マーチン2-0-2

マーチン2-0-2（Martin 2-0-2）は、アメリカの航空機メーカー、マーチン社（現ロッキード・マーティン）が第二次世界大戦終結後に開発・製造した双発のレシプロ旅客機です。一般に「マーチン202」と表記されることもありますが、正式名称は「マーチン2-0-2」とされています。

概要

本機は、当時世界中で広く運用されていたベストセラー旅客機ダグラスDC-3の後継機となることを目指して開発されました。DC-3と比較して機体サイズをやや拡大し、より強力なエンジンを搭載することで、巡航速度や積載能力（ペイロード）の向上を図っています。

1946年11月に初飛行を成功させ、翌1947年8月には民間機としての耐空証明を取得しました。しかし、その後の運用において構造設計上の深刻な欠陥が発覚したため、1948年半ばには既に受注していた分をもって生産が打ち切られる事態となりました。マーチン社は急遽、与圧客室を持つ改良型マーチン4-0-4の開発・生産に移行したため、マーチン2-0-2型はわずか34機が製造されたにとどまりました。この構造問題と少ない生産数により、導入した航空会社からの早期売却や、主要な発注元であったイースタン航空などからのキャンセルが相次ぎ、商業的には大きな失敗作となりました。

当時の市場環境も、本機の商業的失敗の一因とされます。第二次大戦中に大量生産されたDC-3の軍用輸送機型C-47やその派生型が、終戦に伴い数千機規模で民間に払い下げられ、比較的安価で信頼性の高い旅客機として世界中に普及していました。運用コストが低く信頼性も高かったこれらの払い下げDC-3が市場を席巻する中で、高価でしかも初期不良や信頼性に問題を抱える2-0-2が「ポストDC-3」の地位を確立することは困難であり、時期尚早な開発と機体固有の欠陥がその商業的成功を阻んだと言えるでしょう。

事故多発問題

マーチン2-0-2は、構造設計上の欠陥に起因する重大事故を頻繁に起こしました。1948年8月29日には、主翼の構造的な強度不足が原因で空中分解を起こし墜落する事故が発生。これにより、残存する全機体に対して連邦航空局（FAA）から改修命令が出されました。対策が講じられたものの、本機の信頼性に対する懸念は完全に払拭されませんでした。

特にノースウエスト航空では事故が相次ぎ、1950年3月から1951年1月にかけて、わずか10ヶ月ほどの間に4機もの同型機が全損事故を起こしています。さらに、ノースウエスト航空から日本航空にウェットリースされていた「もく星」号も、1952年に墜落事故を起こしました。総生産数わずか34機という少数にも関わらず、全損事故は13件（全体の約38%）にも達し、これらの事故によって合計163名の犠牲者を出しています。

日本における運用

第二次大戦で敗れた日本は、連合国軍総司令部（GHQ）により、軍用・民間用を問わず航空機の運用が禁止されていました。しかし、1951年（昭和26年）になると、旧大日本航空の流れを汲む日本航空株式会社（旧会社）により、日本の民間航空定期便が再開されることになります。ただし、当時の日本航空は営業部門のみを担い、実際の機体運用と操縦はアメリカのノースウエスト航空に委託する形態でした。この運航に用いられた機体が、他ならぬマーチン2-0-2型機でした。

日本航空が運航したのは5機のマーチン2-0-2で、それぞれに太陽系の惑星にちなんだ愛称が付けられました。「きん星」（N93041）、「もく星」（N93043）、「すい星」（N93049）、「ど星」（N93060）、「か星」（N93061）です。これらの機体は、機体記号が「N」で始まるアメリカ合衆国籍のままでした。なお、「きん星」の愛称は、これに先立ち定期便再開の宣伝飛行に使用されたチャーター機のDC-3「金星」号から引き継がれたものです。また、同時期にノースウエスト航空から供与されたDC-4型機（N88844）には「てんのう星」の愛称が付けられています。

航路の確認や試験飛行、PRを兼ねた体験搭乗などに「もく星」号などが使用され、「ど星」号が1951年10月25日に東京 - 大阪間の最初の定期航空路線に就航しました。しかし、1952年（昭和27年）4月9日には「もく星」号が墜落事故を起こし、機体を失う悲劇に見舞われました。この事故の影響もあり、1953年（昭和28年）に特殊会社として新たに日本航空が設立され、自社による機体運航が開始されるのに伴い、マーチン2-0-2は全てノースウエスト航空に返却され、日本の空からその姿を消しました。

性能要目

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