メタモルフォーゼン

メタモルフォーゼン：23の独奏弦楽器のための習作

リヒャルト・シュトラウスが1945年、81歳の時に作曲した「メタモルフォーゼン」（Metamorphosen, Studie für 23 Solostreicher）は、23の弦楽器のために書かれた作品です。この曲は、第二次世界大戦の終結間際に、ドイツが敗北へと向かう中で作曲されました。

「メタモルフォーゼン」は「変容」を意味する言葉で、この作品は変奏曲のように主題が展開されますが、主題に縛られず、より自由な構成で書かれています。弦楽合奏曲に分類されますが、各楽器が独奏のように扱われ、伝統的な弦楽合奏とは異なる特徴を持っています。作曲者自身が「習作」と題した背景には、このような実験的な要素があったのかもしれません。

作曲の経緯

作曲は1944年から1945年初めにかけて、ミュンヘン近郊の山荘で行われました。1944年夏に自作のオペラ『ダナエの恋』の初演が中止となった際、シュトラウスは「私の生活は終わった」と語ったとされています。しかし、彼はこの作品の草稿に「ミュンヘンを失いたるなげき」と書き記しており、戦火によって破壊されていくドイツの町並みや文化、そして劇場への悲しみと祖国への惜別の思いを込めて作曲を進めました。ベルリン、ドレスデン、ウィーンの歌劇場が破壊されたという悲報に接した際には、シュトラウスは「この苦痛の中」で、珍しい短調を基調としたこの曲を完成させたと伝えられています。

初演

シュトラウスは当初、この曲を自身の死後に発表しようと考えていたようですが、最終的にはパウル・ザッハーに委ね、生前初演を許可しました。1946年1月25日、ザッハー指揮のコレギウム・ムジクム・チューリヒによって初演されました。最後の練習では、シュトラウス自身が指揮し、その力強い指揮ぶりに音楽評論家が感嘆したと言われています。初演後、この作品はザッハーとコレギウム・ムジクム・チューリヒに献呈されました。

編成

この曲は、ヴァイオリン10、ヴィオラ5、チェロ5、コントラバス3という編成で、23人の弦楽器奏者のために書かれています。しかし、通常の弦楽合奏のようにパート分けされているのではなく、各奏者が独立した23のパートを演奏する、弦楽二十三重奏曲とも言える構成になっています。その書法は非常に緻密です。

音楽

この作品は、戦争によって失われたドイツの文化財や都市に対する「取りかえしのつかない消失についてのなげき」を表すために作曲され、戦争に対する抵抗の音楽であるとも言われています。曲は、緩徐な部分とややテンポの速い部分が組み合わされた3部構成、あるいは全体が無限旋律的に続く3楽章形式と捉えることができます。

ベートーヴェンの交響曲『英雄』の第2楽章「葬送行進曲」の動機が、この曲の根幹をなす主題として変奏されています。しかし、厳密な変奏曲形式ではなく、23の弦楽器がそれぞれ独奏的に奏でられるにもかかわらず、音質が均質なため、色彩変化を好むシュトラウスの作風としては特異です。

曲は、苦悩を秘めた美しい旋律で始まり、自作の交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』やオペラ『ナクソス島のアリアドネ』の主題、ワーグナーの楽劇『トリスタンとイゾルデ』のモチーフなどが織り込まれ、悲劇的に凝縮されていきます。そして、諦念に至るかのように再び緩やかな曲調となり、「葬送行進曲」の主題が低弦によって静かに奏でられ、全曲を閉じます。終結部には“In Memorium”と書き込まれており、この曲がドイツの死を悼む音楽であることが示唆されています。

この作品は、若き日のシュトラウスが交響詩『死と変容』で描いた観念的な死ではなく、現実の死、国家の死を描いた悲痛な音楽である一方で、シュトラウス自身が「我が過去の全生涯の反映」と述べているように、過去を追想することによる救済、肯定性も持ち合わせています。

参考文献

CDの解説書
『R.シュトラウス:交響詩≪死と浄化≫/変容/4つの最後の歌』（カラヤン指揮BPO）の解説（渡辺護）、ポリグラム、1996年 POCG-3601
『R.シュトラウス:管弦楽曲・協奏曲全集（Ⅰ）』 CLC-1064の解説（『ケンペの芸術 リヒャルト・シュトラウス管弦楽曲・協奏曲全集』、東芝EMI、1995年 CLC-1062~70 所収）
『R.シュトラウス:交響詩≪ドン・ファン≫他』 POCG-3797の解説（浅里公三）（『フルトヴェングラー・オリジナルスBOX』、ポリドール、1997年 POCG-90027/36 所収）

外部リンク

* メタモルフォーゼンの楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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