マーチ伯爵

マーチ伯爵とは

マーチ伯爵（Earl of March）は、イギリスの伯爵位であり、「マーチ」は辺境を意味し、「辺境伯」と訳される。スコットランドとイングランドの国境地帯に設けられた2つのマーチ伯爵が存在する。

スコットランドのマーチ伯爵

スコットランドのマーチ伯爵は、イングランドとの国境付近に所領を持ち、国境警備の役割を担った封建貴族に与えられた称号である。その起源は、11世紀にウィリアム征服王によってノーサンブリア伯に叙任されたゴスパトリックに遡る。地位を追われた彼はスコットランドへ逃れ、マルカム3世からダンバーとその周辺の所領を与えられた。ゴスパトリックは伯爵位を与えられたものの、当初は領土設定がなかった。1174年頃、ワルセオフの時代にダンバー伯爵となったことが確認されている。

ダンバー伯パトリック4世は、1291年にマーガレット女王崩御後の王位継承争いで、王位を請求した13人の一人であった。彼はウィリアム1世の娘エイダの子孫であると主張した。彼が最初にマーチ伯として言及される人物である。マーチ伯ジョージ・ダンバーは、娘をロバート3世の息子ロスシー公デイヴィッド・ステュアートと結婚させようとしたが、彼はダグラス家のマージョリーと結婚した。さらに、ダグラス家に押収されたマーチ伯領をめぐり、ロバート3世と対立し、イングランド王ヘンリー4世に迎え入れられた。彼はホミルドン丘の戦いにイングランド側で参戦し、シュルーズベリーの戦いでもダグラス家と同盟したパーシー家と戦った。1409年、ダグラス家と和解してスコットランドに帰国し、摂政オールバニ公ロバート・ステュアートによってマーチ伯に復帰した。しかし、息子のマーチ伯ジョージ・ダンバーは、1423年にジェームズ1世の釈放交渉に携わったものの、帰国後にオールバニ公爵家の粛清が行われ、投獄され領地と爵位を没収された。ここに最初のマーチ伯は終焉を迎えた。

その後、ジェームズ2世の次男アレグザンダー・ステュアートが1455年以前にマーチ伯に叙され、後にオールバニ公となった。彼は兄王ジェームズ3世と対立し、爵位を剥奪された時期もあった。その息子のオールバニ公ジョン・ステュアートの死後、爵位は廃絶した。1582年には、第3代レノックス伯爵ジョン・ステュアートの次男ロバート・ステュアートがダンバー伯爵とともにマーチ伯に叙されたが、継承者がいなかったため一代で廃絶した。1697年には、初代クイーンズベリー公爵ウィリアム・ダグラスの次男ウィリアム・ダグラスがマーチ伯に叙された。その孫である第3代マーチ伯ウィリアム・ダグラスは、クイーンズベリー公爵位を継承し、彼の死後は初代マーチ伯の女系子孫である第8代ウィームズ伯爵フランシス・チャータリスが継承した。以降、ウィームズ伯爵チャータリス家が代々マーチ伯爵位を継承しており、2020年現在の保有者は第13代ウィームズ伯爵ジェームズ・チャータリスである。

イングランドのマーチ伯爵

イングランドのマーチ伯爵は、1328年にエドワード2世を廃位させたイザベラ王妃の愛人、第3代モーティマー男爵ロジャー・モーティマーが叙爵されたことに始まる。彼は王妃の寵愛を背景に権勢を振るったが、1330年にエドワード3世によって逮捕され処刑された。この際、領地と爵位は剥奪された。しかし、その孫ロジャー・モーティマーが1354年にマーチ伯爵を回復した。

3代マーチ伯エドマンド・モーティマーは、エドワード3世の三男クラレンス公ライオネルの娘フィリッパと結婚し、その息子である4代マーチ伯ロジャー・モーティマーは、1385年にリチャード2世から王位継承者と宣言されたが、アイルランド総督在任中に戦死した。息子の5代マーチ伯エドマンド・モーティマーは、リチャード2世から王位継承者と認められたものの、1399年にヘンリー4世が王位を簒奪したことで一時所領を没収された。しかし、ランカスター朝に忠実に行動したことで、ヘンリー5世の即位後に所領を返還された。彼の死後、4代マーチ伯の娘アン・モーティマーと3代ケンブリッジ伯リチャードの子である3代ヨーク公リチャードプランタジネットが継承し、その息子の4代ヨーク公エドワード・プランタジネットが1461年にエドワード4世として国王に即位したことで、マーチ伯爵位は王冠に統合された。

その後、エドワード4世の子コーンウォール公エドワードがマーチ伯に叙位されたが、即位とともに王冠に統合され、リチャード3世に王位を簒奪された。1619年には、初代レノックス公エズメ・ステュアートの次男エズメ・ステュアートがマーチ伯に叙位された。彼は後にレノックス公爵位を継承したが、死去し、息子の4代レノックス公ジェイムズ・ステュアートが継承した。彼は1641年にイングランド貴族リッチモンド公爵に叙位され、以降マーチ伯爵位はリッチモンド公爵およびレノックス公爵の従属爵位となった。しかし、3代リッチモンド公チャールズ・ステュアートが継承者なく死去したことで廃絶した。1675年には、チャールズ2世の非嫡出子チャールズ・レノックスがリッチモンド公爵とともにマーチ伯爵に叙位され、以降現在までリッチモンド公爵レノックス家（のちゴードン＝レノックス家）によって継承されている。リッチモンド公爵家の法定推定相続人は、儀礼称号としてマーチ伯爵を使用する。2020年現在の爵位保持者は、第11代リッチモンド公爵チャールズ・ゴードン＝レノックスである。

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