マルタ騎士団員の肖像

マルタ騎士団員の肖像

『マルタ騎士団員の肖像』は、ルネサンス期のヴェネツィア派を代表する巨匠、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1510年から1515年頃に制作した油彩画です。この作品は、マルタ騎士団に所属する騎士を描いたもので、ティツィアーノの初期作品に特徴的な、ジョルジョーネの影響を強く受けた作風を示しています。現在はフィレンツェのウフィツィ美術館に所蔵されています。

作品の特徴

絵画は、暗い背景から浮かび上がる若い男性の半身像を描いています。男性は、当時の流行であった短い顎髭と長髪をしています。白いシャツの上に、マルタ騎士団の騎士であることを示す銀のマルタ十字が刺繍された黒いローブを羽織っています。首には金の十字架のペンダントをかけ、右手にはロザリオの大きな球形のビーズを持っています。ロザリオの最後のビーズには「XXXV（35）」という数字が刻まれており、これは肖像画が描かれた当時のモデルの年齢を示していると考えられています。

モデルについては、フィレンツェ包囲中に共和党の抵抗運動を率いた傭兵隊長ステファノ・コロンナとする説が広く受け入れられていましたが、近年、美術史家ハロルド・ウェゼイによって疑問が呈されています。

制作と帰属を巡る議論

19世紀には塗料の酸化により保存状態が悪化し、制作者の特定が困難となっていました。ジョヴァンニ・バティスタ・カヴァルカゼル、ジョゼフ・アーチャー・クロウ、ジョヴァンニ・モレッリといった美術史家たちは、この肖像画の制作者を特定できませんでした。オットー・ミュンドラーはピエトロ・デラ・ヴェッキアの作品（1869年）であると主張し、ロベルト・ロンギはパリス・ボルドーネの作品であると主張しました。他の研究者たちは、ジョルジョーネとティツィアーノの間で意見が分かれました。バーナード・ベレンソンを含む一部の批評家は、20世紀になってもジョルジョーネの作品であると主張し続けましたが、現在では、この作品は若き日のティツィアーノの作であるというのが広く受け入れられています。

修復と再評価

1998年にステファノ・スカルペリによって行われた修復作業で、ワニス層が除去され、画面の可読性が大きく向上しました。この修復以降、ジョルジョーネの影響を強く残したティツィアーノの初期作品として言及されることが多くなりました。

来歴

この絵画は1654年に、枢機卿レオポルド・デ・メディチによって購入されました。レオポルド枢機卿は、ヴェネツィアの代理人パオロ・デル・セーラを通じてヴェネツィア派の作品をいくつか収集しており、この肖像画もそのうちの1点でした。購入価格は300ピアストルであり、当時すでにティツィアーノの自筆作品と見なされていました。1677年にウフィツィ美術館のトリブーナに展示され、その後1709年にポッジョ・ア・カイアーノのメディチ家別邸に移送されました。絵画の裏のラベルに示されているように、当時はジョルジョーネの作とされていました。その後、何度か収蔵場所を移された後、1798年に最終的にウフィツィ美術館に戻されました。

まとめ

『マルタ騎士団員の肖像』は、ティツィアーノの初期の作風を示す貴重な作品です。その帰属を巡る議論は美術史の興味深い側面を示しており、修復によって鮮明になった色彩は、画家の初期の才能を今に伝えています。ウフィツィ美術館で、この作品を鑑賞する際には、その歴史と背景に思いを馳せてみるのも良いでしょう。

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