ミャンマー民族民主同盟軍
ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）は、ミャンマー北東部シャン州のコーカン地区を中心に活動する、中国系住民コーカン族の武装組織です。英語の略称であるMNDAAとして広く知られています。
英国植民地時代、サルウィン川以東のコーカン地域に対するビルマ政庁の支配力は限定的であり、コーカン土司を通じた間接的な関与にとどまっていました。1950年代初頭には、国共内戦で敗退した国民党軍が中国雲南省からこの地域に侵入し、地元の軍閥と連携しました。その中には、後にアジア・ワールド創設者となるロー・シンハンも含まれていました。彼はミャンマー軍傘下の民兵組織である防衛隊（KKY）を結成し、反政府勢力との戦いの見返りとして麻薬取引を容認されたとされます。
1960年代後半には、ビルマ共産党（CPB）がコーカン地域の軍閥指導者であった彭家声に接近しました。1968年1月5日、CPBは中国側からコーカンへ侵攻を開始し、同年末までに地域の大部分を掌握しました。1969年9月8日には、「コーカン県人民政府」が樹立されています。しかし、1971年のクンロン橋を巡る戦闘での敗北により、CPBのサルウィン川以西への勢力拡大は阻まれました。
1989年初頭にはCPB内部での矛盾が顕在化し、中国共産党からの指導方針見直し圧力も加わりました。同年2月20日にパンサンで開催されたCPB緊急会議では、タキン・バテインティン主席が中国共産党の介入を非難したことが報じられています。この情報漏洩が、CPB下士官による幹部への反乱を促した可能性が指摘されています。
1989年3月11日、彭家声をはじめとするCPB内のコーカン族兵士が党中央に反旗を翻し、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）を設立しました。3月17日には、ワ族兵士の支援を受けてサルウィン川西岸のモンコーにあるCPB東北軍区司令部を制圧しました。
これに対し、ミャンマー軍事政権は仲介役としてロー・シンハンを呼び寄せ、3月20日に彼がコーカンを訪問しました。4月14日、MNDAAはチンシュエホーで軍事政権のティンウィン中佐らと和平会談を実施。4月20日には、彭家声の弟である彭家富を含むMNDAA指導者らが、ラーショーでロー・シンハン、元土司家系の楊金秀、軍元将校でNLD共同創設者の一人であるアウンジーと会談を行いました。その2日後、彭家富はクンロンで軍情報局長のキンニュンおよび北東軍管区司令官のマウンティン准将と停戦交渉を行いました。MNDAAは停戦の見返りとして、軍事政権から「開発援助」名目で資金と米を受け取ったと報じられています。
同年11月14日には、MNDAAの支配下にあったサルウィン川東岸のコーカン県および西岸のモンコー県が、高度な自治権を持つ「シャン州第一特区」として承認され、彭家声が特区主席に就任しました。MNDAAは特区警察部隊としての地位を得て、ミャan政府から合法的な組織と見なされるようになりました。
1992年11月29日、MNDAA副総参謀長であった楊茂良はワ州連合軍の支持を得てクーデターを実行し、彭家声はコーカンから追放されました。この内紛（1992年コーカン内戦）は、死傷者200人以上を出す惨事となりました。
1995年8月1日、モンコーの県知事であったモンサラが楊茂良に反乱を起こし、カチン独立軍（KIA）などの支援を受けてモンコー地区防衛軍を設立しました。MNDAA楊派がこの反乱軍を制圧できないのを見た彭派は、反攻を決意しました。
同年11月、彭家声の弟である彭家富率いるMNDAA彭派は、ワ州連合軍やシャン州東部民族民主同盟軍の支援を得てチンシュエホーを占領し、中央政府に事態収束を求める声明を発表しました。MNDAA楊派は中央政府に権力を返上し、彭派が再びコーカン地区の権力を掌握しましたが、モンコーは第1特区の行政管轄から外れることとなりました（1995年コーカン内戦）。
