ムラピ山

ムラピ山：インドネシアを代表する活火山

ムラピ山は、インドネシアのジャワ島中央部に位置する活火山です。その名は「火の山」を意味し、メラピ山とも呼ばれます。40万年前から火山活動を続けており、特に過去1万年間は活発な活動が続いています。インドネシアで最も活動的な火山の1つとして知られ、ほぼ常に噴煙を上げています。

ムラピ山の噴火様式は、安山岩質の溶岩ドームの崩落による火砕流の発生が特徴的です。このタイプの火砕流は「メラピ型火砕流」と呼ばれ、日本の雲仙岳の噴火などでも見られます。この火砕流は、高温の火山灰と岩塊が高速で流れ下り、甚大な被害をもたらす危険性があります。

ムラピ山は、人口密集地であるジョグジャカルタから約30キロメートル南に位置しています。そのため、山麓には村落が点在し、標高1700メートル地点にさえ集落が存在するほど、人々の生活と密接に関わっています。山の中腹には数千人が居住しており、噴火による危険と隣り合わせの生活を送っています。この危険性から、国際火山学地球内部化学会によって防災十年火山に指定され、世界的な監視対象となっています。

歴史的な噴火と被害

ムラピ山は、歴史記録に残るだけでも1548年以降に68回の噴火を記録しています。過去には多くの噴火災害が発生しており、死者数千人に上る大規模な災害も起きています。主な噴火とその被害は以下のとおりです。

1006年：死者数千人
1672年：死者3,000人
1872年4月（VEI4）：死者1,400人
1930年（VEI3）：死者1,300人
1966年：死者64人
1994年：死者60人

その他にも、1548年、1786年、1822年、1846年、1849年、1961年などにも大規模な噴火が記録されています。これらの噴火は、周辺地域に甚大な被害をもたらし、多くの犠牲者を出しました。

2010年の大噴火

2010年10月、ムラピ山では大規模な噴火が発生しました。500回以上の火山性地震が観測されたことを受け、インドネシア政府は警戒レベルを最高度に引き上げ、山頂から10キロメートル以内の住民に避難勧告を出しました。

10月26日の噴火では、火砕流が村を直撃し、29人が死亡しました。その後も噴火は続き、11月4日の爆発は1872年以来最大規模で、噴煙が上空10キロメートルにまで達しました。11月4日から5日にかけて発生した大規模な噴火では、火砕流が13キロメートル以上流れ下り、噴火音は20キロメートル先まで聞こえたと報告されています。この噴火により、122人が死亡し、約15万人が避難しました。

噴火の影響は、ジョグジャカルタ国際空港の閉鎖や、世界遺産であるボロブドゥール遺跡への降灰など、広範囲に及びました。噴火による火山灰は、ジャカルタ郊外やシンガポール、マレーシアなどにも到達し、多くの航空便が欠航しました。日本への影響もあり、日本航空の便が引き返す事態も発生しました。大雨によるラハール（火山泥流）も発生し、被害はさらに拡大しました。

噴火は11月10日にも発生し、死者数は191人に達しました。避難者数は中部ジャワ州とジョクジャカルタ市を合わせて約35万人でしたが、避難勧告地域が拡大されたため、避難対象人口の3分の1にとどまりました。この噴火は、オバマ大統領のインドネシア訪問日程の短縮にもつながるなど、国際的な影響も及ぼしました。

最終的に、2010年の噴火による死者数は300人を超え、甚大な被害をもたらしました。

2018年以降の噴火

2018年5月にも噴火が発生し、噴煙は高度1万3000メートルを超えました。2020年以降も断続的に噴火が続き、2020年2月、2021年1月、2023年5月にも噴火し、溶岩の流出や高温の火山灰の噴出などが観測されています。

ムラピ山の生態系

ムラピ山周辺の熱帯林は、ジャワ島とバリ島の山地林の生態系に属し、高い生物多様性を誇ります。カニクイザル、ヒョウ、ソデグロムクドリなど、多くの希少な動植物が生息しています。2020年には、周辺のメルバブ山、セルモ貯水池、ムノレ丘陵一帯と共にユネスコの生物圏保護区に指定され、その生態系の保全が国際的に重要視されています。

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