メギッドの戦い
メギッドの戦い（ナブルスの戦いとも呼ばれる）は、第一次世界大戦の中東戦線における、イギリス軍とオスマン帝国軍の間の決定的な戦いでした。この戦いは、イギリス軍の攻勢によってオスマン帝国軍が壊滅的な打撃を受け、中東戦線の趨勢を決定づけることとなりました。
前年の第三次ガザの戦いとそれに続く追撃戦で、エドモンド・アレンビー将軍率いるイギリスのエジプト遠征軍はエルサレムを占領しました。1918年春には、イギリス軍は小規模な攻勢を2度試みましたが、いずれもオスマン帝国軍に撃退されました。アレンビー将軍は更なる攻勢を計画していましたが、西部戦線でドイツ軍が春季大攻勢を開始したため、遠征軍は兵力の大部分を西部戦線に送らざるを得なくなりました。その結果、インド軍からの補充兵を受け入れることになりましたが、これらの兵士は訓練不足で実戦経験が乏しかったため、アレンビー将軍は彼らを再教育する必要に迫られました。
次なる攻勢作戦は、アレンビー自身によって立案されました。8月1日、彼は各軍団長に作戦構想を伝え、9月9日には作戦命令第68号を発令しました。作戦の要点は以下の通りです。
1. まず、優勢なイギリス陸軍航空隊が制空権を確保する。
2. 次に、航空隊がオスマン軍の通信施設を破壊し、軍間の連携を困難にする。
3. 地上戦では、内陸部の第20軍団と東面のチャーター隊が欺瞞行動によって敵を誘い込む。
4. 海岸部の第21軍団が正面突破を敢行し、続く砂漠乗馬軍団がその突破口から急進する。
前回の第三次ガザの戦いでは内陸部からの突破を試みましたが、今回は海岸部を主軸とする作戦に変更されました。
対するオスマン帝国軍は、パレスチナにおける最高司令部としてユルドゥルム軍集団を配置していました。この軍団を指揮するのは、ガリポリの戦いで名を馳せたドイツ人将軍オットー・リーマン・フォン・ザンデルスでした。ザンデルスは、前任者のフォン・ファルケンハインが好んだ機動防御よりも、陣地防御を重視しました。彼の防御計画は単純で、敵に土地を渡さずにその場で固守するというものでした。陣地を奪われた場合は、予備隊による即座の反撃を行うことになっていましたが、作戦レベルで見ると、いざという時に頼るべき第二線陣地がなく、固守か死かという二択しかありませんでした。
イギリス軍の最高司令部はエジプト遠征軍で、その下には第20軍団、第21軍団、砂漠乗馬軍団、チャーター隊、イギリス空軍パレスチナ旅団がいました。第20軍団と第21軍団は歩兵部隊を主体としており、砂漠乗馬軍団は騎兵部隊が中心でした。チャーター隊は、オーストラリア・ニュージーランド騎兵師団を基幹とし、それに歩兵部隊が付随した部隊でした。ドイツ軍の春季攻勢による兵力転出と補充の結果、遠征軍ではインド兵の割合が増加していました。総勢は歩兵5万6千、騎兵1万1千、火砲552門でした。
一方、オスマン帝国のユルドゥルム軍集団は、第4軍、第7軍、第8軍で構成されていました。第8軍にはドイツ・アジア軍団も含まれていました。1918年8月時点で、歩兵戦力は40,598名（小銃19,819挺、軽機関銃273挺、重機関銃696挺）でした。アレンビーはオスマン軍の戦力を、歩兵3万2千、騎兵3千、火砲370門と推定しました。軍の配置は、軍集団司令部がナザレ、海岸部の第8軍がテル・カルム、内陸部の第7軍がナブルス、内陸部左翼の第4軍がエス・サルトに置かれていました。当時、ユルドゥルム軍集団は物資不足と兵力不足に悩まされていました。
戦いの前段階として、イギリス陸軍航空隊は航空撃滅戦を実施し、ドイツ・オスマン軍機を圧倒して制空権を確立しました。また、アラブ北部軍がヘジャーズ鉄道付近で破壊工作を行ったため、ザンデルスは鉄道警備のために貴重な兵力を割かざるを得なくなりました。