1995年以降、特区政府は麻薬撲滅を掲げ、ケシ栽培を本格的に禁止し、2004年頃にはほぼ完全に撲滅しました。しかし、突然生計手段を失った住民は経済的に困窮し、餓死者も発生したとされています。
2009年3月11日には、MNDAAの建軍20周年記念軍事パレードが実施されました。
同年、軍事政権は2008年憲法との整合性を図るため、MNDAAに対し国軍傘下の国境警備隊への改編を要求しました。しかし、2009年7月に改編交渉が決裂すると、国軍はコーカン地域を包囲するように部隊を展開し、圧力を強めました。ケシ栽培規制により経済的に厳しい状況にあったMNDAAには、これに対抗する軍事的余力がなかったと見られています。
2009年8月8日、ミャンマー警察による武器修理工場の摘発をきっかけに、MNDAAとの軍事的な緊張が高まりました。8月24日には、MNDAAの白所成らが国軍側に離反し、彭家声らを批判する声明を出しました。軍事政権は8月25日、白所成を主席とする「シャン州第一特区臨時管理委員会」を承認しました。8月26日、特区主席の彭家声はチンシュエホーからワ州へ逃亡しました。8月27日にはMNDAA彭派と国軍の間で戦闘が発生しましたが、8月29日午前8時をもって国軍が彭派の拠点を完全に制圧し、戦闘は終結しました。この一連の衝突により、中国側の国境検問所には31,000人を超える避難民が流入しました（2009年コーカン軍事衝突）。白所成の支配下となったコーカン自治区は、国軍の保護を受けながら、カジノ、売春、人身売買、臓器売買、オンライン詐欺などの温床となっていったと指摘されています。
2014年12月、彭家声は中国メディアの取材に応じ、コーカンの奪還に向けた意欲を示しました。
2015年2月、MNDAAは支配地域奪還を目指す侵攻を開始しました。同年2月27日にはロシアメディアが「中越国境地帯の紛争、激化」と報じ、2月10日までに10万人もの難民が中国に越境し、2月17日には現地に非常事態宣言が発令されたと伝えています。一部メディアからは、ミャンマー政府が中国政府による武器や傭兵提供を指摘しているとの報道もありましたが、中国政府はこれを否定しています。この衝突は「ミャンマーにクリミア型侵略」などとも報じられました。
2015年の侵攻以降、MNDAAはコーカン地区の北端でミャンマー政府軍との戦闘を継続し、紅岩（ホンアイ）地区に拠点を構築しました。また、コーカン地区中部のコンジャン、ターシュエタン付近に出没し、ミャンマー軍に対するゲリラ戦を展開しました。
2016年11月20日には、タアン民族解放軍（TNLA）、アラカン軍（AA）、KIAと共に北部同盟を結成しました。その後、KIAを除いた3勢力で2019年に三兄弟同盟を結成しています。
2021年2月のクーデターで成立した軍事政権とも対立姿勢を取り、同じく軍事政権打倒を目指す民主派勢力と連携し、2023年10月下旬より大規模な攻勢を開始しました。これは1027作戦として知られています。シャン州内でAA、TNLAと共に国軍と武力衝突し、軍事拠点を多数制圧したほか、中華人民共和国へ通じる主要道路を掌握しました。この結果、ミャンマー北部における国軍の複数の拠点や都市を制圧する事態に発展し、中国政府が仲介に乗り出し、同年12月には軍事政権側との交渉が行われました。2024年1月10日から11日にかけ、両者は中国の仲介により昆明市で和平交渉を行い、三兄弟同盟として軍事政権と一時停戦に合意し、交渉を通じた問題解決を目指すこととなりました。しかし、コーカン自治区奪還直後の停戦合意は、MNDAAが軍事政権打倒や連邦民主主義実現といった目標を民主派勢力と真に共有しているかについて疑念を生じさせました。実際、自治区奪還後、MNDAAは自治区内の道路拡張を名目にラオカイのビルマ族住民の商店を取り壊したり、ビルマ族や混血住民の自治区への出入りを制限したと報じられています。また、自治区内のカチン族、シャン族、タアン族、ラカイン族、カレンニー族などの出稼ぎ労働者を強制徴兵し、最前線に送っているとの報告があり、脱走者が投獄、吊るし上げ、射殺されるといった事態も伝えられています。さらに、MNDAA兵士による仏教を冒涜する写真がSNSで拡散する問題も相次ぎました。
