マルケッルス劇場

マルケッルス劇場は、共和政ローマ末期からローマ帝国初期にかけて建設された、古代ローマの代表的な劇場建築です。元老院議員マルクス・マルケッルスの名が冠されていますが、彼自身は劇場の完成前に亡くなっています。建設地はガイウス・ユリウス・カエサルが整備しましたが、カエサルの暗殺後、アウグストゥス帝によって紀元前13年に完成し、紀元前12年に正式に利用が開始されました。

直径111メートルを誇るこの劇場は、当初1万1000人の観客を収容することができました。ローマ劇場建築の典型的な例として、凝灰岩を主体とし、白いトラバーチンで覆われた外観が特徴です。コンクリートの表面は、網目状に石を積み上げたオプス・レティクラートゥムと呼ばれる技法で装飾されています。

劇場内部は、アーチ、廊下、トンネル、傾斜路が複雑に組み合わさった構造を持ち、ギリシア建築のオーダー様式に倣った円柱が装飾されています。最下部はドーリア式、その上はイオニア式、最上部にはコリント式の円柱があったと考えられていますが、中世の修復時に上層部の客席や円柱が取り除かれたため、詳細は不明です。

ローマ劇場は周囲の風景を背景に取り入れることが特徴で、マルケッルス劇場からは南西にティベリーナ島を望むことができます。このような背景はスカエナと呼ばれ、他のローマ劇場と同様に観客席の上部に設置されています。

マルケッルス劇場が建設される以前には、紀元前150年頃に「孝心」の神殿が建てられていたという記録があります。この神殿は、牢獄に監禁された母親に乳を与えたとされる女性の物語に由来しています。

ローマ帝国崩壊後、劇場は廃墟となり、テンプルム・マルケッリと呼ばれていました。中世初期にはファビウス氏族が要塞として利用し、11世紀末にはピエール・レオーニとその子孫が支配しました。13世紀にはサヴェッリ家の所有となり、16世紀にはバルダッサーレ・ペルッツィが設計したオルシーニ家の住居が、劇場の廃墟の上に建てられました。

現在、劇場の上層階はアパートとして利用されており、周囲では野外コンサートが開催されています。劇場の北西にはPortico d'Ottaviaがあり、さらにその先にはローマのゲットーが、南西にはテヴェレ川が流れています。

17世紀のイギリス人建築家クリストファー・レンは、オックスフォードのシェルドニアン劇場の設計が、セルリオが描いたマルケッルス劇場の版画に影響を受けたと述べています。

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