9月19日、イギリス軍は攻撃を開始しました。第20軍団がヨルダン渓谷に主攻撃をかけると見せかけた陽動攻撃を行う一方、第21軍団は夜陰に紛れて陣地から移動し、攻撃地点に集結しました。午前4時30分、イギリス軍は海岸部に対して激しい砲撃を開始し、15分間に毎分1,000発以上の砲弾をオスマン軍陣地に浴びせました。オスマン軍の砲兵も反撃しましたが、その目標はイギリス軍陣地に向けられていたため、ほとんど損害を与えることができませんでした。同時に、イギリス陸軍航空隊はオスマン軍の司令部と通信施設を爆撃し、情報伝達を困難にしました。
移動弾幕射撃の支援を受けながら、イギリス第21軍団の歩兵部隊は前進を開始しました。突破正面におけるイギリス軍とオスマン軍の戦力比は12対1となり、イギリス軍が圧倒的に優勢でした。ザンデルスは状況を全く把握できず、午前7時以降第8軍との通信が完全に途絶しました。午前8時50分に第8軍は状況報告を試みましたが、ザンデルスの元には届きませんでした。2時間後、ドイツ・アジア軍団長のオッペン大佐から連絡を受けて、初めて状況を知ることとなりました。突破正面のオスマン第8軍第22軍団はイギリス軍の猛攻によって壊滅し、隣接するドイツ・アジア軍団も後退し始めました。開かれた突破口から砂漠乗馬軍団がナザレに向けて突進し、イギリス軍は午後5時にテル・カルムを占領しました。
9月20日～25日、オスマン第7軍はイギリス軍によって圧迫され続けました。砂漠乗馬軍団はエル・ラジュン、アフーラ、ベイサン、ジェニンを次々と占領し、ザンデルスのいるナザレにも攻撃を仕掛けました。ザンデルスは午後1時15分に町を放棄して退却しました。21日、ナザレはイギリス軍に占領されました。敗走する第7軍の大部分は、ワディ・ファア付近でイギリス陸軍航空隊の襲撃を受け、車両や火砲を捨てて潰走しました。
25日までに、ハイファ、アッコ、ベイサン、サマフをイギリス軍は占領し、チャーター隊はアンマンを占領しました。オスマン第4軍はダルアーへ敗走し、第7軍とドイツ・アジア軍団はヨルダン川を越えて北へ退却しました。第7軍は壊滅状態となり、ドイツ・アジア軍団は残存兵2千名で部隊統制を維持していましたが、重火器を放棄せざるを得ませんでした。
イギリス騎兵部隊はダマスカスを目指してさらに進撃しました。28日、ダルアーに到着したイギリス第4インド騎兵師団は、先行していたアラブ軍がオスマン軍負傷者を虐殺しているのを発見しました。ザンデルスはダマスカス防衛のために3個歩兵師団と第3騎兵師団を配備しましたが、これらの部隊は連戦連敗によって弱体化しており、イギリス軍を止めることはできませんでした。10月1日、ダマスカスは陥落しました。オスマン第3騎兵師団は殿軍として戦い壊滅し、他の部隊は北方へ敗走しました。イギリス騎兵はこれを追撃しました。この頃から、オスマン軍捕虜によってもたらされた疫病がイギリス軍内で蔓延し始めました。アレンビーは軍にハマーの線で停止するよう命じましたが、第5インド騎兵師団はこれを無視して進撃し、10月25日にアレッポを占領しました。
10月26日、ザンデルスはアナトリアのアダナまで軍集団司令部を後退させました。第4軍司令部と第8軍司令部は消滅しており、メギッド戦前の戦力としてはムスタファ・ケマルの第7軍と疲弊した師団だけが残っていました。オスマン参謀本部は首都方面とカフカスから兵をアダナに移送し、中心部での最後の決戦を計画していましたが、10月30日にムドロス休戦協定が締結され、オスマン帝国の敗北が決定しました。
メギッド作戦の開始から38日間で、イギリス軍は350マイル前進し、オスマン帝国ユルドゥルム軍集団を壊滅させました。イギリス軍の損害は、戦死者782名、負傷者4,179名、行方不明者382名でした。イギリス側は、オスマン軍捕虜7万6千名、火砲360門、機関車89両を鹵獲したと主張しています。