2024年3月11日に開催されたMNDAA結成35周年式典では、彭徳仁が国軍の「無敵神話」打破、戦後復興、党による軍の指導、戦闘能力強化などについて演説しました。4月には、殺人・誘拐の罪で逮捕したMNDAA兵士3名に対して公開裁判と公開処刑を断行し、その権力を誇示しました。
その後、三兄弟同盟が勢力を拡大したシャン州北部では、同盟メンバー内での衝突も発生しました。MNDAAがモンコーでKIAの旗を撤去したり、カチン族コミュニティの学校を占拠して軍事拠点に転用したりしたほか、TNLAがクッカイでMNDAAの旗を撤去し退去を命じたことをきっかけに、両軍間で戦闘が発生し死傷者が出たと報じられています。
2024年6月25日、国軍からの攻撃を受けていたTNLAが停戦終了を宣言し、海埂協定は破棄され、1027作戦の第2波が開始されました。MNDAAもこれに参戦し、8月3日にはシャン州のラーショーを制圧（ラーショーの戦い）し、同地に拠点を置く国軍北東軍管区司令部を占拠しました。国軍の地方司令部が反政府勢力に占拠されたのは史上初めてのことでした。その後、MNDAAはラーショーをコーカン自治区に編入すると発表しました。
9月4日、MNDAAは独立国家ではなく自治区維持を目指す意向であること、NUGとの連携を否定しマンダレーなどへの攻撃は行わないこと、中国政府の和平イニシアティブに従い政治的手段での解決を図ることを示す声明を発表しましたが、この声明は即日削除された後、9月19日に再発表されました。
11月中旬には、彭徳仁リーダーが中国当局に身柄を拘束され、ラーショーからの撤退を迫られているとの報道がありましたが、中国当局は病気治療のための滞在であると否定しました。その後、MNDAAは停戦合意に向けた国軍との交渉に応じるとの声明を発表しています。
特区政府時代、MNDAAは特区政府管理委員会の指揮下に置かれていました。現在、以下の4個旅団を組織しているとされています。
1997年、日本の国際協力機構（JICA）は、アヘンの代替作物として日本の市場向けのソバ栽培プロジェクトをコーカン地域で開始しました。2002年にはコーカン当局がアヘン禁止令を施行するに至りましたが、日本市場までの輸送コストなどが障害となり、2009年と2015年の軍事衝突によってプロジェクトは頓挫しました。
また、2003年からは国連薬物犯罪事務所（UNODC）主導の「コーカンとワ主導（KOWI）」パートナーシップを通じて、ケシ農家とその家族への生活支援を目的としたプロジェクトが始まり、国連機関や国際NGOのワ州・コーカン地域への進出が促されました。しかし、2005年1月にアメリカ連邦裁判所がワ州連合軍（UWSA）指導者を麻薬密売容疑で起訴したことで、このプロジェクトも頓挫したとされています。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、MNDAAが未成年者を含む若い人々を拉致し、強制的に徴兵していると告発しています。
歴史
前史
英国植民地時代、サルウィン川以東のコーカン地域に対するビルマ政庁の支配力は限定的であり、コーカン土司を通じた間接的な関与にとどまっていました。1950年代初頭には、国共内戦で敗退した国民党軍が中国雲南省からこの地域に侵入し、地元の軍閥と連携しました。その中には、後にアジア・ワールド創設者となるロー・シンハンも含まれていました。彼はミャンマー軍傘下の民兵組織である防衛隊（KKY）を結成し、反政府勢力との戦いの見返りとして麻薬取引を容認されたとされます。
