ムールヴェードル

ムールヴェードル：多様な顔を持つ赤ワイン用ブドウ

ムールヴェードルは、世界各地で栽培されている赤ワイン用ブドウ品種です。地域によってマタロー、モナストレルなど様々な名前で呼ばれています。

多様な産地

主な産地は、南フランスのローヌ地方やプロヴァンス地方、スペインの地中海沿岸、アメリカ西海岸、オーストラリアなどです。オーストラリアでは、グルナッシュやシラーとのブレンド「GSM」がよく知られています。

歴史

ムールヴェードルの起源はスペインと考えられています。紀元前500年頃にフェニキア人がカタルーニャ地方に持ち込んだという説があります。フランス語のムールヴェードルは、カタルーニャ語のムルビエドロに由来するとも言われています。16世紀にはフランスのルシヨン地方で広く栽培され、その後ローヌ地方やプロヴァンス地方に広がりました。

19世紀後半のフィロキセラ禍により、ヨーロッパのブドウ畑は大きな被害を受けました。ムールヴェードルはアメリカ産の苗木との相性が悪く、栽培面積が激減しましたが、近年再び注目を集めています。

アメリカでは、1860年代にカリフォルニアに導入され、マタローとして知られていました。一時、大量生産の低価格ワインに使われましたが、20世紀末には高品質なブドウ品種として見直され、ローヌ・レンジャーズなどの生産者によって再び評価が高まりました。

オーストラリアでは、19世紀中頃からマタローとして栽培されてきました。1980年代には政府主導の植え替え計画で多くの古木が失われましたが、一部は現存しています。近年ではGSMブレンドの重要な品種として、その価値が見直されています。

各国の産地詳細

スペイン

スペインではモナストレルとして知られ、国内で4番目に多く栽培されている黒ブドウ品種です。しかし、近年は栽培面積が減少傾向にあります。ムルシア州やバレンシア州などの東部地域で広く栽培されており、フミーリャ、ジェクラ、バレンシアなどのワイン産地では主要品種となっています。

フランス

フランスでは、ローヌ地方やプロヴァンス地方で栽培されています。特にプロヴァンス地方のバンドールAOCでは、ムールヴェードルの比率が50%以上であることが義務付けられています。ラングドック＝ルシヨン地域圏でも栽培面積が増加しており、セパージュワインやブレンドワインに使用されています。

アメリカ合衆国

アメリカでは、主にカリフォルニア州とワシントン州で栽培されています。カリフォルニアではマタローとして知られ、ローヌスタイルのブレンドに使用されています。ワシントン州では、セパージュワインやローヌスタイルのブレンドワインが生産されており、チェリーのような果実香とスパイシーな香りが特徴です。

オーストラリア

オーストラリアでは、マタローとして知られていますが、近年ではムールヴェードルという名称も使われるようになっています。GSMブレンドの重要な品種として評価されており、南オーストラリア州のバロッサ・ヴァレーなどで栽培されています。

ワインの特徴

ムールヴェードルは、ブレンドされることでワインに色合い、果実香、タンニンを与えます。グルナッシュの果実味やシラーのエレガントさを引き立てる役割も果たします。ロゼワインや酒精強化ワインにも使用され、多様なスタイルのワインを生み出しています。

ワイン評論家のジャンシス・ロビンソンは、「ムールヴェードルの良好なヴィンテージは、香り高く、鮮烈な果実香やブラックベリー、ジビエのニュアンスを持つ」と評価しています。

多様な名称

ムールヴェードルは、地域によって様々な名前で呼ばれています。フランスではムールヴェードル、ポルトガルや新世界の一部ではマタロー、スペインではモナストレルが一般的です。英語圏ではムールヴェードルという名称が最も一般的です。

このように、ムールヴェードルは多様な顔を持つブドウ品種であり、その特徴は産地や醸造方法によって大きく変化します。様々なムールヴェードルを試してみることで、ワインの奥深さを体験できるでしょう。

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