オスマン軍の敗因としては、士気の低下がよく指摘されます。実際に、オスマン軍捕虜は自軍の士気の低下、不十分な兵站、戦争自体への支持不足を訴えています。イギリスの情報部は、アナトリア、カフカス、ヨーロッパの戦闘師団と比較して、パレスチナ駐留兵の質が低下している点を指摘しました。さらに、捕虜の士気はガリポリ戦時よりも低下しており、特にアラブ兵は著しく低いとされました。
エドワード・エリクソンは、士気以外にも3つの敗因を指摘しています。戦略的には、戦場がカフカスやガリポリのように防御に適した地形ではなかったこと、作戦レベルではイギリス軍の欺瞞と集中によって、前線付近での軍団規模の部隊移動が可能になったこと、戦術レベルでは1917年から1918年にかけてイギリス軍が戦術を進化させたことが挙げられます。ザンデルスはガリポリ戦の経験しかなく、いかなる犠牲を払っても陣地を固守するという考えをメギッド戦でも持ち続けていました。一方、オスマン軍人に嫌われたファルケンハインは、大戦中盤のヴェルダン戦やルーマニア戦役に参加し、戦争の様相が変化していることを認識していました。つまり、土地に固執することなく、強力な反撃によって敵を粉砕するという大戦後半のドイツ軍の考え方にシフトしていたのです。ファルケンハインが指揮した第三次ガザの戦いでは、師団レベルの部隊が全滅するという状況は避けられました。しかし、柔軟な防御ではなく固定的な防御に固執したメギッド戦でのオスマン軍は、イギリス騎兵の大進撃を許してしまったのです。
メギッド戦における歩兵部隊、機動部隊、航空隊の3軍協同作戦は、後の電撃戦を先取りしたものでした。イギリスの軍事学者ベイジル・リデル＝ハートは、「メギッドという不滅の名によって永遠となったこの勝利は、構想の雄大さにおいて歴史上の傑作の一つである」と絶賛しました。アメリカ海兵隊も『WARFIGHTING』で、メギッド戦を高度な機略性を持った戦闘と評価しています。
背景
前年の第三次ガザの戦いとそれに続く追撃戦で、エドモンド・アレンビー将軍率いるイギリスのエジプト遠征軍はエルサレムを占領しました。1918年春には、イギリス軍は小規模な攻勢を2度試みましたが、いずれもオスマン帝国軍に撃退されました。アレンビー将軍は更なる攻勢を計画していましたが、西部戦線でドイツ軍が春季大攻勢を開始したため、遠征軍は兵力の大部分を西部戦線に送らざるを得なくなりました。その結果、インド軍からの補充兵を受け入れることになりましたが、これらの兵士は訓練不足で実戦経験が乏しかったため、アレンビー将軍は彼らを再教育する必要に迫られました。
作戦構想
次なる攻勢作戦は、アレンビー自身によって立案されました。8月1日、彼は各軍団長に作戦構想を伝え、9月9日には作戦命令第68号を発令しました。作戦の要点は以下の通りです。
1. まず、優勢なイギリス陸軍航空隊が制空権を確保する。
2. 次に、航空隊がオスマン軍の通信施設を破壊し、軍間の連携を困難にする。
3. 地上戦では、内陸部の第20軍団と東面のチャーター隊が欺瞞行動によって敵を誘い込む。
4. 海岸部の第21軍団が正面突破を敢行し、続く砂漠乗馬軍団がその突破口から急進する。
前回の第三次ガザの戦いでは内陸部からの突破を試みましたが、今回は海岸部を主軸とする作戦に変更されました。
対するオスマン帝国軍は、パレスチナにおける最高司令部としてユルドゥルム軍集団を配置していました。この軍団を指揮するのは、ガリポリの戦いで名を馳せたドイツ人将軍オットー・リーマン・フォン・ザンデルスでした。ザンデルスは、前任者のフォン・ファルケンハインが好んだ機動防御よりも、陣地防御を重視しました。彼の防御計画は単純で、敵に土地を渡さずにその場で固守するというものでした。陣地を奪われた場合は、予備隊による即座の反撃を行うことになっていましたが、作戦レベルで見ると、いざという時に頼るべき第二線陣地がなく、固守か死かという二択しかありませんでした。