1960年代後半には、ビルマ共産党（CPB）がコーカン地域の軍閥指導者であった彭家声に接近しました。1968年1月5日、CPBは中国側からコーカンへ侵攻を開始し、同年末までに地域の大部分を掌握しました。1969年9月8日には、「コーカン県人民政府」が樹立されています。しかし、1971年のクンロン橋を巡る戦闘での敗北により、CPBのサルウィン川以西への勢力拡大は阻まれました。
1989年初頭にはCPB内部での矛盾が顕在化し、中国共産党からの指導方針見直し圧力も加わりました。同年2月20日にパンサンで開催されたCPB緊急会議では、タキン・バテインティン主席が中国共産党の介入を非難したことが報じられています。この情報漏洩が、CPB下士官による幹部への反乱を促した可能性が指摘されています。
MNDAA黎明期
1989年3月11日、彭家声をはじめとするCPB内のコーカン族兵士が党中央に反旗を翻し、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）を設立しました。3月17日には、ワ族兵士の支援を受けてサルウィン川西岸のモンコーにあるCPB東北軍区司令部を制圧しました。
これに対し、ミャンマー軍事政権は仲介役としてロー・シンハンを呼び寄せ、3月20日に彼がコーカンを訪問しました。4月14日、MNDAAはチンシュエホーで軍事政権のティンウィン中佐らと和平会談を実施。4月20日には、彭家声の弟である彭家富を含むMNDAA指導者らが、ラーショーでロー・シンハン、元土司家系の楊金秀、軍元将校でNLD共同創設者の一人であるアウンジーと会談を行いました。その2日後、彭家富はクンロンで軍情報局長のキンニュンおよび北東軍管区司令官のマウンティン准将と停戦交渉を行いました。MNDAAは停戦の見返りとして、軍事政権から「開発援助」名目で資金と米を受け取ったと報じられています。
同年11月14日には、MNDAAの支配下にあったサルウィン川東岸のコーカン県および西岸のモンコー県が、高度な自治権を持つ「シャン州第一特区」として承認され、彭家声が特区主席に就任しました。MNDAAは特区警察部隊としての地位を得て、ミャan政府から合法的な組織と見なされるようになりました。
MNDAAの混乱
1992年11月29日、MNDAA副総参謀長であった楊茂良はワ州連合軍の支持を得てクーデターを実行し、彭家声はコーカンから追放されました。この内紛（1992年コーカン内戦）は、死傷者200人以上を出す惨事となりました。
1995年8月1日、モンコーの県知事であったモンサラが楊茂良に反乱を起こし、カチン独立軍（KIA）などの支援を受けてモンコー地区防衛軍を設立しました。MNDAA楊派がこの反乱軍を制圧できないのを見た彭派は、反攻を決意しました。
同年11月、彭家声の弟である彭家富率いるMNDAA彭派は、ワ州連合軍やシャン州東部民族民主同盟軍の支援を得てチンシュエホーを占領し、中央政府に事態収束を求める声明を発表しました。MNDAA楊派は中央政府に権力を返上し、彭派が再びコーカン地区の権力を掌握しましたが、モンコーは第1特区の行政管轄から外れることとなりました（1995年コーカン内戦）。
1995年以降、特区政府は麻薬撲滅を掲げ、ケシ栽培を本格的に禁止し、2004年頃にはほぼ完全に撲滅しました。しかし、突然生計手段を失った住民は経済的に困窮し、餓死者も発生したとされています。
2009年コーカン軍事衝突
2009年3月11日には、MNDAAの建軍20周年記念軍事パレードが実施されました。
