マーシャル・ネデリン (ミサイル追跡艦)

マーシャル・ネデリン

旧ソビエト連邦およびロシア連邦が運用したミサイル追跡艦「マーシャル・ネデリン」は、同名のマーシャル・ネデリン級ミサイル追跡艦のネームシップにあたります。本艦は1914計画に基づき建造され、秘密名称として「ザディアーク」（ロシア語で「黄道帯」の意）と呼ばれていました。艦名の「マーシャル」（ロシア語で「元帥」）は、ソ連の兵科総元帥であるミトロファン・ネデリンにちなんで命名されました。ミサイル追跡艦は、大陸間弾道ミサイル（ICBM）や宇宙ロケットの試験、人工衛星や宇宙船との通信支援といった、国家の戦略的な任務を遂行するために不可欠な艦種でした。

建造の経緯と過程

「マーシャル・ネデリン」の建造は、複数にわたるソビエト連邦の閣僚会議議決および国防省省令を経て、正式に決定されました。具体的には、1974年7月16日の閣僚会議議決第577-195号、同年8月19日の国防省省令第00493号および閣僚会議決議などがその根拠となりました。設計はバルスドプロク中央設計局が担当し、ソ連国家賞を受賞した著名な造船技師、ドミトリー・ソコロフの指導のもと進められました。建造地に選ばれたのは、レニングラード（現在のサンクトペテルブルク）に位置するアドミラルティ造船所でした。

ネームシップである「マーシャル・ネデリン」は、1977年11月19日に記念すべき起工を迎えました。その後、建造作業は順調に進み、1981年10月30日には壮麗な進水式が行われました。進水からしばらくの後、1982年7月7日には艦の各種システムや機器の機能を確認する係留試験が開始されました。そして、1983年12月からは実際の海上での性能を評価する海上試験へと移行しました。この海上試験には、国務委員会委員長を務めたエブゲニー・ヴォロブエフ中将の指揮により、過酷な氷海での航行試験も含まれていました。特にフィンランド湾での耐氷構造の検証は厳しい環境下で行われましたが、特筆すべきは、砕氷船の支援を受けることなくレニングラードへ自力で帰還できたという、その高い耐航性が実証されたことです。一連の試験を終え、1984年3月26日にはV.F.ヴォルコフ一等艦長が第2代艦長として着任。その後、同年8月20日に本艦は晴れて就役を果たし、国家の重要な任務に就くこととなりました。

輝かしい運用実績

運用が開始された「マーシャル・ネデリン」は、ソ連太平洋艦隊の所属となり、閉鎖都市であったペトロパブロフスク・カムチャツキー50（現在のヴィリュチンスク）を母港として活動を開始しました。本艦は特に1987年から1989年にかけて極めて活発に運用され、そのわずか数年間の航行距離は、20年以上にわたり運用されていたシビール型ミサイル追跡艦の総航行距離のほぼ半分に迫るほどであったと記録されています。

「マーシャル・ネデリン」は、ソ連およびロシアの宇宙開発計画において重要な役割を担いました。例えば、1985年6月8日には、太陽電池の故障により宇宙空間を漂流していた宇宙ステーション「サリュート7号」と宇宙船「ソユーズT-13」との困難なドッキング作業、そして「サリュート7号」のシステム復旧を地上から支援する通信中継任務に貢献しました。また、1986年3月15日から5月31日にかけては、南緯17度00分 西経161度00分の地点から「ソユーズT-15」宇宙船との通信を中継し、「サリュート7号」から新たな宇宙ステーション「ミール」への機器移送操作を支援しました。さらに、1988年11月15日には、南緯45度00分 西経133度00分の海上から、巨大な「エネルギア」ロケットの打ち上げと、ソ連版スペースシャトルである宇宙往還機「ブラン」の無人飛行を精密に追跡・管制しました。これらの宇宙関連ミッションに加え、「マーシャル・ネデリン」は新型大陸間弾道ミサイルの試験においても、その追跡能力を活かして繰り返し重要な役割を果たしました。

波乱の末期と解体

時代がペレストロイカへと移り変わる中、「マーシャル・ネデリン」は計画に基づき、ウラジオストクのダルザヴォート造船所で修理を受けることになりました。この修理では、主機関、航法機器、コンピューターシステムなどの主要機器を更新し、測定機器の一部を交換することが予定されていました。しかし、修理作業は遅々として進まず、事態を憂慮した役員会議は1990年12月、当時のドミトリー・ヤゾフ国防大臣に対し、状況改善を求める書簡を送りました。にもかかわらず、ソ連国防省からの委員会設置や検査官派遣といった具体的な対応は行われず、本艦はウラジオストク港に係留されたまま保管されることになります。

そして、修理されないまま保管されていた「マーシャル・ネデリン」は、ソビエト連邦の崩壊という激動の時代に遭遇します。新たなロシア連邦太平洋艦隊は慢性的な予算不足に苦しみ、「マーシャル・ネデリン」は修理されることもなく、かといって解体されることもなく、ダルザヴォート造船所の岸壁に放置される状態が続きました。1996年には荒天に見舞われ、近くにいた哨戒艦艇が本艦に乗り上げる事故が発生。これにより、甲板上の機器が損傷するという二次的な被害も受けました。問題を抱えたまま金角湾に係留され続けた本艦は、港内の船舶航行の障害となりかねない状況となったため、後にユリシーズ湾へと移動されました。

結局、放置状態が続く中で、「マーシャル・ネデリン」は再び活躍することはありませんでした。1998年5月30日、本艦はその任務を終え、正式に除籍されました。

除籍から約2年後の2000年5月末、「マーシャル・ネデリン」は砕氷船「マガダン」に曳航され、最後の航海に出発しました。その目的地は、解体のためインドのグジャラート州にあるアランでした。曳航されて約1ヶ月後、「マガダン」と「マーシャル・ネデリン」はアランの海岸に到着。ここで曳航索を切断された「マーシャル・ネデリン」は座礁させられ、その後、スクラップとして解体されることとなりました。かつてソ連の宇宙開発や戦略兵器開発を支えた巨大な追跡艦は、遠い異国の地でその生涯を終えたのです。

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