ミハイル・クトゥーゾフ

ミハイル・イラリオーノヴィチ・ゴレニーシチェフ＝クトゥーゾフ公爵の生涯

ミハイル・イラリオーノヴィチ・ゴレニーシチェフ＝クトゥーゾフ公爵は、1745年にロシア帝国のサンクトペテルブルクで誕生しました。彼の家族は長い間軍に仕えており、父親もピョートル大帝の下で軍人としてのキャリアを築いていました。クトゥーゾフ家は、ジョチ・ウルス系のモンゴル貴族の出身でもあり、彼の姓にはテュルク系のルーツが含まれています。

彼は1757年に貴族砲兵学校に入学し、14歳から軍に従事することになります。学校を卒業後は数学教師に就任し、その後、対ポーランド戦争や第一次露土戦争に参加し、名を馳せました。特に1774年にはオスマン帝国との戦争で右目を失い、隻眼の軍人となりました。この時期の彼は、エカチェリーナ2世の治世の下で活躍し、第二次露土戦争においては名将アレクサンドル・スヴォーロフ将軍の下でイズマイル要塞を攻略しました。

1805年、クトゥーゾフはナポレオンとの戦争においてロシア・オーストリア連合軍の総司令官として活動しましたが、アウステルリッツの戦いでは敗北を喫しました。この失敗により地方官に転任されましたが、1806年から始まる対トルコ戦争で再び名を上げ、ブカレスト条約に貢献しました。

1812年、ナポレオンのロシア遠征が始まると、当初の総司令官ミハイル・バルクライ・ド・トーリに対する批判が強まる中、クトゥーゾフは67歳で新たな総司令官に任命されました。彼の着任は士気を大いに高め、ロシア全土から義勇兵が集まる事態となりました。ボロジノの戦いでは、双方に多大な犠牲が出ましたが、結果としてナポレオン軍は決定的な勝利を収められませんでした。

ボロジノの戦い後、クトゥーゾフは撤退を選択し、モスクワを明け渡す決断を下しました。彼は「モスクワを失ってもロシアを失うわけではないが、軍隊が滅びれば全てを失う」との考えから、モスクワ市民の疎開を促し、戦略的にフランス軍の衰退を待つ作戦を展開しました。しかし、冬の到来によりナポレオン軍は孤立し、続くロシア軍の執拗な攻撃を受けて退却を余儀なくされました。

クトゥーゾフは、その後もロシア軍の指揮を執り、ナポレオン軍を追撃し続けました。結果、フランス軍は大きな損失を被り、大戦略の失敗に向かっていきました。彼の活躍により、「スモレンスク公」の称号を授けられましたが、1813年に病を患い、67歳で亡くなりました。

クトゥーゾフの死後、サンクトペテルブルクのカザン聖堂には彼の遺体が安置され、フランス軍の軍旗も奉納されました。この聖堂はロシア国民の戦勝を記念する場所として重要視されるようになりました。また、彼はナポレオンに対する唯一の黒星をつけた軍人の一人でありながら、その評価についてはさまざまな意見があります。

ソビエト連邦時代には、彼を国民的英雄として位置づける一方で、その戦略に対する批判も存在しました。また、現在でも彼の戦術的アプローチは高く評価され、ロシア式戦法の一環として認識されています。レフ・トルストイの小説『戦争と平和』や映画で取り上げられるなど、クトゥーゾフの影響は今なお記憶されています。

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