政ローマがイタリア半島における支配を確立し、大国へと発展していく過程において、軍事的・政治的に貢献した人物の一例として、歴史にその名を刻んでいます。
参考文献
T. R. S. Broughton (1951, 1986). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association
関連項目
共和政ローマ執政官一覧
旧アニオ水道
ウォルシニ
* フルウィウス氏族
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