マージ・アル・サファーの戦い (1303年)

マージ・アル・サファーの戦い：モンゴル軍のシリア侵攻に終止符を打った激戦

1303年4月20日から22日にかけて、シリアのアル・キスワ近郊で、イスラム世界のマムルーク朝と、モンゴル帝国のイルハン朝、そしてその属国であるアルメニア王国との間で、マージ・アル・サファーの戦いが勃発しました。この戦いは、モンゴル軍の壊滅的な敗北という結果に終わり、ガザン・ハン率いるイルハン朝のシリア侵攻に終止符を打ちました。

戦いまでの経緯：モンゴルの進撃とマムルーク朝の抵抗

13世紀、モンゴル軍はホラズムの征服を皮切りに、ペルシア、アナトリアへと勢力を拡大しました。ルーム・セルジューク朝を屈服させ、キリキア・アルメニア王国やジョージア王国といった属国も従え、1258年にはバグダードを陥落させました。その後、アレッポ、ダマスカスをも占領しますが、1260年のアイン・ジャールートの戦いでマムルーク朝に敗北を喫し、シリアから撤退を余儀なくされます。

約40年後、ガザン・ハン率いるイルハン朝はシリアへの再侵攻を開始し、1299年にはアレッポを奪還、ダマスカスも陥落させました。ガザ近郊まで南下した後、一旦撤退しますが、1303年、ガザン・ハンはクトルグ・シャーを総司令官とする大軍をシリアへ派遣します。アレッポやホムスの住民はダマスカスへ逃れ、マムルーク朝はエジプト本国に援軍を要請しました。

激しい戦闘：マムルーク朝の勝利

1303年4月20日、ラマダーンの2日目、マージ・アル・サファーの平原で両軍は激突しました。モンゴル軍は川沿いに陣を張り、戦闘はモンゴル軍左翼の攻撃から始まりました。マムルーク朝は右翼に大きな損害を受けましたが、ムザッファル・バイバルス率いる中央軍と、ベドウィン族を含む左翼が反撃を開始。激しい戦闘が展開されました。

モンゴル軍総司令官クトルグ・シャーは丘の上から戦況を指揮しようとしましたが、マムルーク軍に包囲され、多くの死傷者を出して苦戦を強いられました。翌朝、マムルーク軍は川への退路を開き、モンゴル軍は壊走。マムルーク軍の追撃を受け、多くの兵士が殺戮されました。戦闘は翌日まで続きましたが、モンゴル軍は決定的な敗北を喫しました。

戦後の影響：マムルーク朝の祝勝とイルハン朝の怒り

歴史家アル＝マクリーズィーによると、敗戦の報を受けたガザン・ハンは激怒し、鼻血を出したと言われています。一方、マムルーク朝では勝利の知らせがエジプト本国とダマスカスに伝えられ、スルタンはダマスカスに入城しました。マムルーク軍はカリヤタンまで追撃を行い、スルタンは凱旋門から凱旋しました。エジプト全土で祝賀行事が行われ、この勝利はマムルーク朝の勢力と威信を大きく高めました。マージ・アル・サファーの戦いは、モンゴル帝国の西への進出を阻止し、マムルーク朝の支配を強化した重要な戦いと評価されています。

参考文献

Boyle, J. A., ed. The Cambridge History of Iran: Volume 5 The Saljuq and Mongol Periods
Kurkjian, Vahan M. (2008). A History of Armenia. Indo-European Publishing.
Mazor, Amir (2015). The Rise and Fall of a Muslim Regiment: The Mansuriyya in the First Mamluk Sultanate, 678/1279-741/1341. Bonn University Press.
Waterson, James (2007). The Knights of Islam: The Wars of the Mamluks. Greenhill Books.
* 志茂碩敏 (1984). イル汗國におけるモンゴル人, 東洋史研究 (1984), 42(4): 696-732. 東洋史研究

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