ムスリム・ブン・ウクバ

ムスリム・ブン・ウクバ：ウマイヤ朝の将軍、その生涯と評価

ムスリム・ブン・ウクバ・アル＝ムッリー（Muslim b. ʿUqba al-Murrī, 622年以前 - 683年）は、ウマイヤ朝初期に活躍した将軍です。彼は、ウマイヤ朝の創始者であるムアーウィヤに仕え、その死後、後継者となったヤズィード1世から、その統治に従わないマディーナの人々に対する遠征軍の指揮官に任命されました。

マディーナ遠征とハッラの戦い

ムスリムは、ハッラの戦いにおいてマディーナ軍に勝利しましたが、この戦いに続いて起こった配下の軍隊によるマディーナの略奪は、歴史的にウマイヤ朝が犯した重要な罪の一つと見なされています。この事件は、ムスリムの評価を大きく左右する出来事となりました。

その後と死

マディーナ略奪後、ムスリムはメッカへ向かう途上で病死しました。しかし、歴史家のアンリ・ラメンスは、中世のイスラーム史料におけるマディーナでのムスリムの行動に関する記述を誇張であるとして退け、ムスリムを公正な人物であり、清廉なイスラーム教徒であったと評価しています。

生い立ちと初期の経歴

ムスリムの生い立ちや初期の経歴については、詳しいことは分かっていません。彼は、アラブ部族のガタファーン族の支流であるムッラ族に属していました。630年代にイスラーム教徒がシリアを征服していた最中にアラビア半島からシリアへ移住した可能性が高く、シリア総督となったムアーウィヤ・ブン・アビー・スフヤーンの支持者となりました。

第一次内乱では、ムアーウィヤ軍のシリア人歩兵部隊を率いて功績を挙げました。ムアーウィヤがカリフになると、パレスチナの地租の収税官という役職を与えられましたが、私利私欲のために利用することはなかったとされています。ムアーウィヤは死の床についた際、ムスリムとダマスクス総督のダッハーク・ブン・カイス・アル＝フィフリーを、後継者ヤズィードが帰還するまでの間の摂政に任命しました。

ヤズィード1世の即位とマディーナへの使節

680年にムアーウィヤが死去し、ヤズィードがカリフに即位しましたが、世襲によるカリフの地位の継承はアンサール（マディーナのムハンマドの初期の支持者）からは認められませんでした。ヤズィード1世は、マディーナの民衆を自分の統治に協力させるべくムスリムを使節団の長として派遣しましたが、この試みは拒絶されました。

マディーナ遠征軍の指揮

ヤズィード1世は、マディーナとメッカの人々を制圧するために、ムスリムを遠征軍の指揮官として再び派遣しました。当時ムスリムは高齢で病気を患っていたため、輿に担がれて運ばれました。マディーナへ向かう途中のワーディー・アル＝クラーで、マディーナから追放されたウマイヤ家の一団と出会い、彼らからマディーナの防衛体制に関する情報を得ました。

マディーナ郊外に到着したムスリムは、ハッラト・ワーキムに陣を張り、ヤズィードと敵対するアンサールやクライシュ族の人々と交渉を開始しましたが、不調に終わりました。683年8月26日、ハッラの戦いが起こり、アンサールの部隊は序盤こそ優位に立ちましたが、最終的にはムスリムが率いるシリア軍に敗れました。翌日、ムスリムの軍隊はマディーナを略奪しました。その後、ムスリムは捕らえられた反乱の指導者たちを訴追し、副官にマディーナを任せてメッカへ向かいましたが、その途中で病死しました。

イスラームにおける評価

イスラームの伝統では、マディーナの略奪はウマイヤ朝が犯した重要な罪の一つとされています。スンナ派の歴史家はムスリムを非難し、シーア派に同調的な歴史家は蔑視しました。しかし、アンリ・ラメンスは、ムスリムを公正な人物であり、清廉なイスラーム教徒であったと評価しています。彼の評価は分かれていますが、ウマイヤ朝の権力確立に大きく貢献した人物であることは否定できません。

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