ミコシガヤ

ミコシガヤ（Carex neurocarpa）

ミコシガヤは、カヤツリグサ科スゲ属に分類される多年草です。その特徴的な姿は、丸みを帯びた小穂が密集した穂状に並び、基部の苞が顕著に発達することに由来します。

特徴

形態: 株立ち状に生育する多年草。根茎は短く、茎が束になって生えます。花茎は20～60cmの高さに達し、滑らかな表面と鈍い稜を持ちます。葉は花茎よりも長く伸び、幅は2～3mm程度で、黄緑色をしています。基部の鞘は暗褐色をしています。
花期: 5～7月に花を咲かせます。花序は花茎の先端に1つだけつき、長さは3～8cm。柄のない小穂が15～25個、密に穂状に並びます。花序の形はほぼ円柱状で、幅は約1cmですが、先端に向かってやや細くなる傾向があります。小穂は初め緑色ですが、成熟すると暗赤褐色に変わります。小穂は雄雌性で、先端に少数の雄花をつけます。小穂の長さは4～8mmで、ほぼ球形です。小穂の基部から出る苞は鞘がなく、葉身部は葉状で長さは5～15cm。花序の先端に近づくにつれて鱗片状になります。特に花序の基部にある2～3枚の苞は長く、横に広がるためよく目立ちます。
小穂の構造: 雄花の鱗片は緑白色で、先端に短い芒状突起があります。雌花の鱗片は卵形で長さ3.5mm、半透明で中央部は暗褐色から栗褐色をしています。先端は芒状突起で終わります。果胞は長さ3.5～4mmで、雌花鱗片よりも長く、卵形で断面は扁平なレンズ状です。表面は滑らかで、多数の脈があり、先端は嘴状に狭まり、口は凹んでいます。果胞の縁には平らに伸びた広い翼があり、基部付近は海綿状に厚くなっています。表面には赤さび色の斑点が見られます。痩果は楕円形で長さ1mm、果胞にゆるく包まれています。柱頭は2つに裂けます。
和名: 御輿ガヤという名前は、花穂の形が御輿に似ていることに由来します。

分布と生育環境

日本国内では、本州と伊豆諸島の八丈島に分布しています。国外では、東アジアの北部地域に分布しています。ただし、国内の分布は局地的であり、特定の地域に偏って見られます。平地のやや湿った草地に生育し、河川敷や田の畦などが生育場所として挙げられます。氾濫原の植物であるという見方もあり、増水などで頻繁に洗い流される環境を好む一方で、乾燥した造成地などにも出現することがあります。

分類・近縁種

ミコシガヤは、匍匐茎を出さず、小穂が雄雌性で柄がなく、多数が穂状につくこと、果胞に翼があり、基部が海綿質に肥厚すること、柱頭が2裂することなどから、オオカワズスゲ節に分類されます。この節には、ミノボロスゲなどが含まれますが、これらの種は小穂下の苞があまり発達しないため、容易に区別できます。また、果胞の上半部に幅広い翼を持つことも区別点となります。

ミノボロスゲやツクシミノボロスゲなどが似た種として挙げられますが、上記の特徴から区別可能です。ヒメミコシガヤも名前が似ていますが、むしろこれらの種に似ており、ミコシガヤとは異なります。マスクサやヤブスゲなど、他の節にも小穂下の苞葉が発達する種はありますが、小穂が密集して生じ、基部の苞が特によく発達するミコシガヤと似たものはありません。

保護の状況

環境省のレッドデータブックには掲載されていませんが、新潟県、群馬県、東京都、および近畿地方の各府県で何らかの指定を受けています。特に三重県と和歌山県では、絶滅危惧I類という厳しい指定がなされています。河川敷などの攪乱の多い環境を好むため、定期的な草刈りなどの管理が必要ですが、河川敷の改修などによる生育地の破壊も懸念されています。

参考文献

星野卓二他、『日本カヤツリグサ科植物図譜』、(2011)、平凡社
勝山輝男、『日本のスゲ 増補改訂版』、(2015)、（文一総合出版）
大橋広好他編、『改定新版 日本の野生植物 1 ソテツ科～カヤツリグサ科』、(2015)、平凡社
星野卓二他、『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(I) 岡山県スゲ属植物図譜』、(2002)、山陽新聞社
牧野富太郎原著、『新分類 牧野日本植物図鑑』、(2017)、北隆館
すげの会、『日本産スゲ属植物分布図集』、(2018)、すげの会
* レッドデータブック近畿研究会編著(代表 村田源)、『改訂・近畿地方の保護上重要な植物―レッドデータブック近畿 2001―』、(2001)、平岡環境科学研究所

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