両軍の態勢
イギリス軍の最高司令部はエジプト遠征軍で、その下には第20軍団、第21軍団、砂漠乗馬軍団、チャーター隊、イギリス空軍パレスチナ旅団がいました。第20軍団と第21軍団は歩兵部隊を主体としており、砂漠乗馬軍団は騎兵部隊が中心でした。チャーター隊は、オーストラリア・ニュージーランド騎兵師団を基幹とし、それに歩兵部隊が付随した部隊でした。ドイツ軍の春季攻勢による兵力転出と補充の結果、遠征軍ではインド兵の割合が増加していました。総勢は歩兵5万6千、騎兵1万1千、火砲552門でした。
一方、オスマン帝国のユルドゥルム軍集団は、第4軍、第7軍、第8軍で構成されていました。第8軍にはドイツ・アジア軍団も含まれていました。1918年8月時点で、歩兵戦力は40,598名（小銃19,819挺、軽機関銃273挺、重機関銃696挺）でした。アレンビーはオスマン軍の戦力を、歩兵3万2千、騎兵3千、火砲370門と推定しました。軍の配置は、軍集団司令部がナザレ、海岸部の第8軍がテル・カルム、内陸部の第7軍がナブルス、内陸部左翼の第4軍がエス・サルトに置かれていました。当時、ユルドゥルム軍集団は物資不足と兵力不足に悩まされていました。
経過
戦いの前段階として、イギリス陸軍航空隊は航空撃滅戦を実施し、ドイツ・オスマン軍機を圧倒して制空権を確立しました。また、アラブ北部軍がヘジャーズ鉄道付近で破壊工作を行ったため、ザンデルスは鉄道警備のために貴重な兵力を割かざるを得なくなりました。
9月19日、イギリス軍は攻撃を開始しました。第20軍団がヨルダン渓谷に主攻撃をかけると見せかけた陽動攻撃を行う一方、第21軍団は夜陰に紛れて陣地から移動し、攻撃地点に集結しました。午前4時30分、イギリス軍は海岸部に対して激しい砲撃を開始し、15分間に毎分1,000発以上の砲弾をオスマン軍陣地に浴びせました。オスマン軍の砲兵も反撃しましたが、その目標はイギリス軍陣地に向けられていたため、ほとんど損害を与えることができませんでした。同時に、イギリス陸軍航空隊はオスマン軍の司令部と通信施設を爆撃し、情報伝達を困難にしました。
移動弾幕射撃の支援を受けながら、イギリス第21軍団の歩兵部隊は前進を開始しました。突破正面におけるイギリス軍とオスマン軍の戦力比は12対1となり、イギリス軍が圧倒的に優勢でした。ザンデルスは状況を全く把握できず、午前7時以降第8軍との通信が完全に途絶しました。午前8時50分に第8軍は状況報告を試みましたが、ザンデルスの元には届きませんでした。2時間後、ドイツ・アジア軍団長のオッペン大佐から連絡を受けて、初めて状況を知ることとなりました。突破正面のオスマン第8軍第22軍団はイギリス軍の猛攻によって壊滅し、隣接するドイツ・アジア軍団も後退し始めました。開かれた突破口から砂漠乗馬軍団がナザレに向けて突進し、イギリス軍は午後5時にテル・カルムを占領しました。
9月20日～25日、オスマン第7軍はイギリス軍によって圧迫され続けました。砂漠乗馬軍団はエル・ラジュン、アフーラ、ベイサン、ジェニンを次々と占領し、ザンデルスのいるナザレにも攻撃を仕掛けました。ザンデルスは午後1時15分に町を放棄して退却しました。21日、ナザレはイギリス軍に占領されました。敗走する第7軍の大部分は、ワディ・ファア付近でイギリス陸軍航空隊の襲撃を受け、車両や火砲を捨てて潰走しました。
25日までに、ハイファ、アッコ、ベイサン、サマフをイギリス軍は占領し、チャーター隊はアンマンを占領しました。オスマン第4軍はダルアーへ敗走し、第7軍とドイツ・アジア軍団はヨルダン川を越えて北へ退却しました。第7軍は壊滅状態となり、ドイツ・アジア軍団は残存兵2千名で部隊統制を維持していましたが、重火器を放棄せざるを得ませんでした。
