マーティン・クリード

マーティン・クリード（Martin Creed, 1968年10月21日 - ）は、イギリスを代表する現代美術家の一人です。彼の作品は、日常的な物や行為、空間そのものを素材とし、観る者に新鮮な驚きと問いを投げかけます。

生い立ちと初期の活動

1968年、イギリスのウェイクフィールドで生まれたクリードは、ロンドン大学スレード美術学校で1986年から1990年まで美術を学びました。1990年代に入ると、身の回りにある日用品や文房具などを素材とした作品を制作し始めます。例えば、A4用紙をくしゃくしゃに丸めただけの作品（作品番号88）や、壁に押し付けられた小さな粘着材（作品番号79）など、そのシンプルさが特徴的です。

音楽とインスタレーション

クリードは美術作品だけでなく、音楽作品も手掛けています。部屋中のあらゆる物にマイクを取り付け、空間全体の音を増幅させるインスタレーション（作品番号95）や、1994年から自身が所属していたバンド「OWADA」での音楽活動もその一例です。バンドでは『1,2,3,4』や『a,b,c』といった、彼の作品に通ずるようなシンプルで実験的な楽曲を発表しています。

ターナー賞受賞と論争

2001年、クリードはターナー賞を受賞しました。その受賞作品となったのは、『作品番号227、ライトが点いたり消えたり』という、展示室の照明が5秒ごとに点滅するだけの作品でした。この作品は、その単純さゆえに「これは芸術なのか？」という大きな議論を呼びました。しかし、この作品は、鑑賞者の意識を作品そのものから、周囲の空間や時間へと向けさせる効果がありました。それまで一度もノミネートされていなかったクリードにとって、この受賞は大きな転機となりました。プレゼンターはマドンナが務めたことも話題を呼びました。

アジアでの大規模個展

2009年5月には、広島市現代美術館と東京のヒロミヨシイ画廊で個展が開催されました。特に広島市現代美術館での展覧会は、クリードにとってアジア初の大規模な個展となり、彼の作品が国際的に注目されるきっかけとなりました。

作品の特徴

クリードの作品は、そのほとんどに通し番号が付けられており、これまでに900以上の作品を制作しています。彼の作品は、一見すると単純に見えますが、その背後には、私たちの認識や日常に対する深い洞察があります。彼の作品は、既存の価値観を問い直し、芸術の概念を広げる役割を担っていると言えるでしょう。

主な作品

作品番号79、こねて、丸めて壁に押し付けたブル・タック: 直径1cmほどの青い粘着材が壁に押し付けられただけの作品。日常的な素材をそのまま展示することで、鑑賞者に新たな視点を提供します。
作品番号88、くしゃくしゃに丸めたA4用紙: 白いA4用紙がくしゃくしゃに丸められただけの作品。そのシンプルさゆえに、素材そのものの存在感や、行為の痕跡に意識を向けさせます。
作品番号227、ライトが点いたり消えたり: 何も置かれていない展示室で、照明が5秒ごとに点滅するインスタレーション。空間そのものを作品とし、鑑賞者に空間認識を促します。
作品番号268、与えられた空間のなかの半分の空気: 会場内を黒または青の風船で埋め尽くすインスタレーション。空気という目に見えないものを、風船によって可視化しています。観客は風船をかき分けて進むことで、空間と自己の関係性を意識させられます。
作品番号300、世界全体＋作品＝世界全体: テート・ブリテンの入り口に、作品名通りの文章をネオンで表示した作品。言葉の概念を作品として提示し、作品と世界の関係性、そして作品自体が世界の一部であることを示唆しています。

参考文献

森美術館監修『英国美術の現在史　ターナー賞の歩み』淡交社、2008年、67頁・108頁など。
美術手帖編集部『最新世界のアーティスト・ファイル100』美術出版社、2005年、48-49頁。
ダン・フォックス「音とアートの接近 2 from Europe」『美術手帖』2002年6月号、美術出版社、125-126頁。

外部リンク

本人のサイト
Turner Prize History

もう一度検索