同年、軍事政権は2008年憲法との整合性を図るため、MNDAAに対し国軍傘下の国境警備隊への改編を要求しました。しかし、2009年7月に改編交渉が決裂すると、国軍はコーカン地域を包囲するように部隊を展開し、圧力を強めました。ケシ栽培規制により経済的に厳しい状況にあったMNDAAには、これに対抗する軍事的余力がなかったと見られています。
2009年8月8日、ミャンマー警察による武器修理工場の摘発をきっかけに、MNDAAとの軍事的な緊張が高まりました。8月24日には、MNDAAの白所成らが国軍側に離反し、彭家声らを批判する声明を出しました。軍事政権は8月25日、白所成を主席とする「シャン州第一特区臨時管理委員会」を承認しました。8月26日、特区主席の彭家声はチンシュエホーからワ州へ逃亡しました。8月27日にはMNDAA彭派と国軍の間で戦闘が発生しましたが、8月29日午前8時をもって国軍が彭派の拠点を完全に制圧し、戦闘は終結しました。この一連の衝突により、中国側の国境検問所には31,000人を超える避難民が流入しました（2009年コーカン軍事衝突）。白所成の支配下となったコーカン自治区は、国軍の保護を受けながら、カジノ、売春、人身売買、臓器売買、オンライン詐欺などの温床となっていったと指摘されています。
MNDAA再建後
2014年12月、彭家声は中国メディアの取材に応じ、コーカンの奪還に向けた意欲を示しました。
2015年コーカン衝突
2015年2月、MNDAAは支配地域奪還を目指す侵攻を開始しました。同年2月27日にはロシアメディアが「中越国境地帯の紛争、激化」と報じ、2月10日までに10万人もの難民が中国に越境し、2月17日には現地に非常事態宣言が発令されたと伝えています。一部メディアからは、ミャンマー政府が中国政府による武器や傭兵提供を指摘しているとの報道もありましたが、中国政府はこれを否定しています。この衝突は「ミャンマーにクリミア型侵略」などとも報じられました。
2015年の侵攻以降、MNDAAはコーカン地区の北端でミャンマー政府軍との戦闘を継続し、紅岩（ホンアイ）地区に拠点を構築しました。また、コーカン地区中部のコンジャン、ターシュエタン付近に出没し、ミャンマー軍に対するゲリラ戦を展開しました。
2016年11月20日には、タアン民族解放軍（TNLA）、アラカン軍（AA）、KIAと共に北部同盟を結成しました。その後、KIAを除いた3勢力で2019年に三兄弟同盟を結成しています。
1027作戦とコーカン自治区奪還
2021年2月のクーデターで成立した軍事政権とも対立姿勢を取り、同じく軍事政権打倒を目指す民主派勢力と連携し、2023年10月下旬より大規模な攻勢を開始しました。これは1027作戦として知られています。シャン州内でAA、TNLAと共に国軍と武力衝突し、軍事拠点を多数制圧したほか、中華人民共和国へ通じる主要道路を掌握しました。この結果、ミャンマー北部における国軍の複数の拠点や都市を制圧する事態に発展し、中国政府が仲介に乗り出し、同年12月には軍事政権側との交渉が行われました。2024年1月10日から11日にかけ、両者は中国の仲介により昆明市で和平交渉を行い、三兄弟同盟として軍事政権と一時停戦に合意し、交渉を通じた問題解決を目指すこととなりました。しかし、コーカン自治区奪還直後の停戦合意は、MNDAAが軍事政権打倒や連邦民主主義実現といった目標を民主派勢力と真に共有しているかについて疑念を生じさせました。実際、自治区奪還後、MNDAAは自治区内の道路拡張を名目にラオカイのビルマ族住民の商店を取り壊したり、ビルマ族や混血住民の自治区への出入りを制限したと報じられています。また、自治区内のカチン族、シャン族、タアン族、ラカイン族、カレンニー族などの出稼ぎ労働者を強制徴兵し、最前線に送っているとの報告があり、脱走者が投獄、吊るし上げ、射殺されるといった事態も伝えられています。さらに、MNDAA兵士による仏教を冒涜する写真がSNSで拡散する問題も相次ぎました。
