ムルスラプトル

ムルスラプトル：パタゴニアの謎めいた獣脚類

アルゼンチンのパタゴニア地方、ネウケン層群のSierra Barrosa層から発見されたムルスラプトル( Murusraptor)は、メガラプトル類に属する獣脚類恐竜です。発見された化石は、部分的な頭蓋骨、肋骨、骨盤、後肢、その他の骨格要素からなる未成熟個体の単一標本です。全長は推定6.4メートルですが、骨の癒合が不完全なことから、成体であればさらに大型になった可能性が高いと考えられています。

独特の骨格形態

ムルスラプトルの骨格は、メガラプトル類の理解を深める上で重要な発見をもたらしました。特に頭蓋骨と骨盤には、他のメガラプトル類には見られない独特の特徴が認められます。

具体的には、涙骨の前方の枝が後方の枝よりも長いこと、下顎の特定の構造、仙肋骨が中空の管状であること、坐骨が短く扁平であることなどが挙げられます。これらの特徴、特に仙肋骨と坐骨の形状は、他の獣脚類には見られないムルスラプトル固有の特徴と言えるでしょう。

さらに、個々の特徴自体は特異的でないものの、それらの組み合わせが独特である点も注目に値します。例えば、脳頭蓋の構造は、アロサウルス科やケラトサウルス科といった非コエルロサウルス類よりも、ティラノサウルス科といった非マニラプトル類のコエルロサウルス類との類似性が高いことが示唆されています。一方で、脳化指数はアロサウルス上科の範囲内であり、感覚神経の能力はティラノサウルス科ほど高くなかった可能性があります。

発見と命名

2001年、Sergio Saldivia氏によって、Plaza Huinculの北東30キロメートル地点の渓谷の岩壁からムルスラプトルの化石が発見されました。2016年、Rodolfo Coria氏とPhilip Currie氏によって、Murusraptor barrosaensisと命名されました。「Murus」はラテン語で「壁」を意味し、発見場所の岩壁に、「raptor」は「泥棒」を意味し、獣脚類の捕食者としての性質にそれぞれ由来しています。

分類上の位置づけ

メガラプトル類は、分類に関して未だ議論が続いています。かつてはドロマエオサウルス科に分類されることもありましたが、現在はアロサウルス上科やティラノサウルス上科に近縁であるという説が有力です。ムルスラプトルの発見は、メガラプトル類の進化における位置づけを明確にする上で重要な情報となります。今後の研究によって、メガラプトル類の系統関係がより詳細に解明されることが期待されます。

病理学的特徴

ムルスラプトルのタイプ標本には、脳頭蓋の左側に複数の病変が見られます。これは、他の獣脚類による攻撃による可能性が高いと推測されています。これらの損傷は、後頭部の変形や肋骨の異常にもつながっていると考えられます。しかし、これらの病変が個体の死因となったかどうかは現時点では不明です。

まとめ

ムルスラプトルは、メガラプトル類の進化と多様性を理解する上で極めて重要な発見です。その独特の骨格構造、病理学的特徴、そして分類上の位置づけは、白亜紀後期の南アメリカにおける獣脚類の進化を探る上で貴重な手がかりとなるでしょう。今後の研究により、ムルスラプトルを含むメガラプトル類の謎がさらに解き明かされることが期待されます。

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