ミドリ・ザイラー

ミドリ・ザイラーは、1969年 2月18日生まれの日系ドイツ人ヴァイオリン奏者です。古楽演奏の分野で国際的に高く評価されており、世界有数の古楽アンサンブルであるベルリン古楽アカデミーのコンサートミストレスを長年務めています。また、後進の指導にも熱心で、ザルツブルク・モーツァルテウム大学で教授として教鞭を執っています。

生い立ちと教育

大阪府に生まれたミドリ・ザイラー氏は、ドイツ人のピアニストである父エルンスト・ザイラー氏と、日本人のピアニストである母小木曽美枝氏という音楽一家に育ちました。少女時代を過ごしたオーストリアのザルツブルクでヴァイオリンの手ほどきを受け、ヘルムート・ツェトマイヤー氏に師事しました。その後、伝説的なヴァイオリニストであるシャーンドル・ヴェーグ氏にも指導を受ける機会を得ました。さらに、スイスに渡り、バーゼル音楽院でアデリーナ・オプリーン氏のもとで研鑽を積み、古楽演奏においてはバーゼル・スコラ・カントルムにてトーマス・ヘンゲルブロック氏に師事するなど、多様な音楽的背景を持つ指導者から学びました。これらの経験が、後の彼女の幅広い音楽性や古楽への深い理解の礎となりました。

ベルリン古楽アカデミーでの活動

1991年、ミドリ・ザイラー氏はベルリン古楽アカデミーに加わりました。このアンサンブルは、ピリオド楽器を用いた古楽演奏の分野で世界的に知られており、彼女はすぐにその中心的なメンバーとして活躍するようになります。そして、2000年からはコンサートミストレスとして、アンサンブルの演奏を牽引する重要な役割を担っています。ベルリン古楽アカデミーの一員として、彼女は数多くのコンサートや録音に参加し、バッハ、ヘンデル、テレマンといったバロック期の作曲家から、モーツァルトやハイドン、ベートーヴェンといった古典派、さらには初期ロマン派に至るまで、幅広い時代の作品をピリオド楽器ならではの解釈で演奏しています。その正確かつ表情豊かな演奏は、アンサンブルのサウンドに不可欠な要素となっています。

芸術的探求と革新

ミドリ・ザイラー氏は、伝統的な古楽の枠組みを守りつつも、常に新しい表現の可能性を探求しています。その最も顕著な例の一つが、2009年にヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲集「四季」を用いて試みた、古楽演奏と現代舞踏との融合による舞台パフォーマンスです。この革新的な試みは大きな話題を呼び、音楽界に新鮮な驚きをもたらしました。このパフォーマンスの成功を受けて、彼女はスタジオ録音盤「四大元素－四季」をリリースし、幅広いリスナーにそのユニークな解釈を届けました。

録音活動

ミドリ・ザイラー氏は、これまでに多数の録音をリリースしており、その多くが国際的に高い評価を得ています。主要な録音としては、以下のようなものがあります。

バッハヴァイオリン協奏曲集: BWV1052の復元版を含む、バッハのヴァイオリン協奏曲や二重協奏曲を録音しています（2005年、ハルモニア・ムンディ）。
モーツァルト、シューベルト、ベートーヴェンヴァイオリンソナタ集: チェンバロ奏者のヨス・ファン・インマゼール氏との共演による、これらの作曲家のヴァイオリンソナタ集は、ピリオド楽器による古典派・初期ロマン派作品の優れた演奏として知られています（モーツァルト：2008年、シューベルト：2009年、ベートーヴェン：2010年、いずれもZig Zag Territoires）。
バッハ無伴奏パルティータ: バッハが長く音楽監督を務めたケーテンのケーテン城という、曲にゆかりの深い場所で録音された無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ集です（2011年、Berlin Classics）。
ハイドンヴァイオリン協奏曲集: 古楽アンサンブルであるコンチェルト・ケルンとの共演による録音です（2014年、Berlin Classics）。

これらの録音は、彼女の技術的な卓越性はもちろんのこと、作品への深い洞察とピリオド楽器に対する豊かな理解を示すものです。

教育活動と受賞

演奏活動と並行して、ミドリ・ザイラー氏は音楽教育にも情熱を注いでいます。2010年から2013年にかけてフランツ・リスト・ヴァイマル音楽大学でバロック・ヴァイオリンとヴィオラの教授を務めました。2014年からは、幼少期を過ごしたゆかりの地であるザルツブルクのモーツァルテウム大学でバロック・ヴァイオリン科の教授として、次世代の古楽演奏家の育成にあたっています。これらの教育者としての功績や、長年の演奏活動における貢献が認められ、2015年にはザクセン・モーツァルト賞を受賞しています。

その他のアンサンブル活動と日本での公演

ソロやベルリン古楽アカデミーでの活動以外にも、彼女は家族との演奏活動も大切にしています。父エルンスト・ザイラー氏を中心とする「ザイラーファミリー」や、四姉妹による「ザイラークァルテット」としてコンサートを行うこともあります。また、彼女は自身のルーツの一つである日本でも積極的に演奏活動を行っています。2010年にはベルリン古楽アカデミーと共にバッハのブランデンブルク協奏曲全曲演奏会を日本各地で開催し、多くの観客を魅了しました。2012年には、チェンバロ奏者であり夫でもあるクリスティアン・リーガー氏とのデュオで、オール・バッハ・プログラムによるリサイタルを日本で行っています。

まとめ

ミドリ・ザイラー氏は、日系ドイツ人ヴァイオリン奏者として、古楽演奏の分野で確固たる地位を築いています。ベルリン古楽アカデミーの顔として、そして教育者として、その活動は多岐にわたります。伝統を尊重しつつも新しい表現を探求する彼女の音楽は、現代の古楽界において重要な影響を与え続けています。

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