2024年3月11日に開催されたMNDAA結成35周年式典では、彭徳仁が国軍の「無敵神話」打破、戦後復興、党による軍の指導、戦闘能力強化などについて演説しました。4月には、殺人・誘拐の罪で逮捕したMNDAA兵士3名に対して公開裁判と公開処刑を断行し、その権力を誇示しました。
その後、三兄弟同盟が勢力を拡大したシャン州北部では、同盟メンバー内での衝突も発生しました。MNDAAがモンコーでKIAの旗を撤去したり、カチン族コミュニティの学校を占拠して軍事拠点に転用したりしたほか、TNLAがクッカイでMNDAAの旗を撤去し退去を命じたことをきっかけに、両軍間で戦闘が発生し死傷者が出たと報じられています。
2024年6月25日、国軍からの攻撃を受けていたTNLAが停戦終了を宣言し、海埂協定は破棄され、1027作戦の第2波が開始されました。MNDAAもこれに参戦し、8月3日にはシャン州のラーショーを制圧（ラーショーの戦い）し、同地に拠点を置く国軍北東軍管区司令部を占拠しました。国軍の地方司令部が反政府勢力に占拠されたのは史上初めてのことでした。その後、MNDAAはラーショーをコーカン自治区に編入すると発表しました。
9月4日、MNDAAは独立国家ではなく自治区維持を目指す意向であること、NUGとの連携を否定しマンダレーなどへの攻撃は行わないこと、中国政府の和平イニシアティブに従い政治的手段での解決を図ることを示す声明を発表しましたが、この声明は即日削除された後、9月19日に再発表されました。
11月中旬には、彭徳仁リーダーが中国当局に身柄を拘束され、ラーショーからの撤退を迫られているとの報道がありましたが、中国当局は病気治療のための滞在であると否定しました。その後、MNDAAは停戦合意に向けた国軍との交渉に応じるとの声明を発表しています。
組織構造
特区政府時代、MNDAAは特区政府管理委員会の指揮下に置かれていました。現在、以下の4個旅団を組織しているとされています。
- - 第211旅団: センウィーとクンロン周辺で活動。
- - 第311旅団: コーカン地域のホンアイ、チンシュエホー近くのナムパ山、モータイ、コンジャン周辺で活動。
- - 第511旅団: モンコー地区のモンコー、パンサイ、大モンボー、モンヤー、モンホムなど、サルウィン川西岸で活動。
- - 第611旅団: 多民族旅団とも呼ばれ、国民防衛隊など1000人以上の様々な民族の兵士が訓練・武装され、AA大隊も含む最強の旅団とされています。本来はクッカイ地区での活動を想定していましたが、2021年クーデター後に編成が変更されました。
アヘン対策
1997年、日本の国際協力機構（JICA）は、アヘンの代替作物として日本の市場向けのソバ栽培プロジェクトをコーカン地域で開始しました。2002年にはコーカン当局がアヘン禁止令を施行するに至りましたが、日本市場までの輸送コストなどが障害となり、2009年と2015年の軍事衝突によってプロジェクトは頓挫しました。
また、2003年からは国連薬物犯罪事務所（UNODC）主導の「コーカンとワ主導（KOWI）」パートナーシップを通じて、ケシ農家とその家族への生活支援を目的としたプロジェクトが始まり、国連機関や国際NGOのワ州・コーカン地域への進出が促されました。しかし、2005年1月にアメリカ連邦裁判所がワ州連合軍（UWSA）指導者を麻薬密売容疑で起訴したことで、このプロジェクトも頓挫したとされています。
批判
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、MNDAAが未成年者を含む若い人々を拉致し、強制的に徴兵していると告発しています。
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