メゾン・カレ

メゾン・カレ：古代ローマ建築の傑作

南フランスの都市ニームに位置するメゾン・カレは、西暦紀元前16年頃に建設された古代ローマ神殿です。類まれな保存状態を誇り、ローマ帝国の建築技術と美意識を今に伝える貴重な遺産として、世界中から注目を集めています。

建造から現在まで

当初はマルクス・ウィプサニウス・アグリッパによって建設され、その後、アウグストゥスの息子、ガイウス・カエサルとルキウス・カエサルを祀る神殿として再建されました。彼らはアウグストゥスの後継者として期待されましたが、若くして亡くなったため、彼らの霊廟としての役割も担ったと考えられています。

中世には碑文が失われましたが、18世紀に地元の学者がポルチコのファサードの跡からその内容を復元することに成功しました。4世紀にはキリスト教教会として転用され、その後も会議場や馬小屋、公文書保管庫など、様々な用途で使われてきました。19世紀初頭からは美術館として一般公開され、現在に至っています。フランス語の名称である「メゾン・カレ（Maison Carrée）」は「長方形の家」を意味し、その形状を表しています。

建築様式と特徴

メゾン・カレは、ウィトルウィウスの古典建築理論に基づいた典型的な神殿建築です。2.85メートルの高さの基壇の上に、13.54メートル×26.42メートルの長方形の建物が建ち、当時のローマ都市のフォルムに面していました。

正面はポルチコになっており、6本の美しいコリント式円柱がペディメントを支えています。内部には、20本の柱が壁に埋め込まれた「擬周翼式」の構造が採用されています。アーキトレーブは雨どいとしての機能も持ち、精緻な彫刻が施されたフリーズやコーニスなど、細部に至るまで洗練された装飾が施されています。内部空間は窓がなく、比較的狭くなっています。現在では、時折、展示会などが開催されています。

ローマ建築の特徴である、整然とした均衡のとれたデザイン、優雅な円柱、そして精巧な彫刻は、ギリシア建築の影響を強く受けていると考えられています。コリント式柱頭、真珠模様のアーキトレーブ、唐草模様やバラ模様などの装飾は、ローマ特有の華麗さを際立たせています。基壇の下には、神殿の記録や宝物などを保管する部屋があったと考えられています。

さらに、メゾン・カレは、エトルリア人から借用した基壇によって3メートルも高められており、建物全体に威厳を与えています。この基壇と、周囲の広場との一体的な構成は、ニームの建築家の創意工夫によるものであり、当時の都市計画の高度な技術を示しています。

修復と保存

メゾン・カレは、長年にわたって幾度もの修復工事が行われてきました。19世紀初頭には周囲の建物が取り除かれ、ローマ時代の姿を取り戻しました。ポルチコや屋根なども、19世紀から20世紀にかけて再建・修復され、現在もその美しい姿を保っています。1988年から1992年には大規模な修復工事が行われ、周辺の広場も整備されました。

後世への影響

メゾン・カレは、その洗練されたデザインと優れた保存状態から、後世の建築物にも大きな影響を与えました。パリのマドレーヌ寺院や、アメリカ合衆国のヴァージニア州議会議事堂など、新古典主義建築の代表的な作品にその影響を見ることができます。特にヴァージニア州議会議事堂は、トーマス・ジェファーソンがフランス公使時代にメゾン・カレの模型を制作したことが設計に繋がったとされています。

世界遺産登録

メゾン・カレは、人類の歴史上重要な建築物として、ユネスコの世界遺産に登録されています。その優れた保存状態、そしてローマ建築の技術と美意識を伝えるその価値は、未来へと受け継がれていくでしょう。

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