メキシコ憲法

メキシコ憲法

メキシコ合衆国の現行憲法は、正式には「メキシコ合衆国政治憲法」（スペイン語: Constitución Política de los Estados Unidos Mexicanos）と呼ばれます。これは、1910年に始まり1917年にかけて進行したメキシコ革命の重要な成果の一つとして、1917年2月5日に制定されました。それまでの1857年憲法を引き継ぐ形で、ケレタロ州ケレタロの制憲議会で起草・批准されたことから、「1917年憲法」あるいは「ケレタロ憲法」とも称されます。

特徴と歴史的意義

1917年憲法の最も画期的な点は、世界で初めて社会権に関する規定を盛り込んだこととされています。これは、後のドイツのヴァイマル憲法（1919年）やロシアの憲法（1918年）などに影響を与えたとも言われます。特に、教育を受ける自由（第3条）、土地改革や国家による私有財産の徴用（第27条）、労働者の権利（第123条）に関する条文は重要であり、20世紀メキシコの政治哲学および社会経済的基盤を形成する上で中心的な役割を果たしました。

第3条は、カトリック教会が教育に与える影響力を制限するため、自由で世俗的な義務教育制度の基礎を築きました。第27条は、大地主制の解体や共有地（エヒード）の制度、さらには天然資源の国家所有権を定めることで、土地改革の根幹となりました。また、1938年にはこの条文に基づき外国石油会社の資産国有化が実施されています。第123条は、19世紀後半に台頭した労働者階級の権利を強化し、革命を主導した勢力の支持を得る上で貢献しました。

カトリック教会に対する国家の制限は、第3条、第5条（職業選択）、第24条（信教の自由）、第27条、第130条（教会と国家の分離）などに明確に規定され、教会による不動産所有の禁止や、聖職者の政治活動制限などが盛り込まれました。プルタルコ・エリアス・カリェス大統領によるこれらの条文の厳格な適用は、1926年にクリステロ戦争を引き起こす一因となりました。

成立の経緯

憲法制定議会は、革命で優勢となったベヌスティアーノ・カランサ率いる憲法派によって招集されました。当初は1857年憲法の改正を目的としていましたが、審議の過程で単なる改正に留まらず、全く新しい憲法草案へと発展しました。カランサは対立するビリャ派やサパタ派を議会から排除しましたが、彼らの要求や影響により、カランサの当初の意図にはなかった第27条や第123条が盛り込まれることとなりました。議会は1916年11月から短期間で審議を進め、1917年2月5日に最終案を承認しました。

また、1906年にメキシコ自由党（PLM）が提起した多くの改革案が、1917年憲法に反映されました。労働者の8時間労働制や最低賃金（第123条）、休耕地の政府による徴用・再分配を可能とする土地改革（第27条）、教育の世俗化や義務教育の拡大（第3条）などがPLMの提言を基にしています。さらに、カトリック教会への制限強化（不動産国有化、学校運営制限など）もPLMの主張が反映されたものです。

改正とその影響

1917年憲法は現在も有効ですが、制定以降、数多くの改正を経てきました。その改正回数はOECD加盟国の中で最も多い部類に入ります。特に、1992年にはカルロス・サリナス・デ・ゴルタリ大統領の下で重要な改正が行われました。これは、新自由主義的な経済改革や北米自由貿易協定（NAFTA）への対応、そして教会との関係見直しを目的としたものでした。

1992年の改正では、特に第27条が大きく変更されました。個人の財産権が強化され、これまで売却が制限されていたエヒードの私有化や売却が可能となりました。これにより、憲法による小規模農家への支援は弱められることとなり、1994年のサパティスタの反乱の直接的な一因とも言われています。また、カトリック教会に対する厳しい制限規定の大部分が撤廃され、政教関係は大きく変化しました。一方で、宗教活動の自由は完全に保障されておらず、例えば屋外での礼拝には政府の許可が必要であったり、聖職者の政治活動は引き続き制限されています。

その他にも、大統領任期の変更（4年から6年へ延長、再選禁止）、女性のエヒード所有権に関する制限の撤廃（1971年）、国内での死刑制度廃止（2005年）、食料への権利保障（2011年）など、様々な改正が行われています。

基本原則と主要条文

メキシコ憲法は、以下のような7つの基本原則に基づいています。

人権の尊重
国家主権
三権分立
代表制民主主義
連邦制
憲法上の権利に対する救済制度（アンパロ）
教会に対する国家の優越（現在は緩和傾向）

全9章136条で構成され、主要な条文には以下のようなものがあります。

第1条: 人権の保障、奴隷制度の禁止、差別の禁止。
第2条: 国家の統一性、先住民の権利の保護・承認。
第3条: 教育を受ける自由、教育の世俗化と無償性。
第4条: 男女平等、食料への権利。
第5条: 職業選択の自由。
第6条: 表現の自由。
第7条: 出版の自由、事前検閲の禁止。
第11条: 移動・入国・出国の自由。
第24条: 信教の自由。
第27条: 土地・水資源の国家所有権、徴用、天然資源の管理、外国人の土地所有制限。
第39条: 国家主権は国民に由来し、国民は政府形態を変更する権利を持つ。
第49条: 立法・行政・司法の三権分立。
第83条: 大統領の任期（6年、再選禁止）。
第123条: 労働者の権利（8時間労働、スト権、解雇補償など）。
第130条: 教会と国家の分離、聖職者に関する制限（1992年改正で緩和）。

メキシコでは、この憲法の批准を記念して、2月5日を「憲法記念日」として祝日に定めています。実際の祝日は2月第1月曜日となります。

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