ミハイル・ヴァイマン

ミハイル・イズライレヴィチ・ヴァイマン（1926年12月3日 - 1977年12月16日）は、20世紀ソビエト連邦を代表するヴァイオリニストであり、優れた音楽教育者でした。現在のウクライナ、ムィコラーイウ州に位置するノーヴィイ・ブフで生を受けたヴァイマンは、短い生涯ながらも演奏家、そして教師としてソ連楽壇に大きな足跡を残しました。

教育と初期の活動

音楽の道を志したヴァイマンは、レニングラード音楽院に進み、名教授ユーリー・エイドリンのもとでヴァイオリンの研鑽を積みました。まだ学生であった1943年には、タシュケントで開催された音楽院創設80周年を記念する若い演奏家による演奏会に参加するなど、早くからその才能を発揮していました。卒業後、1945年からは本格的な演奏活動を開始します。

国際舞台での活躍

ヴァイマンの名が広く知られるようになったのは、国際的なコンクールでの成功がきっかけでした。1950年、ドイツのライプツィヒで開催された第1回ヨハン・ゼバスティアン・バッハ国際コンクールのヴァイオリン部門に出場し、見事第2位を獲得しました。翌1951年には、ベルギーのブリュッセルで行われた権威あるエリザベート王妃国際音楽コンクールにも挑戦し、ここでも再び第2位という素晴らしい成績を収めました。これらの入賞により、ヴァイマンはソ連を代表する若手ヴァイオリニストとしての地位を確立しました。

演奏活動

コンクールでの成功を足がかりに、ヴァイマンはソリストとして各地で精力的に演奏活動を展開しました。その深い音楽性と卓越したテクニックは多くの聴衆を魅了しました。また、彼は室内楽の分野でも重要な貢献を残しています。特に、当代最高の音楽家たち、ピアニストのパーヴェル・セレブリャーコフとチェリストのムスティスラフ・ロストロポーヴィチと共にトリオを組み、活発な演奏活動を行いました。このトリオによる演奏は、ソビエトの室内楽史において特筆すべきものであり、現在も録音でその芸術を聴くことができます。

教育者として

演奏活動と並行して、ヴァイマンは音楽教育にも情熱を注ぎました。1949年から母校であるレニングラード音楽院で教え始め、次第にその指導者としての評価を高めていきました。1966年には教授に昇格し、1970年からはヴァイオリン科の主任を務めるなど、音楽院のヴァイオリン教育の中心的な存在となりました。彼の教室からは、世界的に活躍する多くのヴァイオリニストが輩出されました。その中には、日本の潮田益子、前橋汀子といった著名な演奏家、さらにはジノーヴィー・ヴィンニコフ、フィリップ・ヒルシュホルン、アレクサンドル・カントロフ、ミハイル・ガントヴァルク、セルゲイ・スタドレルといったソビエト及び国際的に活躍したヴァイオリニストたちの名が挙げられます。指揮者トーマス・ザンデルリングも彼の門下生でした。ヴァイマンの教育は、個々の学生の才能を最大限に引き出すことに重点が置かれており、多くの弟子たちが彼の指導によって自身の音楽性を開花させました。

栄誉と後世への影響

ヴァイマンは、その演奏活動及び教育者としての功績が認められ、1957年にはロシア連邦共和国功労芸術家の称号を授与されました。また、彼の死後、親交のあった作曲家ベニヤミン・バスネルは、1982年にヴァイマンの思い出に捧げられたヴァイオリンソナタを作曲しており、彼の芸術が後世にも影響を与え続けていることを示しています。

録音

ヴァイマンの芸術は、数多くの録音によって今日に伝えられています。特にソビエトの国営レーベルであったメロディアに残された録音は重要で、近年にはCD6枚組のセットとして復刻され、彼の幅広いレパートリーと円熟した演奏を改めて知ることができます。放送録音なども多数残されており、主要なものとして以下のような録音が知られています。

オーケストラとの協奏曲、管弦楽作品
アラポフ：ヴァイオリン協奏曲 (A・ヤンソンス指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団)
エヴラホフ：協奏的な詩 (同上)
シベリウス：ヴァイオリン協奏曲 (同上)
バスネル：ヴァイオリン協奏曲 (ロジェストヴェンスキー指揮 モスクワ放送交響楽団)
マチャヴァリアニ：ヴァイオリン協奏曲 (ディミトリアディ指揮 モスクワ放送交響楽団)
バッハ：ヴァイオリン協奏曲第2番、2つのヴァイオリンのための協奏曲 (グトニコフ(ヴァイオリン)、ゴズマン指揮 レニングラード・フィルハーモニー室内管弦楽団)
ヴィヴァルディ：「四季」、調和の霊感より抜粋、ヴァイオリンとチェンバロ、弦楽のための協奏曲イ長調 (シンデル指揮 レニングラード・フィルハーモニー室内管弦楽団)
テレマン：協奏的組曲、ヴァイオリン協奏曲変ロ長調 (同上)
ハイドン：ヴァイオリン協奏曲第1番、ヴァイオリンとチェンバロのための協奏曲 (同上、ジョホヴァ(チェンバロ))
モーツァルト：ヴァイオリン協奏曲第5番 (同上)
ヴォロシノフ：ヴァイオリンとオルガンのための協奏曲 (オクセンチャン(オルガン))

室内楽、ヴァイオリンとピアノのための作品
ショスタコーヴィチ：ピアノ三重奏曲第2番 (セレブリャーコフ、ロストロポーヴィチ)
ラフマニノフ：悲しみの三重奏曲第2番 (同上)
バッハ：ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタホ短調 (カランダショヴァ(ピアノ))
サラサーテ：ツィゴイネルワイゼン (同上)
サルマノフ：ヴァイオリンソナタ第2番 (同上)
シューベルト：華麗なるロンド ロ短調 (同上)
バルトーク：ヴァイオリン･ソナタ第1番、ルーマニア民俗舞曲 (同上)
ベートーヴェン：ヴァイオリンソナタ第7番、第10番 (同上)
ラヴェル：ヴァイオリンソナタ (同上)
* ラブコフスキー：ヴァイオリンとピアノのための組曲 (同上)

結び

ミハイル・ヴァイマンは、1977年12月16日、教育者として多くの優れたヴァイオリニストを育てたレニングラードの地でその生涯を終えました。彼の遺した演奏と教育の功績は、今日に至るまで高く評価されています。

もう一度検索