ミック・グゾウスキー

マルチ・プラチナム認定を受けた数多くの作品に携わってきた、アメリカ合衆国の著名なミキシング・エンジニア兼サウンド・エンジニアです。本名はミック・グゾウスキー (Mick Guzauski) ですが、時に「Mic Guzauski」や「Mick 'Mix Maestro' Guzauski」といった名義も用いられます。

彼のエンジニアリングやミキシングは、ジャズやR&B、ラテン、ロック、ポップス、イージーリスニングといった非常に幅広い音楽スタイルに及び、ジャンルを超えた普遍的なサウンドメイキングで知られています。

栄誉ある受賞と実績

グゾウスキーのキャリアは数々の受賞歴に彩られています。

ラテン・グラミー賞: 2002年にタリアのアルバム『アラサンド』、2004年にアレハンドロ・サンスのアルバム『ノ・エス・ロ・ミスモ』でそれぞれ受賞しています。
グラミー賞: 2006年にはエリック・クラプトンのアルバム『バック・ホーム』により、グラミー賞のベスト・エンジニア（ノンクラシック）部門を受賞しました。
* エミー賞ノミネート: テレビ番組の音響においても高く評価されており、エリック・クラプトンの「Great Performances; Eric Clapton Crossroads Guitar Festival」（2004年放送）で、2005年にエミー賞（音響賞）にノミネートされました。

また、商業的な成功も収めており、特に2001年には彼がミックスを手がけた楽曲が27枚ものシングルチャートで1位を獲得するという驚異的な記録を達成しています。

音楽の道へ：ロチェスターでの始まり

ニューヨーク州ロチェスターで育ったグゾウスキーは、地元のレコーディング環境が限られていたことから、高校時代には既に自宅の地下室に自前のスタジオを構築していました。借り物や自身で組み立てた機材を用い、音響への飽くなき探求心を満たしていたのです。初期には、後に音楽界で名を馳せるスティーヴ・ガッドやトニー・レヴィンとのエンジニアリングの仕事に関わったほか、イーストマン音楽学校の学生たち、そしてロックバンド「フォリナー」で成功を収めるルー・グラムとも共に作業を行いました。

チャック・マンジョーネとの出会いとロサンゼルスへ

ロチェスターを拠点に活動していた時期に、当時頭角を現していたミュージシャン、チャック・マンジョーネと出会ったことは、彼のキャリアにおける大きな転機となりました。グゾウスキーはマンジョーネのレコーディングやライブサウンドのミキシングを担当するようになります。1975年、マンジョーネがA&Mレコードと契約する際、彼は新作アルバム制作のために、45人編成のオーケストラとリズム隊、ソリストという大規模なレコーディングを行うにあたり、グゾウスキーをA&Mスタジオのあるロサンゼルスへ同行させることを強く希望しました。これ以降、グゾウスキーは数年間にわたり、マンジョーネの作品にエンジニアとして欠かせない存在となります。

1980年代：コンウェイ・スタジオでの飛躍

1980年代に入ると、ロサンゼルスを拠点に活動を本格化させます。1980年代前半には、コンプレックス・スタジオ（後にジョージ・マッセンバーグ・スタジオとなる）で、アース・ウィンド・アンド・ファイアー（EW&F）などのアーティストと仕事を行いました。特に1980年代半ばからは、ロサンゼルスの名門スタジオであるコンウェイ・スタジオを主な活動の場とし、バート・バカラック、ディオンヌ・ワーウィック、マドンナ、トーキング・ヘッズ、クインシー・ジョーンズ、シェールといった、当時の音楽シーンを代表する錚々たるアーティストたちのエンジニアリングやミキシングを次々と手がけ、その名を確固たるものにしました。

1990年代以降：トップアーティストとの協業

1991年、プロデューサーのウォルター・アファナシエフからマイケル・ボルトンの作品のミキシングを依頼されたことをきっかけに、アファナシエフとの強固なパートナーシップが築かれます。この関係は現在も続いています。その後、マライア・キャリーのミキシングを任されるようになり、その卓越した技術は当時のソニーCEO、トミー・モトーラをも魅了しました。モトーラの依頼によりニューヨークのソニー・スタジオへ移籍したグゾウスキーは、モトーラと共にソニーやマライア・キャリーのプライベートスタジオで、主に女性ボーカリストのバラード曲のミキシングを数多く手がけました。この時期には他にも、デイヴィッド・フォスターやベイビーフェイス、ボーイズIIメンといった、当時のヒットメーカーや人気アーティストたちのプロジェクトに貢献しています。また、2001年にはマイケル・ジャクソンの代表作『スリラー』の5.1チャンネルサラウンドへのリミックスや、他のアルバムのSuper Audio CDフォーマット化にも取り組みましたが、技術的な制約などからアーティストの求めるレベルには達しなかったエピソードも残っています。

現在の活動拠点とサウンドへのこだわり

現在は、ニューヨーク州マウント・キスコにある自身の広大な敷地の地下に設立したプライベート・スタジオ、「バーキング・ドクター・レコーディング (Barking Doctor Recording)」を活動の拠点としています。このスタジオには、最新鋭のデジタルミキシングコンソールとDAWシステムを中心に据えたスタジオAと、往年の名機を含む多彩なアウトボードエフェクターを備えたスタジオBがあり、現代的なワークフローとクラシックな機材の両方を活用できる環境が整備されています。特にDAWを中心とした制作環境においては、ハードウェア機材の特性を忠実に再現した高品質なプラグインを積極的に活用することで、サウンドメイキングの可能性を追求しています。

バーキング・ドクター・レコーディングでは、エリック・クラプトン、マライア・キャリー、マイケル・ボルトンといった長年の付き合いのあるアーティストに加え、ダフト・パンクなど、幅広いジャンルのアーティストたちのミキシングを現在も精力的に行っています。

半世紀近いキャリアを通して、ミック・グゾウスキーは常に音楽とサウンド技術の最前線に立ち続け、数え切れないほどのヒット曲や名盤の誕生に貢献してきました。その幅広い音楽性への理解と、卓越した技術力は、今なお多くのアーティストから信頼を集めています。

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