メミズムシ

メミズムシ (Ochterus marginatus)

メミズムシは、カメムシの仲間であるメミズムシ科に分類される昆虫で、学名を Ochterus marginatus といいます。体長は5ミリメートル前後と小型で、水辺の湿った地面などでよく見られます。この種は、メミズムシ属 (Ochterus) の中でも基準となるタイプ種として位置づけられています。

和名と学名の由来

「メミズムシ」という和名は、「眼のあるミズムシ」という意味合いから名付けられました。これは、タイコウチなどが属するタイコウチ下目の多くの昆虫が複眼のみを持つ中で、メミズムシ類は頭部のてっぺんに単眼を備えているという特徴に由来します。

属名である Ochterus は、ギリシア語の「小山のような」を意味する言葉から派生しています。一方、種小名の marginatus はラテン語で「縁取られた」という意味を持ち、この昆虫の形態的な特徴を示唆しています。

分布

メミズムシは旧世界に広く分布しており、具体的には旧北区、東洋区、エチオピア区でその姿を見ることができます。オーストラリア区については、分布が確認されているとする文献と、ニューギニアやオーストラリアからは発見されていないとする文献の両方があり、はっきりしていません。

日本国内では、北海道から本州、四国、九州、そして南西諸島の先島諸島（石垣島、西表島、与那国島など）にかけて広く生息しています。しかし、大隅諸島から宮古諸島にかけての地域からは、これまでのところ記録がありません。日本周辺では、極東ロシア、朝鮮半島、中国、台湾、フィリピンなどでも見つかっています。

形態

成虫

成虫の体長は4.1ミリメートルから5.5ミリメートルで、体は楕円形、あるいは角が丸くなった縦長の六角形のような形状で、背中とお腹が平たいです。背面はビロードのような質感の黒色をしており、灰色の小さな斑点が多数散りばめられています。この斑点は、光の当たり方によって見え方が変わるという特徴があります。

頭部は横に長く、頭頂には二つの単眼があり、その後ろには横方向の溝があります。複眼は大きく、背面から見ると頭部の両脇に丸く張り出しているように見えます。前方から顔を見ると、複眼は横長の逆三角形に見え、まるで少し厳めしいサングラスをかけているような印象を与えます。触角は短く、複眼の下に付いていますが、背面からも確認できる程度の長さがあります。口吻（こうふん）は4つの節からなり非常に長く、先端はお腹の部分まで達します。

前胸は丸みを帯びた横長の台形で、後ろの縁の中央部がわずかにへこんでおり、その部分が狭く黄色っぽい色をしています。前胸の前側にある平らな部分も黄褐色です。翅は腹部の背面全体を覆い隠し、前側の縁が狭く黄色く縁取られています。興味深いことに、常に右側の翅を上に重ねています。脚は細く黄褐色をしていますが、基節や腿節の上側、腿節と脛節の関節部などは黒褐色です。前脚は他のカメムシの一部のように捕獲用に特殊化しておらず、三対ともほぼ同じ形をしていますが、後脚はやや長く発達しており、跳躍に適しています。跗節（ふせつ：脚の先端部分）は3つの節で構成されています。

オスの交尾器は左右非対称の構造をしており、特に右側の把握器（はあくき）の先端にある二つの逆向きの突起のうち、一方が非常に細いことが、この種を見分ける重要な特徴の一つとされています。

沖縄県の個体群については、「沖縄諸島で見られるものはやや小型で、別の亜種である可能性がある」という指摘（宮本、1985年）がありますが、その後の研究で特に区別されるまでには至っていません。

幼虫

幼虫も成虫と同様に背中とお腹が扁平ですが、体の輪郭は成虫よりも円形に近い楕円形で、ナベブタムシに似た形をしています。最も成長した終齢幼虫の体長は約4ミリメートルです。体の表面には細かい毛がまばらに生えており、全体に光沢のある黒褐色をしています。前胸の側面や腹部の各節の後ろ側の角は、狭く淡い色をしています。しかし、胸部やお腹にある皮膚腺から分泌される粘液を利用して、砂粒や泥、小さな石などを体の背面にたくさん付着させ、周囲の環境に溶け込むようにカモフラージュを行います。頭部の前縁には、上向きに並んだ太い棘があります。脚は淡い褐色で、三対とも同じ形をしており、跗節は1つの節からなります。

生態

メミズムシは、河川のほとり、池沼、湿地、水田など、水辺の湿った環境に広く生息しています。湿った泥の上などを活発に歩き回り、短い距離を跳躍したり飛翔したりする様子が頻繁に観察されます。食性は肉食性で、主に小型の昆虫やその他の小動物を捕らえて食べると考えられています。

分類と近縁種

メミズムシ (Ochterus marginatus) は、メミズムシ属 (Ochterus) の基準種であり、メミズムシ属自体もメミズムシ科の基準となるタイプ属です。したがって、このメミズムシの特徴が、これらの上位分類群の基本的な特徴を定める基準となっています。

メミズムシ科

メミズムシ科には、メミズムシを含め多くの種類が存在し、互いによく似ている種も少なくありません。これらの似た種同士を見分ける際には、主にオスの交尾器の微細な形態が重要な手がかりとなります。しかし、日本国内にはメミズムシ科の昆虫は本種のみが確認されているため、日本で見られるものに限れば同定は比較的容易です。

世界全体では、メミズムシ科には現在3つの属が分類されています。世界中に広く分布するメミズムシ属 (Ochterus)、オーストラリアに固有の Megochterus 属、そして南アメリカに固有の Ocyochterus 属です。

ミズギワカメムシ科

メミズムシ科とは異なるミズギワカメムシ下目 (Leptopodomorpha) に属するミズギワカメムシ科 (Saldidae) の昆虫には、外見や色彩がメミズムシ科の種に一見して似ているものがいます。しかし、ミズギワカメムシ科の種は触角が頭部の幅よりも明らかに長いという特徴があります。一方、メミズムシ科の種は触角が頭部の幅よりも明らかに短いことから、この触角の長さで両者を容易に見分けることができます。ミズギワカメムシ科は世界中から約350種が記録されており、日本からも8属24種が見つかっています。

人との関係

メミズムシと人間の生活との間に、直接的な関わりは知られていません。

原記載とタイプ産地

この種は、フランスの動物学者ラトレイル (Latreille) によって1804年に Acanthia marginata という学名で初めて記載されました。原記載文には、タイプ産地について「フランス南部、ただし非常に稀。筆者は友人のDargelasからボルドー産のものを受け取った」と記されています。

亜種

現在、メミズムシは以下の二つの亜種に分けられています。

オオメミズムシ (O. marginatus marginatus (Latreille, 1807))
広く分布しており、日本に生息する個体群もこの亜種に分類されています。
O. marginatus insularis Rieger, 1977
フィリピンのミンダナオ島にのみ分布しています。

前述の通り、沖縄産の個体が小型であることから別の亜種である可能性も示唆されていますが、現在のところ公式には上記の2亜種に分類されています。

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