マーガレット・ボーフォート

マーガレット・ボーフォート：薔薇戦争を生き抜き、テューダー朝を築いた女性

マーガレット・ボーフォート（1443年5月31日-1509年6月29日）は、15世紀イングランドを揺るがした薔薇戦争の渦中で、並外れた手腕と政治感覚を発揮した女性貴族です。ランカスター家と深い繋がりを持つボーフォート家の出身であり、その生涯は、幾度もの政略結婚、息子のヘンリー7世による王位獲得への貢献、そして教育への情熱というドラマティックな出来事で彩られています。

生い立ちと複雑な出自

マーガレットは、サマセット公ジョン・ボーフォートとマーガレット・ビーチャムの間に生まれました。父方の祖父は、ランカスター公ジョン・オブ・ゴーントとキャサリン・スウィンフォードの間に生まれたジョン・ボーフォート（初代サマセット伯）です。この出自が、マーガレットの生涯に大きな影響を与えました。ジョン・オブ・ゴーントとキャサリンの結婚は、後に正式なものと認められましたが、その子孫であるボーフォート家は王位継承権を放棄するという条件が課せられていたのです。

波乱の結婚と薔薇戦争

マーガレットは生涯で4回結婚しました。最初の結婚は、7歳の時にサフォーク公の息子ジョンとの政略結婚でしたが、後に無効とされています。これは、子を持たないヘンリー6世がマーガレットを王位継承者として考える可能性があったためです。その後、彼女はヘンリー6世の異父弟であるリッチモンド伯エドマンド・テューダーと再婚。この結婚で、後のヘンリー7世となる息子ヘンリーを産みます。薔薇戦争の勃発、そしてエドマンドの死という苦境の中で、マーガレットは息子の未来を懸けて奔走します。

その後も、ヘンリー・スタッフォード卿、トマス・スタンリー卿と結婚。これらの結婚もまた、常に変化する政治情勢の中で、息子の立場を安定させ、王位への道を拓くための戦略的なものでした。特にトマス・スタンリー卿との結婚は、ヨーク派に属していた彼との結合であり、政治的駆け引きの妙技が見て取れます。彼女は、常に権力者に接近し、情報収集や息子の安全確保に努め、時にヨーク派、時にランカスター派と柔軟に連携することで、息子のヘンリーを常に守りました。

ヘンリー7世即位への貢献

リチャード3世の台頭は、マーガレットにとって新たな試練をもたらします。彼女はバッキンガム公ヘンリー・スタッフォードの反乱に加担、リチャード3世打倒に動き出しました。反乱は失敗に終わりますが、彼女は息子のヘンリーとの結婚をエドワード5世の姉であるヨーク公女エリザベスと画策、王位継承の正当性を高めることに成功します。

ボズワースの戦いは、マーガレットの戦略が結実する瞬間でした。夫トマス・スタンリーは、当初リチャード3世に味方していましたが、戦況を見てヘンリー側に寝返ります。この決断が、ヘンリーの勝利に大きく貢献したことは間違いありません。そして、ヘンリー7世の戴冠式には、マーガレットとトマスは共に立ち会いました。

教育への貢献と晩年

ヘンリー7世の即位後、マーガレットは宮廷から引退し、教育と慈善事業に尽くしました。彼女は、ウィンボーンに無料の学校を設立、ケンブリッジ大学クライスツ・カレッジの設立にも尽力するなど、教育振興に多大な貢献を果たしました。また、オックスフォード大学の発展にも関与し、ウェストミンスター寺院のヘンリー7世礼拝堂建設にも携わっています。文化面でも、ウィリアム・キャクストンを支援するなど、その影響力は多岐に渡りました。

1509年、66歳で息子のヘンリー7世に先立って亡くなりましたが、その生涯は、薔薇戦争という激動の時代を生き抜き、息子の王位獲得に貢献しただけでなく、教育と文化の発展にも大きく寄与した、類まれな女性の物語として、歴史に刻まれています。彼女の墓は、今日でもウェストミンスター寺院のヘンリー7世礼拝堂で見ることができます。

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