ムクタダー・アッ＝サドル

ムクタダー・アッ＝サドルとは

ムクタダー・アッ＝サドル（Muqtadā al-Ṣadr）は、1973年8月12日に生まれたイラクのシーア派（十二イマーム派）のウラマーであり、ホッジャトル・エスラームの称号を持つ重要な宗教指導者です。また、彼はシーア派の反米系民兵組織マフディー軍およびその政治組織である「サドル潮流」を率いています。日本のメディアでは、家名の定冠詞を省略した「サドル師」と呼ばれることが多いです。

生い立ちと家族背景

ムクタダーは、イラクのシーア派イスラム主義政治運動の先駆者である父、ムハンマド・サーディク・アッ＝サドルの息子です。父はシーア派の高名な法学者であり、一時期、シーア派の指導者として重要な役割を果たしていましたが、1999年にサッダーム・フセイン政権によって暗殺されました。ムクタダーは、その父の慈善事業や社会活動を引き継ぎましたが、自身は十分な教育を受けておらず、法学者としての地位は控えめです。

政治活動と影響力の拡大

父の死後、彼らの派閥は一時的に勢力を失い、アメリカなどからの政治的影響力も低下していました。しかし、2003年のイラク戦争後、アメリカの「戦闘終結宣言」が出されると、アッ＝サドルはバグダードのシーア派地域で社会的な慈善事業を展開し、人々の支持を得ていきました。また、その過程でマフディー軍を結成し、占領軍に対する抵抗運動を強化しました。彼の指導のもと、サドル派は反米の立場を取り、イラクの占領統治を厳しく批判しました。

サドルは、自身が暫定当局に任命されたイラク統治評議会に対抗する政府の設立を宣言し、シーア派内では主流の穏健派と対立する姿勢を強めていきました。特に、親米的な指導者であるアブドゥルマジード・アル＝ホーイーの暗殺事件において、彼は容疑者の一員と見なされ、逮捕状が発行されました。

政治的地位の変遷

サドル派は国民議会にも議席を持ち、2010年のイラク議会選挙では全国イラク同盟に参加しましたが、2014年の選挙では政党連合を離脱し、アル＝アフラール・ブロックを設立して34議席を獲得しました。その後、彼は政界からの引退を示唆しましたが、ISILの台頭により再度民兵組織を動員してイラク治安部隊との連携を強化しました。

特に、ISILとの戦闘を通じて、慣れ親しんだ伝統的な派閥との関係が強化され、イラク共産党との連携を通じて政治腐敗の根絶を図る意図を示しました。2018年の議会選挙では「腐敗の根絶」をテーマに掲げ、イラク共産党と共に新たな政党連合を結成し、54議席を獲得しました。

近年の動向

2021年の議会選挙においても、サドルの政党は73議席を獲得し、議会第一党となりますが、連立政権の樹立には失敗しました。2022年6月には全議員が辞職し、早期の議会解散を求める動きが強まりました。8月29日には政治活動からの引退を表明し、それに続いてバグダードでのサドル派と親イラン派との衝突が発生し、多くの死者を出すという事態が発生しました。
彼の政治的立場や影響力は、今後のイラクにおける情勢に大きな影響を与えるでしょう。

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