マルーラ

マルーラ：アフリカの恵みと文化

マルーラ（学名：Sclerocarya birrea）は、ウルシ科に属する果樹です。南部アフリカや西アフリカ、マダガスカルなどに自生し、その独特の風味と栄養価から、古くから現地の人々に利用されてきました。雌雄異株で、最大18メートルにも成長する大きな樹木です。樹皮は灰色でまだら模様が特徴です。

生態と分布

マルーラは、低地の疎林に多く生育します。その分布域は、バントゥー系民族の移動と深く関わっており、彼らの食生活において重要な役割を担ってきたと考えられています。キリン、サイ、ゾウなど、多くの野生動物がマルーラの葉や実を食料としており、特にゾウは好んで食べ、樹皮や枝にも大きな被害を与えています。一方で、ゾウはマルーラの種子を糞とともに散布することで、植物の繁殖にも貢献しています。

マルーラの実は、12月から3月にかけて熟します。明るい黄色の果皮と、ジューシーで酸味のある白い果肉が特徴です。果肉には、オレンジの約8倍ものビタミンCが含まれています。果実の中には、クルミほどの大きさの硬い種子があり、乾燥させると小さな穴から仁を取り出すことができます。この種子からは、繊細なナッツ風味の油が抽出されます。

名称の由来と多様な呼び名

属名 Sclerocarya は、ギリシャ語で「堅い種子」を意味します。種小名 birrea は、セネガルでの現地名に由来します。マルーラは、マンゴーやピスタチオと同じウルシ科に属し、マダガスカルの Poupartia 属と近縁です。

地域によって様々な呼び名を持ち、マルーラ、ゼリープラム、モルーラ、サイダーツリーなどと呼ばれています。南アフリカでは、アフリカーンス語で「Maroela」と呼ばれ、保護対象となっています。ケニア、タンザニアなどでは、スワヒリ語、ディゴ語、マサイ語など、それぞれの言語で固有の名称を持っています。

利用と産業

マルーラは、世界的にはあまり知られていませんが、アフリカでは重要な食糧資源であり、社会経済に大きく貢献しています。果実は生食のほか、ジュース、ジャム、冷凍ピューレなどに加工されます。特に、マルーラ酒は南部アフリカで広く親しまれており、伝統的な醸造方法で作られるものや、工場で製造される蒸留酒、クリームリキュールなどがあります。南アフリカのクリームリキュール「アマルーラ」は、世界的に有名な製品です。

ただし、2020年初頭より、日本のマルーラ果実の輸入は禁止されています。これは、果実に寄生するアフリカマンゴウミバエが日本の栽培果実に影響を与える可能性があるためです。

マルーラの種子からは、高品質の食用油が抽出されます。このマルーラオイルは、オレイン酸を多く含み、保湿効果が高いことから、化粧品の原料としても使用されています。伝統的には、アフリカ諸国で保湿剤として用いられてきました。

文化と歴史

マルーラは、アフリカ諸国の文化に深く根付いています。1951年には「アフリカの守護木」と呼ばれ、様々な物語や芸術作品にも登場します。南アフリカの作家ハーマン・チャールズ・ボスマンの小説にも、マルーラ酒が登場します。

また、マルーラの実を食べたゾウなどが酔っ払う様子は、1974年の映画『Animals Are Beautiful People』でも描かれています。ゾウが大量に発酵したマルーラの実を摂取することで、酔っ払うという報告は多く、文化的な側面と自然現象が絡み合った興味深い事例と言えます。

2015年には、ナミビアのマルーラ果実の祭り「oshituthi shomagongo」がユネスコ無形文化遺産に登録されました。これは、マルーラが単なる果樹ではなく、人々の生活や文化に不可欠な存在であることを示しています。

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