アリストデーモス

概要

アリストデーモス（古希: Ἀριστόδημος, Aristodēmos）は、古代ギリシア神話に登場する重要な人物であり、名高い英雄ヘーラクレースの子孫であるヘーラクレイダイの一員として知られています。彼の父はアリストマコス、兄弟にはテーメノスとクレスポンテースがいます。彼はテーバイ王族アウテシオーンの娘アルゲイアーを妻に迎え、彼女との間に双子の息子、プロクレースとエウリュステネースをもうけました。アリストデーモスは、ドーリス人によるペロポネーソス半島への大規模な移動、すなわち「ヘーラクレイダイの帰還」という神話上の出来事において中心的な役割を担うべき人物の一人でした。

ヘーラクレイダイの帰還への参加

アリストデーモスは、兄弟であるテーメノスやクレスポンテースと共に、かつてヘーラクレスの血筋が支配していたペロポネーソス半島への帰還を企てました。この帰還は、ヘーラクレイダイにとっての悲願であり、失われた故地を取り戻すための壮大な計画でした。しかし、多くの伝承によれば、アリストデーモスはこの目的を果たすことなく、帰還の途上で命を落としたとされています。彼の死は、ヘーラクレイダイの帰還物語において、彼に割り当てられるはずだった領地の分配や、その後の歴史に大きな影響を与える出来事となりました。

死に関する様々な伝承

アリストデーモスの最期については、古代の著述家たちによっていくつかの異なる伝承が伝えられています。これらの伝承は、彼の死が単一の原因によるものではなく、様々な語り部によって異なった形で語り継がれてきたことを示唆しています。

神話集成を著したアポロドーロスによれば、アリストデーモスは、ヘーラクレイダイが帰還のための船を建造していたナウパクトスという地で、準備期間中に突如として雷に打たれて命を落としたとされています。これは、神の意志による、あるいはおそらく不慮の事故としての死を描写するものです。

一方、地理学者であり歴史家でもあったパウサニアスは、その著作『ギリシア記』の中で、アリストデーモスの死について二つの異なる説を挙げています。第一の説によれば、アリストデーモスはデルポイの神託所を訪れようとした際に、そこで祖霊ヘーラクレースが現れ、帰還計画の成功を予言されました。アリストデーモスがこの予言を信じ、神託を得ずに引き返そうとしたところ、その行動に怒った神アポローンによって矢で射殺されてしまったと語られています。神託を軽視したことに対する神罰として描かれています。

パウサニアスが挙げるもう一つの説は、より人間的な対立による死を示唆しています。この伝承では、アリストデーモスは、ミュケーナイ王アガメムノーンの娘エーレクトラーと、その夫ピュラデースの息子たちであるメドーンとエピストロポスによって殺害されたとされています。これは、ヘーラクレイダイと、彼らが故地から追いやったかつての支配者たちの血筋との間にあった根深い対立を反映した物語かもしれません。

別の伝承

上述の伝承とは全く異なり、アリストデーモスがヘーラクレイダイの帰還に成功し、ペロポネーソスに到達したとする説も存在します。この伝承によれば、アリストデーモスは他の兄弟たちと共に無事に帰還を果たし、スパルタの地を支配下においたとされています。しかし、この説においても、彼の生涯は長くは続かず、妻アルゲイアーが双子の息子たちを出産してまもなく、病によって死去したと語られています。この伝承は少数派とされますが、アリストデーモスが一時的にせよ帰還の目的を達成した可能性を示唆する興味深い異説です。

アリストデーモスの複数の死因に関する伝承は、古代ギリシア神話における伝承の多様性と、歴史上の出来事（ドーリス人の移動）が神話として語り継がれる過程での変化を物語っています。彼の早すぎる死は、息子たちプロクレースとエウリュステネースがスパルタの支配権を継承し、その後のスパルタ王家の双頭体制の起源となる物語へと繋がっていきます。

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