ムラサキツバメ (蝶)

ムラサキツバメ

ムラサキツバメ（学名: Narathura bazalus）は、シジミチョウ科に属する美しいチョウです。温暖な地域の照葉樹林を好み、その名の通り、オスは翅の表面が鮮やかな紫色に輝くのが特徴です。

形態

開長は3.6cmから4cm程度で、近縁種のムラサキシジミよりもわずかに大きいのが特徴です。オスの翅の表面は、ほぼ全面が深い紫色に輝く鱗粉で覆われ、周囲は黒褐色で縁取られています。一方、メスの翅は、黒褐色の地色の中に、オスよりも明るい紫色の部分が現れます。翅の裏面は、オスもメスも薄い褐色で、色の濃い斑紋が数個並んでいます。後翅には、細い尾状突起が1対あります。この尾状突起と、前翅の前縁の先端が丸みを帯びていることが、ムラサキシジミとの区別点となります。

分布

ムラサキツバメは、ヒマラヤ東部から中国南部にかけての照葉樹林帯を中心に分布しており、南はマレー半島、東は台湾、日本まで生息しています。日本では、九州南部などで比較的多く見られます。地域によっていくつかの亜種に分けられており、日本に分布するものは日本亜種 Narathura bazalus turbata とされています。

かつては本州（近畿地方以西）、四国、九州に分布すると考えられていましたが、1990年代後半以降、東海、関東地方、さらには福島県でも成虫や幼虫の目撃情報が相次ぎ、分布域を北へ広げていることが明らかになりました。これは、地球温暖化の影響だけでなく、幼虫の食草となるマテバシイが街路樹や庭木として広く植えられたことも関係していると考えられます。これらの地域では、春にはほとんど成虫が見られず、夏から秋にかけて個体数が増加するため、温暖な地域から移動してくるチョウが一時的に分布している可能性も指摘されています。

生活環

越冬した成虫は、春になると活動を再開し、マテバシイやシリブカガシなどの新芽や若枝の付け根に卵を1つずつ産み付けます。孵化した幼虫は、柔らかい新芽の中にもぐりこんで成長し、その後、葉を折り曲げて巣を作って若葉を食べます。興味深いことに、ムラサキツバメの幼虫は体からアリの好む液体を分泌し、トビイロケアリなどのアリに保護してもらう代わりに、この分泌物を提供するという共生関係を築いています。日本では、5月下旬から6月にかけて最初の成虫が現れ、3～4世代を繰り返しながら11月頃まで成虫が見られます。冬は成虫で越冬し、林の下草の葉の裏などで、数匹から10数匹ほどが寄り集まって越冬します。

関連項目

ムラサキシジミ

参考文献

猪又敏男 編・解説、松本克臣 写真『蝶』 山と溪谷社〈新装版山溪フィールドブックス〉、2006年、ISBN 4-635-06062-4。

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