メディチ家礼拝堂

メディチ家礼拝堂とは

メディチ家礼拝堂（Cappelle medicee）は、イタリア・フィレンツェのサン・ロレンツォ聖堂に付属する複合施設です。この礼拝堂は、「新聖具室」と「君主の礼拝堂」という二つの主要な建物で構成されています。サン・ロレンツォ聖堂自体は、15世紀に建築家フィリッポ・ブルネレスキによってメディチ家の依頼で改築された教会であり、メディチ家礼拝堂は、この聖堂の拡張として16世紀から17世紀にかけて建設されました。

新聖具室

新聖具室（Sagrestia Nuova）は、ミケランジェロの設計による建築物であり、彼の最高傑作の一つとされています。この建物は、ブルネレスキとドナテッロが手がけた「旧聖具室」と対をなすように計画されました。ミケランジェロは建築家であると同時に彫刻家でもあり、新聖具室の内部には彼による数々の彫刻作品が展示されています。

歴史的背景

新聖具室の建設は、ヌムール公ジュリアーノとウルビーノ公ロレンツォという二人のメディチ家メンバーの若くしての死をきっかけに始まりました。彼らの叔父である教皇レオ10世は、ミケランジェロに彼らのための墓廟を建設するように依頼しました。旧聖具室が手狭であったため、新たな礼拝堂を建設する必要が生じました。

建設の経緯

ミケランジェロは、サン・ロレンツォ聖堂のファサード建設の契約を取り消された後、新礼拝堂の建設計画に着手しました。旧聖具室と対をなすように同じ形状で建設することが意図され、様々な装飾計画が検討されました。最終的に、ヌムール公とウルビーノ公の墓廟を壁面に、マニフィコと弟ジュリアーノの共同墓廟を祭壇に向かい合わせに配置する計画に落ち着きました。しかし、レオ10世の死により、計画は一時中断されました。

教皇クレメンス7世が即位すると、ミケランジェロは再び墓廟建設のために呼び戻されました。1524年には模型が作成され、大理石の調達も始まりました。1525年から1527年の間には、『夜』と『曙』を含む少なくとも4体の彫刻が完成しました。しかし、1527年のローマ劫掠とそれに続くフィレンツェでのメディチ家に対する反乱により、建設は再び中断されました。

メディチ家と密接な関係にあったミケランジェロは、一時的にフィレンツェを離れましたが、後にクレメンス7世によって建設が再開されました。しかし、1534年にミケランジェロはローマに移り、新聖具室の仕事は未完のままとなりました。最終的には、1545年に彫刻群が安置され、1559年にはコジモ1世の命により、今日の姿となりました。

新聖具室の彫刻

新聖具室には、ミケランジェロが手がけた『夜』と『昼』、『夕暮』と『曙』の彫刻が展示されています。これらの作品は、後の彫刻家たちに大きな影響を与えました。また、聖母子像や、メディチ家の守護聖人である聖コスマスと聖ダミアンの像も安置されています。1976年には、聖具室の下にミケランジェロのドローイングが残された隠し廊下が発見されました。

君主の礼拝堂

君主の礼拝堂（Cappella dei Principi）は、八角形の壮大な建物で、高さ59mのドームが特徴です。この礼拝堂は、遠くからでもその存在が際立っており、サン・ロレンツォ聖堂の主要な構成要素の一つです。この礼拝堂は、ベルナルド・ブオンタレンティが設計した円天井の地下聖堂に続いています。

設計と建設

君主の礼拝堂の建設は、初代トスカーナ大公コジモ1世の原案に基づいて始まり、第3代トスカーナ大公フェルディナンド1世が引き継ぎました。建築家マッテオ・ニゲッティが設計を担当し、1602年に非公式に行われたコンペを経て選ばれました。壁面は、彩色大理石と半貴石で飾られており、トスカーナ大公家は専門の加工工房を設立しました。

内部の装飾

礼拝堂の内部は、大理石や半貴石で埋め尽くされており、複雑な文様が特徴です。18世紀、19世紀には批判もありましたが、現在では当時好まれた様式として再評価されています。礼拝堂には6個の石棺がありますが、これらは空です。16枚に区分けされた装飾羽目板には、メディチ家支配下のトスカーナの紋章が表現されています。壁龕には、メディチ一族の有力者の肖像彫刻が設置されており、フェルディナンド1世とコジモ2世の彫刻はピエトロ・タッカの作品です。

まとめ

メディチ家礼拝堂は、ルネサンス期の美術と建築の粋を集めた壮大な複合施設です。ミケランジェロによる新聖具室と、豪華な装飾が施された君主の礼拝堂は、メディチ家の権力と富を象徴しています。これらの建築物は、今日でも多くの人々を魅了し、その歴史的、芸術的な価値は計り知れません。

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