ミハウ・エルヴィロ・アンドゥリオッリ

ミハウ・エルヴィロ・アンドゥリオッリ（Michał Elwiro Andriolli、1836年11月2日 - 1893年8月23日）は、19世紀後半のポーランドで活躍した多才な芸術家です。画家、イラストレーター、そして建築家として知られ、特に著名な文学作品の挿絵や、独自の建築様式の創始によって、ポーランド文化史にその名を刻んでいます。帝政ロシアの支配下にあったヴィリニュス（現在のリトアニア）で、イタリア系の退役軍人の父とポーランド貴族の娘である母の間に生まれました。

幼少期をヴィリニュスで過ごした後、アンドゥリオッリは芸術の道を志します。1855年にモスクワの美術学校に入学し、その後サンクトペテルブルクの帝国美術アカデミーでも学び、1858年にアカデミーを卒業しました。奨学金を得てさらなる研鑽を積むため、1861年にはイタリアのローマへ留学。当地のアカデミア・ディ・サン・ルカでも学んでいます。この留学期間は、彼の芸術観や技術に大きな影響を与えたと考えられます。

留学を終えてヴィリニュスに戻ったアンドゥリオッリを待ち受けていたのは、ロシア帝国に対するポーランド人の抵抗運動でした。彼は1863年に発生した「1月蜂起」に参加しますが、運動は鎮圧され、アンドゥリオッリも逮捕されてしまいます。しかし、彼は刑務所からの脱獄に成功。追手を逃れるため、イギリスのロンドンを経てフランスのパリへと亡命しました。数年後、ロシア支配下のポーランドへの帰国を果たしますが、1866年には再び逮捕され、今回はヴィアトカ（現在のキーロフ）へ流刑という厳しい処分を受けました。約5年間の流刑生活の後、1871年に恩赦が与えられ、彼は自由の身となり、ワルシャワに移り住むこととなります。

ワルシャワに定住して以降、アンドゥリオッリは主にイラストレーターとして生計を立てました。当時のポーランドの主要な定期刊行物である「Tygodnik Illustrowany」、「Kłosy」、「Biesiada Literacka」といった新聞や雑誌に多数の挿絵を発表し、瞬く間にポーランドで最も名声のあるイラストレーターの一人となりました。特に、ポーランド文学の巨匠たちの作品の挿絵は彼のライフワークとも言えるものでした。アダム・ミツキェヴィチ、ユリウシュ・スウォヴァツキ、ユゼフ・イグナツィ・クラシェフスキといった詩人や作家たちの作品に、彼の描く挿絵は深みと彩りを加えました。中でも、ポーランド国民文学の至宝とされるアダム・ミツキェヴィチの長編叙事詩『パン・タデウシュ』の挿絵は、1879年から1882年にかけて手掛けられたもので、その芸術性の高さは今日でも高く評価されています。
1883年には、パリに住むアダム・ミツキェヴィチの息子の邸宅に招かれ、1883年から1886年の間、パリでも活動を展開しました。この時期には、ウィリアム・シェイクスピアやジェイムズ・フェニモア・クーパーといった、欧米の著名な作家のフランス語訳本の挿絵なども手掛けています。ポーランドへ戻った後も、画家としてリトアニアのカウナスにある教会などの装飾画制作にも携わりました。

画家・イラストレーターとして確固たる地位を築いたアンドゥリオッリですが、晩年には建築家としての才能も発揮しました。シフィデル川に近い、ワルシャワから南東へ約20キロメートル離れたオトヴォツクの町に、彼は自らの設計による別荘を建てました。この建物に用いられたスタイルは、地元の伝統的な木造建築に、ロシアやスイスの建築意匠を折衷的に取り入れた独特のものでした。この独自の建築様式は、近くを流れるシフィデル川にちなんで「シフィデルマイエル（Świdermajer）」と名付けられ、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、ポーランドの木製住宅の一般的な様式として広く人気を博しました。今日でも、シフィデルマイエル様式の建物はポーランド各地、特にワルシャワ近郊でその特徴的な姿を見ることができます。

ミハウ・エルヴィロ・アンドゥリオッリは、画家、イラストレーター、そして建築家として多岐にわたる分野で才能を発揮しました。彼の波乱に満ちた生涯は、ポーランド分割時代の困難な政治情勢とも重なります。しかし、そうした中でも彼は、文学作品に命を吹き込む挿絵や、人々の暮らしを彩る独自の建築様式を生み出し、ポーランドの芸術と文化に計り知れない貢献をしました。特に『パン・タデウシュ』の挿絵とシフィデルマイエル様式の創始は、彼の名を後世に伝える重要な業績として記憶されています。彼は1893年8月23日、ナウェンチュフでその生涯を終えました。

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