休戦まで
イギリス騎兵部隊はダマスカスを目指してさらに進撃しました。28日、ダルアーに到着したイギリス第4インド騎兵師団は、先行していたアラブ軍がオスマン軍負傷者を虐殺しているのを発見しました。ザンデルスはダマスカス防衛のために3個歩兵師団と第3騎兵師団を配備しましたが、これらの部隊は連戦連敗によって弱体化しており、イギリス軍を止めることはできませんでした。10月1日、ダマスカスは陥落しました。オスマン第3騎兵師団は殿軍として戦い壊滅し、他の部隊は北方へ敗走しました。イギリス騎兵はこれを追撃しました。この頃から、オスマン軍捕虜によってもたらされた疫病がイギリス軍内で蔓延し始めました。アレンビーは軍にハマーの線で停止するよう命じましたが、第5インド騎兵師団はこれを無視して進撃し、10月25日にアレッポを占領しました。
10月26日、ザンデルスはアナトリアのアダナまで軍集団司令部を後退させました。第4軍司令部と第8軍司令部は消滅しており、メギッド戦前の戦力としてはムスタファ・ケマルの第7軍と疲弊した師団だけが残っていました。オスマン参謀本部は首都方面とカフカスから兵をアダナに移送し、中心部での最後の決戦を計画していましたが、10月30日にムドロス休戦協定が締結され、オスマン帝国の敗北が決定しました。
結果
メギッド作戦の開始から38日間で、イギリス軍は350マイル前進し、オスマン帝国ユルドゥルム軍集団を壊滅させました。イギリス軍の損害は、戦死者782名、負傷者4,179名、行方不明者382名でした。イギリス側は、オスマン軍捕虜7万6千名、火砲360門、機関車89両を鹵獲したと主張しています。
オスマン軍の敗因としては、士気の低下がよく指摘されます。実際に、オスマン軍捕虜は自軍の士気の低下、不十分な兵站、戦争自体への支持不足を訴えています。イギリスの情報部は、アナトリア、カフカス、ヨーロッパの戦闘師団と比較して、パレスチナ駐留兵の質が低下している点を指摘しました。さらに、捕虜の士気はガリポリ戦時よりも低下しており、特にアラブ兵は著しく低いとされました。
エドワード・エリクソンは、士気以外にも3つの敗因を指摘しています。戦略的には、戦場がカフカスやガリポリのように防御に適した地形ではなかったこと、作戦レベルではイギリス軍の欺瞞と集中によって、前線付近での軍団規模の部隊移動が可能になったこと、戦術レベルでは1917年から1918年にかけてイギリス軍が戦術を進化させたことが挙げられます。ザンデルスはガリポリ戦の経験しかなく、いかなる犠牲を払っても陣地を固守するという考えをメギッド戦でも持ち続けていました。一方、オスマン軍人に嫌われたファルケンハインは、大戦中盤のヴェルダン戦やルーマニア戦役に参加し、戦争の様相が変化していることを認識していました。つまり、土地に固執することなく、強力な反撃によって敵を粉砕するという大戦後半のドイツ軍の考え方にシフトしていたのです。ファルケンハインが指揮した第三次ガザの戦いでは、師団レベルの部隊が全滅するという状況は避けられました。しかし、柔軟な防御ではなく固定的な防御に固執したメギッド戦でのオスマン軍は、イギリス騎兵の大進撃を許してしまったのです。
メギッド戦における歩兵部隊、機動部隊、航空隊の3軍協同作戦は、後の電撃戦を先取りしたものでした。イギリスの軍事学者ベイジル・リデル＝ハートは、「メギッドという不滅の名によって永遠となったこの勝利は、構想の雄大さにおいて歴史上の傑作の一つである」と絶賛しました。アメリカ海兵隊も『WARFIGHTING』で、メギッド戦を高度な機略性を持った戦闘と評価しています。
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